販売局長が薦める世界日報の特徴は、新聞による新聞(メディア)批判である。

野田政権発足前に鼻を明かす新聞辞令どころか外れが目立った各紙

◆読みが浅い政局記事


 野田新内閣をめぐって新聞も迷走した。も、としたのは昨日付の本欄で週刊誌が野田首相を想定していなかったとあったからだが、新聞も同様に海江田VS前原の構図を描き、野田氏は泡沫扱いだった。記事の出どころは言うまでもなく政党や政治家に張り付いている政治部記者だ。それにしても今回の政局では“外れ記事”が多かった。

 まず党人事。焦点は党運営の要となる幹事長だが、野田氏は8月30日昼に輿石東参院議員と会い、「輿石先生しかいない」と幹事長就任を求めた。これを30日夕刊が報じた。朝日1面トップは「輿石氏に幹事長要請」が主見出しで、「衆院、野田首相を選出」がサブ。読売も「輿石氏に幹事長打診」をトップに据えた。

 ただ、朝日は「要請」、読売と日経は「打診」としており、ニュアンスに差異がある。細かい話かもしれないが、要請とは「強く請いもとめること。必要とすること」、打診は「相手にちょっと働きかけ、その反応によって相手の意向・様子を探ること」(広辞苑)で、厳密に言えば、かなりの差がある。

 結果的には野田氏が輿石氏に幹事長就任を強く請い求めたのだから、朝日の「要請」が正確と言えよう。ただし、朝日の本文記事は「打診」としており、リード文にのみ「要請」とある。リード文は現場からの記事だけでなく、デスクでまとめられることが多いから、打診か要請かで熟考したのではあるまいか。ましてや1面トップ見出しだ。ここは朝日の整理デスクが褒められてよい。

 なぜ政治部記者は朝日を含めて「打診」と記したのだろうか。言葉遣いが安易なこともあろうが、読みの浅さがあったのではないか。野田氏は小沢氏に近い輿石氏に幹事長就任を求めることで、断られても党内融和が演出できる。そんなふうに読んだのではないか。読売記事には「『あなたしかいない』と幹事長就任を打診した」とあるが、野田氏が「あなたしかいない」とまで言い切っているのに打診とするのは言葉の使い方としては誤謬である。


◆固辞で外した毎・日


 打診どころか、もっと読みを外したのが毎日と日経である。毎日は見出しに「輿石氏、固辞か」とし、記事には「幹事長就任を打診したが、輿石氏は固辞したとみられる」としている。見出しに固辞を使うぐらいだから、よほど自信があって断るに違いないと思ったのだろう。

 日経も見出しは「打診」だが、記事は「輿石氏は固辞した」と、こちらは断定している。朝日が「輿石氏は明確な返答をしなかったという」としているように、この時点で輿石氏は固辞つまり固く辞退などしていない。それを日経は当て推量で断定してしまった。見出しにしなかったのが不幸中の幸いと言うべきか。

 次いで組閣である。閣僚人事は政治部にとって勝負どころで、特オチは許されず、すっぱ抜けば鼻が高い。それで新聞辞令が飛び交うことにもなる。読売3日付は組閣舞台裏を総括し、「岡田氏の固辞 誤算/首相、意向読み違う」としているが、誤算、読み違いを繰り返したのは、首相だけでなく当の読売だった。


◆岡田氏に拘った読売


 読売は31日付で「海江田氏、重要閣僚で調整」としたが、海江田氏が重要閣僚で調整された痕跡はない。毎日3日付に同氏は「『財務省内閣』ですよ。私は増税反対と言ったから入閣はないと思っていました」と述べている。読売は何を根拠に海江田氏が重要閣僚と読んだのか、分かりづらい。

 何と言っても読売はどこよりも岡田氏にこだわり続けてきた。これは野田首相がそうだったからだが、1日付には「官房長官 岡田氏で調整」とし、組閣の日の2日付は「官房・藤村 財務・岡田氏」を1面トップ見出しに据えた。ここでは岡田氏を財務相に起用するなど「閣僚人事を内定した」と、内定とまで書いている。よほど岡田財務相に自信があったのだろう。ところが、その日の午後、蓋を開ければ財務相には安住氏が就いた。内定は誤報の謗りを免れない。

 岡田氏は“原理主義者”とも称される。その固辞の固さが読めなかったとすれば、記者としては何とも情けない。読売だけでなく、他紙も似たり寄ったりだ。

 読者にとっては政治部の力量こそ誤算だった。  (増 記代司)