ふるさとの味 | 香散見草

香散見草

三者三様徒然記+
~テーマごとに綴る三人の随筆PLUS ONE~

【最後の晩餐】

【enmei】

 

 わたしが人生最後に食べたいもの。実はもうとっくに決めていて、覚えているかはともかく、既に娘にも話したくらい。

 わたしが人生最後に食べたいもの。それは、「釜揚げ」だ。ふるさとの海でとれるイカナゴの稚魚「小女子(コウナゴ)」を釜揚げにしたものである。毎年2月末から食べることができる、春を告げる味である。

 3~5センチほどのものが柔らかくて美味しい。イメージとしては「シラスの大きいの」だが、わたしにとっては似て非なるものである。これを、酢醤油で食べる。ご飯が何杯でもすすむ。1ヶ月もすると育ってしまい大味になる(個人の感想です)。2~3週間しか味わえないのだが、その時期は鮮魚店やスーパーなどによく並んだから、毎日せっせと食べた。なにせ、次に食べられるのは1年後なのだから。

 さて、地元ではここ10年ほどコウナゴの水揚げがなく、禁漁が続いているそうだ。帰省しても食べられない、幻の味となった釜揚げ。全国的にも不漁で、場所を変えても食べられなさそうだ。わたしは、釜揚げを夢に見たまま死ぬことになるのだろうか。もう一度言う。シラスとは違うのである。