1997年。
加茂が更迭されたとき、岡田は神憑っていた。
まず姿勢。
自分は、清雲の強い推薦があったとはいえ、あくまで加茂に選ばれたコーチであり代理監督であるという謙虚さを貫いた。スーツは着用せず、常に代表ジャージで試合に臨んだ。
そして采配。
カズと井原が柱であると明言し、加茂ジャパンの土台を壊さぬよう慎重に、しかし時間もチャンスも限られた最終予選の最中で最高の一手を打ち続けた。
まず最初に森島を復帰させた。トップ下に配置し、崖っぷちの日本代表に勢いが生まれた。先制点を奪われる苦しい展開も、奇跡の同点で引き分け。次に北澤。これが当たり、勝利に等しい引き分け。そしてアウェーの韓国戦で久々の勝利。最後は高木、中山。両者の得点があり、出場停止だったカズのユニフォームを下に着ていた中山のパフォーマンスもあり、大歓声の中で大勝し、最高のムードでジョホールバルへ。
結果はＷ杯初出場。
悲願を果たしたのは、何より将の名指揮あってこそであった。
しかし、予選が終わったら結果如何に依らず加茂と道を同じくすると明言していたにも関わらず、欲を出して本番を引き受けてしまった。
勝利の女神は欲深き者には微笑まない。彼の限界を知ったのもこのときである。