台風が来るぞ、来るぞと天気予報が脅すから、仕事もそこそこにして、パパは家に帰って来ました。

最寄り駅から自宅までは、徒歩で約10分ぐらいでしょうか、風が強かったから、傘はたたんだまま、薄くなった頭の地肌で霧雨を受けながら、足早に歩いてきました。

じわじわと服に染み込む水分も気にはなったけど、 家に着いたら、どおせお風呂でシャワーを浴びるつもりだったから、まあ、いいか……。

家に着いて、「ただいま」と言っても返事がありません。

音楽やネット予備校を聞きながらの受験勉強の息子には声が届いていないのかもしれません。

そうは思っても、父一人子一人の生活は味気ありません。

もう一人いるのを忘れていやしませんか!

 飼い犬の"ロンロン"が2階からなだれのようにかけ降りて来て、パパに飛びつきます。

 「ダメだよ、ダメだってば。」

 「ちょっと待って、ちょっと待って!」

"ロンロン"にはパパの笑顔と怒った顔の区別がつきます。

だから、顔で笑って、声で叱ったのではききません。

「やめなさい、ロンロン!」
恐い形相でにらむと効果てきめんです。

(ぼかあ、そんなつもりじゃなかったんだ……。)

しょんぼりって風にするから、

「そうか、そうか、パパが早く帰って来たから嬉しいんか……。」

> (そう、そう、パパよく分かったね。)

再び飛びつきます。

「こら、こら、イタイ、イタイ……。」

そう言って、パンツいっちょのパパは逃げるのです。

台風来襲は、午後からが3時に、3時が夕方に延びています。

台風が永久にノビテ(ダウン)くれればいいのに、引き際を知らぬ諦めの悪い台風だと、"ロンロン"に語って聞かせるのですが、

(そんなことより、いつお散歩するの……?)

目で語っていて、その目がかわいかったから、写真でパチリ!


「今日は台風で、日本全国、特に関東地方はお散歩できないんだ。」

そう言い聞かせていたら、ゆとりに包まれたパパは"ロンロン"の大好きなMさんに、

「今日は台風のため、お散歩は中止しました。」

するとMさんから直ぐに、

『あらあら、今日は、我慢だね!?』

パパはいつもお散歩に持参するビスケットを、特別に"配付"することに……。

 (しゃあない食べてやるか、でも、承知した分けではないよ。これはこれ、それはそれ、お散歩はお散歩!)

"ロンロン"様はふて寝です。


パパが椅子から立ち上がると、"ロンロン"の目は期待に輝きます。

パパが椅子に座ると、がっかりしてふて寝です。

こんな関係はけっしてよくありません。

期待させて裏切っているようです。

パパが悪いのです。

極悪非道です。

忠実な僕(しもべ)の心を踏みにじっているのです。

それに人の喜ぶ姿は見ていて気持ちのいいものです。

 "ロンロン"は人ではありませんが……。

パパの心の葛藤をMさんは知ってか知らぬか、

お散歩途中のカエル模様の雨がっぱを着た"ロンロン"の真剣でかつ嬉しさの気持ちを、尻尾満面であらわした写メを見て、


「あ~あ」

太いタメ息を洩らしたメッセージをMさんは送って来るのでした。