ウナギは淡水魚図鑑に必ず乗っているが、海水魚図鑑で取り上げられることは極めて稀。しかし、ウナギは、海水魚でも淡水魚でもない。一生のうちに海と川を行き来する「通し回遊魚」と呼ばれるグループの魚だ。

繁殖は、生物の生活史の中で最も重要なイベントなので、それが行われる場所は特別な意味を持っている。広い海の中でも、特別な地域にこだわりがある。だからウナギはむしろ海水魚と理解した方が正しい。


ウナギ目魚類の太古の祖先は、おそらく最初はムカシウナギのように沿岸域で派生し、外洋の中深層へ進出して行った。最近の分子系統解析の結果、うなぎの起源を探る有力なヒントが得られた。うなぎに最も近縁なのは外洋中深層に棲むフウセンウナギ目やシギウナギ科、ノコバウナギ科の魚類だった。そのあと深海魚との共通祖先から袂を分かって沿岸・淡水域へ入るようになったものが海と川の間で回遊する現在の鰻になった。

一方、アナゴ、ウツボ、ウミヘビ、ハモなどのウナギ目の仲間はすべて海水魚で、川へ遡上することはない。またウナギは海で産卵し、海水中で卵発生が正常に進む。これらのことは、ウナギが熱帯の海に海水魚として起源したことを強く示唆している。


ウナギは他の魚に比べて、低酸素環境に強いメリットを持ってる。ウナギの特徴ともなっているぬるぬるの粘液が、陸上における呼吸と体の保護の役目を果たし、陸上長距離移動を可能にした。ウナギはほとんど鉛直に切り立った壁もよじ登ることができる。利根川から遡上してきたウナギが、100メートル近く落差のある日光の花厳の滝を登って中禅寺湖へ入ったと言う例もある。


サルガッソ海は、サルガッスムと呼ばれるホンダワラ類の海藻に絡みついて難破してしまう。そのため帆船時代の船乗りたちから「船の墓場」とおそれられていた場所だった。そんなサルガッソ海でウナギが生まれ、はるばる数千キロメートルも旅をしてヨーロッパまでやってくるというシュミレットのロマンに満ちた新説に人々は大いに驚いたと思われる。1922年と1925年に論文が発表され、新説はやがて定説になり、シュミレットの発見は人々を驚かせた。