第五話『怪人ティーフ』



 英語の授業。教師が英語の Th の発音を教えている。そして一人づつ順番に The の発音をやらされている。
「よし、じゃ最後に帰国子女の大沢君に Th の発音の正しいものをやってもらおう」
大沢が立って得意気に Th の発音が含まれる単語を次々に云う。
「The There Thankyou Throw Thief(ティーフ)」
皆がやれやれという顔をしている。

マサトが街を歩いていると偶然大沢を発見した。大沢は電気店に入って行った。
 マサトが大沢に声をかけようとすると、彼は棚から乾電池を2パック取ってこっそりポケットに入れた。
 そして大沢は出口付近に目をやった。大沢の視線の先にはバッグを下げて店を出て行こうとしているOL風の女性がいる。大沢が彼女に声をかけた。
「え?」
「あ、ごめんなさい、知り合いでモデルやってるお姉さんにそっくりだったから間違えました」
 言いながら大沢は何食わぬ顔をして女性が腕から下げていたバーキンと思われるバッグの中に乾電池を1パック入れた。
「え。モデルのお知り合い?まぁ・・・」
 女性はまんざらでもない顔で店を出て行こうとした。そのとたん万引き防止用のサイレンがけたたましく店内に鳴り響いた。たちまちガードマンが女性の腕をつかんだ。
「ちょっとお客さん待ってください、バッグの中身を拝見しても・・・」
 サイレンが鳴り続けガードマンと女性がもめている横を大沢は知らん顔で出て行った。大手をふって出て行ったのだ。

マサトは大沢を追った。路地を曲がった所で大沢に追いついたマサトは彼に声をかけた。
「おおマサト、偶然だな」
「ああそうだな・・・ところで大沢、お前さっきの店で何かポケットに入れただろ」
「アア、見られてたかフフフ・・・コレだろ、欲しいのか?ほしけりゃやるよ、オレはべつにほしくてやったわけじゃないしな」
 大沢は悪びれる様子もなく乾電池をマサトの目の前につき出した。
「バカヤロウ、そんなものいらねぇよ、それよりさっきの店に戻ってそれを返して謝ってこいよ」
 すると大沢は一瞬 信じられない という顔をして首を左右に振った。
「ハッハッハッハッ、マサト、お前ウケるよ・・・え・・お前まさか本気でそんな事云ってんのか?マジかよ・・・こんなものくらいでナニギャーギャー言ってんだよ・・・第一よ、盗られる方がマヌケなんだよ、そう思わねの?」
「全く・・・少しも・・・思わねえよ!」
 マサトはそう言った次の瞬間、大沢の中にサイコダイブし化面ライダーニューロンへと変身した。

 暗闇に待っていたのは大沢の心に潜む怪人ティーフだった。
「怪人チーフ、お前、万引きなんかしていいと思ってるのか?」
「チーフじゃない、ティーフだ、ハッハッハッ」
「うるさい!」
 ニューロンは強い視線でティーフを見た。
「お前わかってないな、全然わかってねぇ」
「え?ナニがわかってないんだよ」
「商品の値段っていうのは人と人との約束なんだ、その約束を無視すると人は死ぬ事もあるんだ、それがわからない  のか?」
「人が死ぬ?ナニ言ってんだよお前・・・フフ」
「よし、教えてやるよ大沢」
「サイコビジョン!」
 ニューロンの指から発射されたビームによって3Dビジョンが現れた。
 そのビジョンに浮き上がったのは大沢家のリビングだった。リビングでは大沢の父親が頭を抱えている。
「どうしたのパパ?」
 すると横から母親が云った。
「パパの会社の社運をかけて開発した新商品の情報が盗まれていたのよ・・・それであっという間に他社が独占販売を発表する事がわかって・・・」
 母親は涙ぐんでそれ以上言葉にできなかった。
「あれはオレ達が10年の歳月と数十億をかけたプロジェクトだった・・・ああ、もう終わりだ」
  一瞬の出来事だった。突然父親が立ち上がり駆け出し、高層マンションのベランダを越え飛び降りてしまった。それはあっという間の事で大沢も母親も止めるどころか動く事もできなかった。
落ちてゆく大沢の父親。大沢はベランダのフェンスから腕を伸ばした。間に合うはずもないのに。
「パパー!!」
 大沢は喉が破れるくらいの叫び声を上げた。まるでスローモーションのように死に向かって落ちてゆく父親。大沢の目から流れる涙も次々に落ちてゆく。もはや地面に激突する寸前、時間が止まった。
その時大沢の耳元で声がした。
「盗んだ結果こんな事になる事もあるんだ、それでもお前はまだ、盗まれた方がマヌケ、なんて言えるのか?」
「オレは・・・オレはなんで万引きなんか・・・」
 大沢の目から溢れる涙が震えているのを横目に見て、今まで大沢の隣にいたニューロンが瞬時に地上1メートルの高さに移動し、両腕で大沢の父親を受け止めた。

 翌日マサトはまたあの電気店の前を通った。電気店の中では母親と一緒に店員に頭を下げる大沢がいた。電気店のショウウインドウに並ぶテレビのニュースで、産業スパイが逮捕された、という報道がされている。商品の権利は無事、株式会社大沢テクノロジーの元に戻る見込み、とアナウンサーが伝えた。

          化面ライダーニューロン 

           第五話「怪人ティーフ」

     
                    ー完ー




--------------------------------------------------------------------------------

関口誠人オフィシャルブログ「セキグチMaコト超個人的日記」Powered by Ameba
関口誠人オフィシャルブログ「セキグチMaコト超個人的日記」Powered by Ameba
関口誠人オフィシャルブログ「セキグチMaコト超個人的日記」Powered by Ameba
関口誠人オフィシャルブログ「セキグチMaコト超個人的日記」Powered by Ameba