第八話『超怪人 0 【ラヴ】』 後編



「オイ、サキ、何やってんだよ」
「あ、マサト、ちがうよ、何もやってないよ じゃ金子君、また今度ね」
金子が頭をかしげて納得のいかない顔でその場を立ち去った。
マサトはサキに、今金子と何を話していたか聞いた。
「え、ナニよ、ただあいさつしてただけじゃない」
「何を慌ててんだよ、オレに聞かれたらマズい事でも話してたのか?」
しばらく俯いていたサキが顔を上げて云った。
「わかったわよ、全部見てたんでしょ?」
そう開き直った態度を一度は見せたサキだったが、すぐに反省した様子になりマサトに云った。
「お願いマサト、宿題を金子君に頼むのはこれで絶対最後にするから今回だけ見逃して」
そう云うとそのサキの顔がいつの間にか、超怪人0に変わった。そして0は云った。
「どうだニューロン、これが現実だ、お前はニューロンという力を手に入れ人の心を見た、その結果どうだ?人間という生き物は矛盾に満ちている事がよくわかっただろう・・・例えば嘘・・・人は誰しも嘘をつく、その嘘全てと戦うつもりか?いいか、ニューロンの力は今にお前自身を壊してしまうぞ、一つの体に二つの力、お前はやがて人の心というやっかいなモノに引き裂かれて自分自身を壊してしまう事になるぞ!・・・フフフ・・・オレの忠告を忘れるなよ・・・ニューロン・・・フフフ・・・」
ニューロンは完璧な敗北感に打ちのめされその場に崩れ落ちた。
ニューロンは地面に四つん這いになり何ひとつ考えられずにいた。
「仕方ない・・・助けてやるか・・・」
そう0は呟いた。
「ニューロン!」
突然超怪人0は大声で言った。ニューロンがふと顔を上げると同時にまたも超怪人0のサイコビジョンがマサトの胸に命中した。
マサトはサキの部屋にいた。もちろんサキにはマサトの姿は見えない。
部屋の外から誰かの怒鳴り声が聞こえる。気付くとサキは泣いている。
<おい、酒がないぞ、買って来い!>
<キャー>
女性の悲鳴はおそらくサキの母親の声だろうとマサトは思った。
「サキ、お願い、コレでお酒買ってきて」
サキの部屋に駆け込んできた母親は、手の中で丸まった千円札を二枚サキに差し出した。母親は唇の端から血を流している。顔もひどく腫れている。
「お母さん大丈夫?」
サキは倒れ込んできた母親を抱きしめるように受け止めた。
「ねぇ、お母さん、もう警察に電話しようよ、それしかないよ」
「だけど暴力の事がバレたらお父さん会社をクビになってしまうわ」
「大丈夫よ、ワタシバイトしてるし、いざとなったら学校やめて働くよ、ね、警察に電話しよ!」
そう云うとサキは携帯で警察に通報した。
<オイ!酒がねえぞ、早く買って来い!>

玄関のベルが鳴った。サキは走って玄関の扉を開けた。警察官が2名入って来た。
「な、なんだ!誰が警察を呼びやがった!お前か!」
そう云ってまた母親を殴ろうとして、父親は警官に取り押さえられ後手に手錠をかけられた。
「お前等!誰が食わしてやってると思ってんだ!恩知らずめ!このうらみは、決して忘れねぇからな!」
「いいから来い、あ、奥さん今救急車を呼びました、手当てが終わったら署まで来て調書とらせてください、さ、行くぞ!」
「クソッ、テメエらブッ殺してやる!」

サキの家の近くの公園。公園の真ん中に立っている丸い時計は午前0時をさしている。サキとマサトはブランコに黙って座っている。
最初に口を開いたのはサキの方だった。
「マサトくん、ごめんね、宿題の事で2度も嘘ついて、ワタシって最低だよね・・・」
そんな事ないよ、オレもサキにこんな事情があったなんて知らなかったよ」
サキはまた泣いている。しかし何かを決意した顔になり云った。
「これから帰って宿題するよ、寝ないでも必ずやるからね」
「うん・・・・・」
ブランコから立ち上って少し歩いてからサキは振り返ってぎごちなく笑い、じゃ明日また学校でね、と云って走って行った。
マサトはなかなかブランコから立ち上る事ができなかった。ニューロンという力についてどう考えればいいか、マサトはただ呆然とするしかなかった。そんなマサトを丸い時計の上に立った超怪人0は腕組みしながら見ていた。

第七話 後編 完

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