得意なテーマを一つ持つことに挑戦する「世界探求プロジェクト」が最終回を迎えました。現時点で、すでに模造紙やノートへのまとめが終わっている子と、これから色塗りなどの最後の仕上げに取りかかる子の両方がいると思います。それぞれが全力を注いできた探求学習。最後まで質にこだわって完成させてほしいですね。

 

 

今回の記事では、プロジェクトの締めくくりとして、この活動の目的と振り返りを書きます。そもそもなぜこんなプロジェクトをやろうと思ったのかと言いますと、私の世界旅行の経験と関係があります。

 

 

険しくも圧倒的に美しいエベレストからゴミと悪臭が充満するスラム街まで、私は昨年から1年間、海外を旅してきました。多様な場所を訪れることは貴重な経験になりましたが、それ以上に私の旅を充実させてくれたのがその中で出会った人たちとの時間です。時には酒場で若者から聞かれる日本文化に対する質問に答え、時には先生や社会起業家たちに日本の教育の良さと課題についてお話しをさせて頂きました。

 

 

その経験からわかったのは「世界で活躍するために大切なのは、語学力に加えて他人に語れるほどの専門性があるテーマを持っている」ということです。そして、そのテーマは一つだけでなく、複数持っていたほうが良い。

 

 

例えば、外国人とコミュニケーションを取る際、距離が徐々に縮まってくるとある程度の知識が要求される質問が出てきます。私が実際に聞かれたのは「なぜ日本人は腹切りをするのか?」「日本人の本音と建前って何?」といった質問でした。

 

 

どちらも日本の歴史と文化に対する知識がなければ、なかなか相手にわかりやすく説明するのは難しいのではないでしょうか。もし、ここできちんと質問に答えることができたら、会話に花が咲き、二人の距離はさらに縮まります。そして、もし相手の国について事前にある程度調べていたら、こちらからその国の文化や価値観などについてさらに知りたいことを質問することもできます。

 

 

このように、海外の方とコミュニケーションをする時に、語学力と並んで大切なのは、相手に語れるほどのテーマを持っているということなのです。現在の日本は英語教育をとても重視していますが、語学力ばかりに注目が集まり過ぎていることが課題のように思えます。語学に堪能な人でも、専門的なテーマを持っていなければ、異文化とのコミュニケーションを深めることができません。英語で語れる教養を身につけているという観点が今後の英語教育にますます求められると考えています。

 

 

子どもたちが語学力を鍛える機会はすでにたくさんあるため、それなら私は、その子が得意なテーマが持てる機会を提供しよう。そして、テーマを探求するプロセスの中で、将来必要な好奇心、質問力、学び方、表現力などを養うことができたら、参加者に役立つだろうと思ったのです。これが「世界探求プロジェクト」ができた経緯です。

 

 

次に、プロジェクトの振り返りをします。この活動は学校の自由研究につながるように作られているので、来年以降の自由研究がより充実したものになるように、下記の三つのポイントに絞って書きます。

 

①テーマ決めは子どもの意思を尊重し、大人はそれを進化させる

②テーマの深め方を学ぶことで、自由研究の質はぐんと高まる

③探求学習に欠かせない国語力は普段から鍛えておく

 

 

①テーマ決めは子どもの意思を尊重し、大人はそれを進化させる

 

今回のプロジェクトで最初に意識したのは、大人である私が子どものテーマ決めに言葉を挟まないことです。理由はシンプルで、人の興味はそれぞれ違うからです。探求学習の主役はあくまでも子どもたちであるため、彼らがどんなテーマを選んでも受け入れようと考えていました。

 

 

代わりに、私がサポートしたのは、子どもが決めたテーマを学習効果の高いものに進化させることです。例えば、「サッカー」をテーマに選んだメンバーがいます。サッカーは誰もがよく知っているスポーツであるため、テーマの絞り方を工夫しないとなかなか面白い研究ができません。

 

 

そこで、その子と相談して決めたのは「何が国のサッカーの強さに影響を与えるのかを調べる」ということです。このブログを読んでくださっている皆さんは、サッカーが強い国がなぜ強いのか、その理由をご存知でしょうか?このテーマを研究した子は国のサッカー人口と人口に占めるサッカー選手の割合という二つの観点から探求をしてきました。

 

 

このようなテーマの絞り方をすれば、自分なりに仮説を立てたり、情報を収集したりする練習がたくさんできる自由研究になります。時に、大人からすれば幼稚なテーマでも、独自の視点を組み合わせることで、とても魅力的なテーマに進化させることが可能なのです。

 

 

②テーマの深め方を学ぶことで、自由研究の質はぐんと高まる

 

テーマが決まれば、次に大切なのがそれを深めていく探求のプロセスです。どんなに面白いテーマを設定しても、探求が深まらなければ、子どもたちにとって学習効果はほとんどありません。

 

 

しかし、この「深める」という行為は、子どもたちがイメージしづらいものです。例えば、このブログでもよく説明の例として取り上げている「オリンピックが4年に一回行われる理由」の探求。その理由が太陰暦と太陽暦に関連していることがわかると、そこで探求が止まってしまうケースがとても多いのです。

 

 

本来、「太陰暦と太陽暦とは何か」「なぜ古代ギリシャ人が太陰暦と太陽暦が一致するタイミングを大切にしたか」といったことに対しても疑問を持ち調べていかないと、深い理解は得られません。この思考の停止を防ぐために、子どもの抜け落ちている視点を大人があえて質問して気づかせてあげることが大切なのです。

 

 

近年では、インターネットの発達によりネットで調べた情報をそのまま丸写しすることが可能になりました。そのような行為が学ぶことと同等だと勘違いしないように、子どもたちに正しい学び方を伝えていく必要があります。探求学習と言うと、かっこいいイメージがありますが、本来、物事を深める探求のプロセスは実に地味で、根気と継続力が必要なのです。

 

 

③探求学習に欠かせない国語力は普段から鍛えておく

 

今回の活動で、国語力の大切さを再確認できました。例えば、せっかく面白いテーマを設定しても、それを本やインターネットで調べようとすると、専門用語がとても難しく、探求の障害となるケースが多かったのです。

 

オリンピックの歴史について調べようと思えば、太陰暦や太陽暦といった天文学の知識とギリシャ神話にまつわる語彙は避けて通れません。近代オリンピックも研究するのなら、戦争が絶えなかった19世紀のヨーロッパの歴史と戦争を生み出す政治構造に関する知識が必要になります。このように、スポーツの祭典に興味を持った子どもでも実に多様な知識を地道に読み込んでいかないと、オリンピックというテーマを探求できないのです。

 

 

加えて、国語力がある子はテーマを自分の言葉でまとめることができていました。まとめの作業では、他人が読みやすいように要点を絞ったり、専門用語の解説をしたりすることがあります。ただ、十分な国語力がないと、本やインターネットに書いてあったことを写すことで精一杯となり、わかりやすい文章に書き換えることに苦労するのです。

 

 

国語力が足りないという理由で、探求学習を十分に楽しめなかったら、本当にもったいないですよね。短期間で手軽に身につくものではないため、来年の自由研究を充実させるためにも、毎日の学習の積み重ねがとても重要になります。

 

 

以上、「世界探求プロジェクト」の目的と振り返りについて書いてきました。私自身、子どもたちの探求のおかげで実に多様な知識を学ぶことができて、一人の生徒としても楽しむことができました!

 

 

そして、このプロジェクト、まだやり終えていないことが一つあります。子どもたちの自由研究が学校から返却されたタイミングで、一度発表会を実施します!子どもたちのテーマは下記の通りです。

 

 

 

ぜひわが子と他の子どもたちがどんな探求をしてきたか、その成果を聞きに来て頂けたらと思います。大人でも知らないレベルの研究を目指してきたので、きっと好奇心が刺激される場になります。日時が決まり次第、また連絡させて頂きます。

 

それでは、また発表会でお会いしましょう