2024.2.10 夜の部 新橋演舞場 メモ

2012年、四代猿之助(亀治郎改め)、中車(香川照之)、團子(香川照之の息子)襲名披露公演を観て以来の『スーパー歌舞伎 ヤマトタケル』。ちなみに個人的には勧進帳、白浪五人男、そしてこのヤマトタケルが三大大好き演目。

当時幼かったあの團子ワカタケル(子役)が12年経ち縁もあってなんと主役小碓命(オウスノミコ、後のヤマトタケル)に!!!と狙って取ったが、急遽体調不良で休演。あああ。なのでWキャストの中村隼人代演で観ることに。隼人くんもお父さんが昔タケル役を一度やったことがあるとのことで二代で演じるという縁。

團子ちゃんで観たかったので観るまではぶっちゃけ残念な気持ちで行った。やっぱりヤマトタケルは猿翁猿之助のイメージしか無く、別の役者ではどうしても似合わないだろうと。

でも観たらこれがびっくり!猿之助流のスラスラと流れるセリフの小碓命と違い、隼人タケルは言葉の一つ一つの重みを表現する何とも熱く全身全霊な小碓命で、とにかく心の底から感動。上書きされてしまったと言っても過言じゃないほど。それに誰もが認めるあの高貴なルックス!皇子属性はもとよりヒーロー属性でも澤瀉屋には無い超越したオーラがあった!

また猿之助流より二役(強い兄大碓命、優しい双子の弟小碓命)のメリハリがはっきりしていてわかりやすくストーリーもその分わかりやすかった気がする。ヤマトタケル初心者は隼人タケルの方が自然で見やすい気がした。またドラマ出演などの実績もありセリフの落とし込みは優れてる気がした。シェイクスピア作品とか現代劇舞台もじつは似合いそうな気がした。

隼人タケルは二ヶ月公演の中でも今月のみ。そしてこの先の他劇場公演でも出演予定は無かった気がする。ヤマトタケルはそもそも澤瀉屋の演目のため萬屋の彼はメインにはならない。今後團子タケルは数十年に渡って観れるけど中村隼人タケルはなかなか観れないかもしれない。偶然ではあるけど貴重な役を観れたのかもしれない。それも圧巻のヤマトタケルを。

團子とは澤瀉屋の幼名。成田屋が新之助→海老蔵→團十郎と襲名して行くように、團子はいずれ猿之助を継ぐための澤瀉屋の伝統の名。

團子ちゃんの大きな役としても主演はこれが実質初めてだったと思う。それも祖父猿翁の魂全てを注ぎ込んだ歌舞伎界の大作スーパー歌舞伎ヤマトタケルの主演。二十歳の彼には相当な重圧だっただろう。それが開幕後数日でのこの度の体調不良での休演たったのかも。その後数日の休養で無事復帰したのはよかった。

そもそも2012年まで仲違いしてた猿翁さんの下に香川さんが息子と弟子入りしたのは歌舞伎界とは無縁だった息子に「澤瀉屋を継いで欲しい」がためだった。許されなかった香川さん自身は黒子に徹しただ息子のために。あれから12年ついにその息子團子が澤瀉屋の正真正銘一番の演目ヤマトタケルでヤマトタケル役を演じることになった。歌舞伎ファンはそれがわかってるからみな応援してる。

この演目ストーリーでは、帝(小碓命の父)役の中車(香川照之)は息子小碓命(後のヤマトタケル)に嫌がらせにも似た無理難題を課しタケルを生涯苦しめる。しかしそれに耐え成長したタケルは強くなっていく。なっていくが最後は残念ながら敵に討たれてしまい、志半ばでいろんな想いを抱えながら白鳥となって天を翔けていく。。という話。

そしてエンディング、亡くなった彼らも順々に再び現れ挨拶。そして最後、帝の下に息子小碓命が駆け寄り「これで良かったのですね」と握手をもとめる。そこで父帝は何度もうなずきタケルの旅が終わる。

今回の代演隼人タケルと中車帝では、息子の代わりに3時間以上の公演を毎日昼夜2公演休みなく連日続けてくれてほんとにほんとにありがとう、そんなふうに見えた。
これが團子タケルと中車帝では、澤瀉屋の想いそして真の親子の握手で客席涙涙になるのは予想できる。香川さんはほんとに今嬉しいと思う。

日本神話に基づいたストーリー、超豪華絢爛な衣裳、ドリフ並みに大掛かりな舞台セット、現代語でわかりやすいセリフ。3幕どれも中身が濃くまったく飽きさせない、計4時間以上のスペクタクル超大作。これで変わらず16500円は昨今の演劇価格からするとお得感しかない。

團子ヤマトタケルの成長と成功に期待。そして今後の香川親子の活躍にも心から期待。また中村隼人くんはある意味飛躍の年になったと思う。いろいろ挑戦してほしい。またヒロイン二役(兄橘姫、弟橘姫)を好演した中村米吉くんは若手正統派女形で一歩抜け出た感。男っ気が消えてる可愛さは他の女形とはちょっと違う良さがあった。