皇室制度改革が本格化、旧宮家養子案と女性皇族残留に潜む「アキレス腱」と制度の罠──専門家が危惧する盲点とは
現在、国会で検討されている「旧宮家(旧皇族)の男系男子子孫を養子に迎える案(旧宮家養子案)」と、「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」。皇位継承資格を持つ次世代の男性皇族が悠仁さまお一人という状況において、この議論は極めて重要な局面を迎えている。
しかし、その実効性、さらには憲法上の論点について、国民的な理解が十分に深まっているとは言い難い。長年、皇室制度の動向を注視してきた、皇室解説者の山下晋司氏へのインタビューをもとに、皇室が真に安定するための「現実的な選択肢」を探ってみた。
30年前から始まっていた宮内庁の「危機管理」
今回の国会で急に浮上したかのように見える、皇位継承につながる安定的な皇族数の確保について、山下氏によれば、宮内庁が水面下で調査・研究を始めたのは、1990年代半ばごろだったという。
「1993年に当時の皇太子殿下と雅子妃殿下が結婚されて2年、3年と経過しても、お子さまがお生まれにならなかった。皇太子殿下、秋篠宮殿下の次の世代の男性皇族がいらっしゃらないという状況で宮内庁が調査・研究をするのは当然のこと。当時、2人の職員を王室研究のためヨーロッパに派遣した際、宮内庁は皇位継承とは関係ないと言いましたが、それを信じた記者はいなかったと思います」(山下氏)
それから10年近い歳月をかけて膨大な資料を作成し、2005年に小泉純一郎首相が設置した有識者会議へとつながっていく。当時、同会議が提出した報告書は「女性・女系天皇を容認し、性別に関係なく長子優先とする」という明確な結論を出していた。
しかし、2006年2月に秋篠宮妃紀子さまのご懐妊が発表されたことで、政府は皇室典範改正案の国会提出を見送った。この歴史的な転換からさらに20年が経過した現在も、根本的な解決は先送りにされ、議論の浮沈を繰り返してきたのである。
旧宮家養子案を導入する場合、これが「今回限りの特例措置」なのか、それとも「恒久的な制度」にするのかも決まっていない。どちらにしても憲法違反の疑いはあるが、「恒久的な制度」にした場合、一般国民の中に「子々孫々にわたって皇室に養子に入る資格を持つ、特別な家柄(旧皇族の末裔)」を固定化することになり、門地の差別を禁じた憲法違反の疑いが強くなる。
「恒久的な制度になれば、国民が『憲法違反だ』として国を相手に訴訟を起こした場合、国側が負ける可能性が高くなると思っています」(山下氏)
確かに、この旧宮家養子案を否定するわけではないが、やはり一般国民として生きてきた旧宮家の子孫を特別視することには、すっきりしない違和感が伴う。制度の運用については、法的に納得できる理屈、あるいは、旧宮家についての歴史と戦後の経緯を正しく国民に伝える努力をしていかなければならないだろう。
旧宮家男系男子の養子縁組を阻む「デリケートな運用面」
養子案が目指す理想は、江戸時代の「四つの世襲親王家(伏見・桂・有栖川・閑院)」と本家を合わせた「5つの家があれば皇位は安泰」というモデルかもしれない。
ただ、1954年時点で昭和天皇の次の世代に皇位継承資格を持つ男子は5人いたのに、わずか70年ほどしか経っていない現在、悠仁さまお一人という状況になっている。小泉政権時の有識者会議でも、旧皇族の男系男子子孫に皇室に入っていただくことも検討されたが、皇位を男系男子に限定したままだと、将来、また先細りになる可能性があるとされた。
では、実際に皇族として迎え入れることができる「人数」はどのくらいなのか。現在、週刊誌などの報道では、旧皇族の男系男子子孫(未婚)は、11人程度が存在するといわれている。次に立ちはだかるのは「誰が、どのように当事者の意思を確認し、どこの宮家へ入るのか」という極めてデリケートな運用面の問題である。
現在、内閣は一般国民である彼らに意向を打診することは法律違反となるため、水面下で情報収集を行っているものと推測される。もしこの養子案が通ったにもかかわらず、「誰も手を挙げない」という事態になれば、せっかく苦労して法案を通したにもかかわらず無駄になる可能性もあるが、実はすでに水面下で打診し、養子の内諾が得られた人がいるとの憶測もある。
「実際に養子縁組を進めるプロセスには、宮内庁も関わるでしょうが、まずは受け入れ側となる皇族(常陸宮家、三笠宮家、高円宮家など)と、養子に入る側の本人・両親の双方が『合意』することです。最終的には皇室会議の了承が必要になるでしょうが、男性皇族の結婚と同様の手順になると思われます」(山下氏)
しかし、対象となる若者の人数が「11人程度」と限られている以上、法案が成立した瞬間にメディアによる凄まじい取材攻勢が始まるのは確実だ。山下氏は、加熱する報道合戦とそれに煽られる世論を懸念している。「大手の週刊誌は、手ぐすねを引いて待っています。一般人として生きてきた旧宮家の若者たちやその家族が、プライバシーを暴かれる過酷な狂騒にさらされることは想像に難くありません。
「今回限り」か「恒久制度」か、旧宮家養子案がはらむ“違憲リスク”
現在、国会では「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」と「旧宮家の男系男子子孫を養子に迎える案」の2案が並行して検討されているが、山下氏は「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」は中途半端だと断言する。また、「旧宮家養子案」には、憲法解釈と運用面において、二つの大きな障壁があるという。
皇族となった後も、国民からの視線は大きなプレッシャーになるでしょう。そういったことを踏まえた上で皇室に入っていただける人がいれば、われわれは受け入れるべきだと思います。 皇室に入った後は、未成年であれば公務はせずに学業に専念し、成年後は少しずつ時間をかけて、国民との関係を築いていけばいいと思います。
そして、その後に生まれた子供は、国民が誕生時から見守ることになりますので、30年先、50年先には今の皇族を見る目と同様の目で見ることができるのではないでしょうか」(山下氏)
「結婚か、皇室残留か」女性皇族に突き付けられる重い選択
そして、もう一つの検討案である「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」にも罠がある。仮に愛子さまや佳子さまが結婚して皇室に残ったとしても、その「夫や子供」の身分を一般国民のままとする方向で議論が進んでいる。つまり、皇族と一般国民という戸籍が違う家族になるということだ。
また愛子さまや佳子さまにとっても、皇室に残るか、皇室を出て一般国民となるか二者択一で悩まれることは十分に予想される。ましてや天皇皇后両陛下をお助けしていきたいと明言している愛子さまは、結婚よりも皇室に残るという選択を決断されるかもしれない。そのために生涯独身を貫いたとしたら、果たしてそれがひとりの女性として賢明なことなのかどうか、多くの国民の中で議論が巻き起こるだろう。
では、どのように改正すればいいのか。さまざまな意見がある中で、国民の理解も得られる落としどころはあるのか。皇室典範改正議論をわかりやすく伝えようと、YouTube「山下晋司の皇室解説」での発信を始めた山下氏に具体的な改正案を聞いた。
「女性天皇も女系天皇も認める。ただし皇位継承順位は『男系男子優先』とする。併せて、養子もできるだけ多く入っていただく。そのためには現在対象とされている11宮家の子孫に限らず、もっと以前に皇室を離れた人の男系男子子孫も含める。男系男子の養子が多くなればなるほど、女性・女系天皇が生まれる確率は低くなる。現在のようなお世話の体制のまま皇族が増えれば国費負担が大きくなるので、お世話の体制も見直す──。
概略だけお話ししましたが、いま議論されている案より、こういった改正の方が国民に分かりやすく、皇室にとってもいいのではないかと思っています。もちろんこの案にも問題はあり、すべての人が納得するわけはありませんが、落としどころとしては検討してもいいのではないでしょうか」(山下氏)
山下氏が提示する制度改正の処方箋は、現在の膠着した議論を打破する極めて明快なものであり、制度運用の面でも一定の現実性を備えた提案といえるかもしれない。今国会の会期末に向け、立法府の総意をまとめるための政治的駆け引きは最終局面を迎えている。政治家たちは目先の党利党略や保守・リベラルのイデオロギー対立を排し、100年先の皇室の尊厳と悠仁さまの人生を守るための、「真に持続可能な決断」を下さなければならない。
ましてや皇族方は、秋篠宮さまが話されたように「生身の人間」なのだ。
皇室の方々や旧宮家の方々の人生にも配慮し、心ある結論に達してもらいたいと切に願う。

