行政法[基本的事項]③ ©︎seize the dream 2023

 

〈差止訴訟〉

[定]Q225 差止訴訟。A行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにも拘らず、これがされようとしている場合において、行政庁が当該処分をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。【フォロー/例】3⑦。課税処分がなされようとしている場合に、予めその差止めを求める訴訟が該当。

 

〈訴訟要件〉

[要件]Q226 差止訴訟の要件。A①差止めを求められているのが「処分又は裁決」であること(処分性)、②それが「一定の」ものであること(一定性)、③当該処分が「されようとしている」こと(蓋然性)、④当該処分がされることにより「重大な損害を生ずるおそれ」があること(重大性)、⑤当該処分が損害を避けるため「他に適当な方法」がないこと(補充性)、⑥原告適格、⑦訴えの利益である。

2023.4.24

[要件]Q227 取消訴訟の被告適格(11①)及び管轄(12)の規定が準用されている(38)。A◯【フォロー】申請型義務付け訴訟と同様に審査請求や出訴期間の規定は準用されない。

 

[要件]Q228 差止めを求めることができるのは、他の抗告訴訟と同様、処分及び裁決である。A◯【フォロー】【公権力の行使に当たる事実行為も処分に含まれ】る。

 

[要件]Q229 差止訴訟の場合、短期間で完了する行為であっても、事前に差止める意味があるので、継続的性質を有することは必要ないと解される。A◯

 

[要件]Q230 処分等は「一定の」ものでなければならない。A◯【フォロー】厳格に解すると救済が困難になるため、損害が著しく重大な場合などには柔軟に解すべきである。A◯

 

[要件]Q231 差止めを求められた処分が「されようとしている」(3⑦)ことが必要であるから、当該処分がされる蓋然性がないときは、【訴えは不適法】となる。A◯

 

[要件]Q232 その損害を避けるため「他に適当な方法」があるときは、差止訴訟を提起できない。A◯

 

[要件]Q233「他に適当な方法があるとき」とは、ある処分に前提となる処分が存在し、前提部分の取消訴訟を提起すれば後続処分の続行ができないことが法令によって定められている場合などを指し、民事訴訟等はこれに含まれない。A◯【フォロー】税徴90③。

 

[要件]Q234 差止めが求められた処分がされたときは、訴えの利益が消滅する。A◯

 

[要件]Q235 処分を阻止するためには、仮の差止めを申し立てしなければならない。A◯

 

[要件]Q236 処分がされた場合は、取消訴訟に訴えを変更することができる。A◯

 

〈鞆の浦訴訟〉

[判]Q237 このような客観的な価値を有する良好な鞆の景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常に享受している者の景観利益は、私法上の法律関係において、【法律上保護に値する】ものというべきである。A◯【フォロー】広島地判平成21.10.1。

 

[判]Q238 景観利益は、生命・身体等といった権利とはその性質を異にするものの、日々の生活に密接に関連した利益と言えること、景観利益は、一度損なわれたならば、金銭賠償によって回復することは困難な性質のものであることなどを総合考慮すれば、景観利益については、本件埋立免許がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあると認めるのが相当である。A◯

 

〈審理〉

[基]Q239 訴訟の性質上、違法判断の基準時は判決時(口頭弁論終結時)と考えられる。A◯

 

〈判決〉

[基]Q240 判決については、取消訴訟の拘束力の規定(33)が準用される。A◯【フォロー】38①。

 

〈公法上の当事者訴訟/実質的当事者訴訟〉

[定]Q241 実質的当事者訴訟とは、公法上の法律関係に関する訴訟をいう。【フォロー】4。

 

〈訴訟要件〉

[基]Q242 公法上の当事者訴訟として一般的に考えられるのは、給付訴訟と確認訴訟である。A◯【フォロー】いずれも、行訴法に定めがない限り、民訴法が適用される。7条。

 

〈仮の権利保護〉

[基]Q243 現在では、取消訴訟及び無効等確認については執行停止、義務付け訴訟及び不作為の違法確認訴訟には仮の義務付け、差止訴訟については仮の差止めを利用できる。A◯【フォロー】公法上の当事者訴訟については民事保全法による仮処分が可能。

 

〈執行停止〉

[定]Q244 執行停止とは、取消訴訟が提起された場合に、終局判決が下されるまでの間、処分の執行等を停止する程度。A◯【フォロー】【現行法上は、執行不停止原則が採用】されている。

 

〈要件/積極要件〉

[要件]Q245 執行停止を申し立てることができるのは、処分の取消しの訴えの提起があった場合でなければならない。A◯【フォロー】25②。【本案訴訟の係属が要件】。

 

[要件]Q246 執行停止が認められるには、「処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要がなければならない。A◯【フォロー】25②。

 

〈消極要件〉

[要件]Q247 公共の福祉に重大な影響を及ぼおそれがあるとき、又は本案について理由がないと見えるときは、執行停止をすることができない。A◯【フォロー】25④。

 

〈手続〉

[大]Q248 執行停止は、「申し立てにより」することができる。A◯【フォロー】25②。【職権で執行停止を命じることはできない】。

 

〈要件の審理〉

[基]Q249 要件たる事実の存在の認定は疎明に基づく。A◯【フォロー】25⑤。

 

[定]Q250 疎明。A証明とは異なり、一応確からしという心証を生じさせることをいう。【フォロー】積極要件には申立人側が、消極要件には相手側が、それぞれ疎明責任を負う。

 

〈決定〉

[大]Q251 執行停止の決定に対しては即時抗告ができるが、それによって直ちに執行停止決定の効力が停止されるわけではない。A◯【フォロー】8。

 

〈内閣総理大臣の意義〉

[大]Q252 執行停止の申立てがあった場合、あるいは執行停止の決定がなされた場合、内閣総理大臣は異議を述べることができる。A◯【フォロー】27①。

 

[大]Q253 内閣総理大臣の異議には理由を付さなければならず、そこでは処分の執行等をしなければ公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情を示すこととされる。A◯【フォロー】27②③。

 

[大]Q254 内閣総理大臣はやむを得ない場合でなければ異議を述べてはならず、また、異議を述べたときは、【次の国会においてこれを報告】しなければならない。A◯【フォロー】27⑥。

 

〈仮の義務付け・仮の差止め/要件〉

[要件]Q255 仮の義務付け・仮の差止めが認められるための要件判決ほぼ同じ。A◯

 

[要件]Q256 仮の義務付けの要件。A①義務付け訴訟が提起されていること、②当該処分がされないことにより生じる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること、③本案について理由があると見えること、④公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないことが必要とされている。【フォロー】37の5①③。

 

[要件]Q257 ②の要件では「償うことのできない」という文言が用いられているが、行訴法改正前の執行停止の要件である「回復困難な損害」よりもさらに厳しい要件である。A◯

 

〈審理〉

[大]Q258 審理手続については、執行停止に関する規定が多く準用されている。A◯【フォロー】37の5④。

 

〈決定〉

[大]Q259 取消判決の拘束力(33①)の規定が準用されている。A◯【フォロー】37の5④。

 

〈国家補償の意義〉

[大]Q260 国家賠償は、違法その他過誤のある国等の行為によって生じた場合の損害を補償する制度。A◯【フォロー】憲法17。

 

[大]Q261 国家賠償法に基づく責任は、違法な公権力の行使に起因する損賠責任(1)及び公の営造物の設置・管理の瑕疵に起因する損賠責任(2)から成る、A◯

 

[大]Q262 損失補償は、【国家の違法な行為】により生じた損失を補償する制度である。A◯

 

〈国家賠償の概要〉

[大]Q263 国賠法1条は、【違法な公権力の行使に起因する損賠責任】を定める。A◯

 

[大]Q264 国賠法には、民法715条1項但書のような使用者免責の規定がない。A◯

 

[大]Q265 国賠法2条は、公の営造物の設置又は管理の瑕疵に起因する損賠責任を定める。A◯

 

[大]Q266 国賠法3条は、被害者救済の観点から、国の賠償の対外的な責任主体の範囲を広げている。A◯

 

[大]Q267 国賠法1条又は2条に基づく国賠責任が定められる場合、公務員の選任・監督者又は公の営造物の設置・管理者と、公務員の某給・給与その他の費用又は公の営造物の設置・管理の費用負担者とがそれぞれ異なるときは、費用負担者もまた責任を負う。A◯

 

[大]Q268 国賠法4条は、国賠責任について、同法1条から3条の規定による他、民法の規定による。A◯

 

[大]Q269 国賠法5条は、同法が国又は公共団体賠償責任に関する一般法であることから、民法以外の他の法律に特別の定めがあれば、その規定が特別法として適用されることを確認的に規定する。A◯

 

[大]Q270 国賠法6条は、被害者が外国人である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用するという【相互保証主義】を定める。A◯

 

〈国賠責任の性質・根拠〉

[学説]Q271 国賠法1条に基づく責任の性質がどのようなものであるかを巡って、代位責任説と自己責任説の対立が見られるA◯

 

[学説]Q272 代位責任説。A本来は公務員が負うべき責任を国又は公共団体がそれに代わって負担するという考え方。【フォロー】公務員の個人責任は否定。

 

[学説]Q273 代位責任説では、国賠法1条の文意が重視されている。A◯

 

[学説]〈根拠〉Q274 代位責任説の根拠。A国賠法1条1項は、公務員個人の故意・過失を損害賠償責任の責任の成立要件として要求している。

 

[学説]Q275 自己責任説。A国又は公共団体自身の責任を認めるもの。【フォロー】公務員の個人責任は肯定。

 

[学説]〈根拠〉Q276 自己責任説の根拠。A国家活動には一定の損害を発生させる危険が内在しているのであり、権力作用によりこの危険が発展した場合には、国・公共団体が直接責任を負うべきである。

 

[学説]〈批判〉Q277 自己責任説から代位責任説への批判。A代位責任説では、国又は公共団体が公務員の賠償責任を代位するという法律構成を通じて被害者を救済することが意図されるものの、何故に国等が賠償責任を負うのか明らかではない。

 

〈賠償責任の要件/公権力の行使〉

[要件]Q278 加害行為が、公権力の行使に該当しないと解されて国賠法の適用がない場合でも、民法上の不法行為に該当すれば、国又は公共団体の損賠責任が認められる。A◯

 

〈国又は公共団体、公務員〉

[要件]Q279 国賠責任を負う「公共団体」とは、地方公共団体のみならず、「公権力の行使」に当たる行為をする団体もこれに含まれる。A◯

 

[文解]Q280 公務員。A身分上の公務員に限らず「公権力の行使」に当たる行為を委ねられた民間人も含まれる。A◯

 

〈養護施設入所児童暴行事件〉

[判]Q281 児童福祉法27条1項3号に基づく県の設置により社会福祉法人の設置運営に基づき入所した児童が、他の入所児童の暴行を受けて重大な障害を負ったため、県と同法人に損賠請求をした事案において、当該措置に基づき入所した児童に対する施設職員の養育監護を公権力の行使に当たる公務員の職務行為と解して、県の国賠責任を認めている。A◯【フォロー】最判平成19.1.25。

 

〈職務を行うについて〉

[要件]Q282「職務を行うについて」の要件は、加害行為が職務として行われたものでなくても、職務との間に【一定の関連性を有する】ものであれば、国賠法1条が適用されることを意味する。A◯【フォロー】職務関連性。

 

〈違法性〉

[要件]Q283 国賠法1条1項は、違法性を賠償責任の要件の1つとして規定している。A◯【フォロー】違法性を判断する枠組みとして、結果不法と行為不法という考え方がある。

 

〈奈良税務署推計課税事件〉

[判]Q284 当該処分に起因する慰謝料等の損賠請求訴訟において、公務員が通常尽くすべき注意義務に違反したか否かという観点から審査を行い、国家賠償法上の違法性を否定した。A◯

 

[判]〈判旨〉Q285 本件各更生における所得金額の過大認定は、専ら被上告人において本件係争各年分の申告書に必要経費を過小に記載し、本件各更正に至るまでこれを訂正しようとしなかったことに起因するものということができ、奈良税務署所長がその職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく、漠然と更生をした事情は認められないから、昭和48年(1973年)更生も含めて本件各更生に国賠法1条1項にいう違法があったということは到底できない。A◯

 

【フォロー】最判平成5.3.11 百Ⅱ 221。

 

[基]Q286「公権力の行使」には、立法権の行使や司法権の行使も含まれる。A◯【フォロー】立法行為(立法不作為を含む)、又は裁判により生じた損害について、国賠責任が成立し得る。

 

〈在外国民選挙訴訟〉

[判]Q287 選挙権行使の機会を確保するための措置を執らなかった立法不作為について、国賠法上違法であるとして国の賠償責任を肯定した。A◯

 

[判]〈判旨〉Q288 立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合等には、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国賠法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。A◯

 

【フォロー】最大判平成17.9.14 百Ⅱ 209(旧版)。

 

〈国賠請求の手続上の問題〉

[基]Q289 行政処分について取消違法と国賠違法は同じであるという違法同一説においては、取消訴訟の判決の既判力は、後の国家賠償請求訴訟に及ぶと解されている。A◯

 

[基]Q290 処分を違法とする取消判決が確定すると、その既判力により、事後の国家賠償請求で処分の違法を主張することはできない。A◯

 

〈国賠法2条に基づく責任/公の営造物の設置又は管理〉

[文解]Q291 公の営造物。A一般に、国又は公共団体により公の目的に供される有体物を意味する。

 

[基]Q292 自然公物であっても、公の用に供されている以上、国賠法2条にいう「公の営造物」に含まれる。A◯

 

[基]Q293 公の営造物に該当するか否かは、国又は公共団体によって実際に公の目的に供されているかが決め手となる。A◯

 

[基]Q294 国賠法2条にいう「公の営造物」は概念上、民法717条の「土地の工作物」よりも一般に広く捉えられており、動産の他、河川のように「土地の工作物」に当然には該当しないものについても賠償責任が認められている。A◯

 

[基]Q295 国賠法には、民法717条1項但書のような占有者免責条項がないので、国又は公共団体が私人の所有物を占有する場合でも責任は免れない。A◯

 

[基]Q296 国賠2条の責任であれば、被害者は設置・管理者の他、費用負担者に対しても請求することができる。A◯【フォロー】国賠3。

 

〈設置又は管理の瑕疵〉

[定]Q297 瑕疵。A通常有すべき安全性を欠いていること。【フォロー】最判昭和45.8.20 百Ⅱ 235(旧版)。高知落石事件。

 

〈国道43号線訴訟〉

[判]〈判旨〉Q298 国賠法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態、すなわち他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいう。A◯【フォロー】最判平成7.7.7。

 

〈瑕疵判断の枠組み〉

[基]Q299 国賠法2条の責任は無過失責任であるが、瑕疵の判断においては、損害発生の予見可能性と回避可能性が考慮され、これが認められない場合には,賠償責任が否定される。A◯

 

〈視覚障害者駅ホーム転落事故〉

[判]Q300 点字ブロックなど視力障害者用の安全設備を駅ホームに設置しなかった点について、その普及の状況、視力障害者の利用度から予測される事故発生の危険性やその設置の必要性の程度等を考慮して、瑕疵の有無を判断すべきものとしている。A◯【フォロー】最判昭和61.3.25 百Ⅱ 239(旧版)。

 

〈テニスコート審判台転倒事故〉

[判]Q301 当該営造物の本来の用法に従った使用を前提に、その安全性に欠けるところがないとした上で、本件事故は通常予測し得ない異常な行動の結果生じたものであるとして賠償責任を否定した。A◯

 

【フォロー/留保】最判平成5.3.30 百Ⅱ 240(旧版)。本来の用法から外れた利用が常態化しているという事実が客観的に認められる場合には、設置管理者はこれを通常予測することができると言えるから、それに応じた危険防止措置を講じなかったことについて賠償責任が肯定される余地がある。

 

〈道路防護策子供転落事故〉

[判]〈判旨〉Q302 上告人の本件転落事故は、同人が当時危険性の判断能力に乏しい6歳の幼児であったとしても、本件道路及び防護策の設置管理者である被上告人において通常予測することのできない行動に起因するものであったということができる。したがって、右営造物につき本来のような通常の用法に即しない行動の結果生じた事故につき、被上告人はその設置管理者としての責任を負うべき理由はない。A◯【フォロー】昭和53.7.4。

 

〈水害と河川管理責任〉

〈大東水害訴訟〉

[判]Q303 未改修又は改修不十分の河川の安全性は、治水事業による河川の改修・整備の段階に対応する過渡的な安全性で足りるとした上で、同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認し得る安全性を備えていると認められるかどうかという河川管理の瑕疵の一般的な判断を示している。A◯【フォロー】最判昭和59.1.26 百Ⅱ 237(旧版)。

 

〈多摩川水害訴訟〉

[判]〈判旨〉Q304 工事実施基本計画が策定され、右計画に準拠して改修・整備がされ、あるいは右計画に準拠して新規の改修、整備の必要がないものとされた河川の改修・整備の段階に対応する安全性とは、同計画に定める規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害の発生を防止するに足りる安全をいうものと解すべきである。A◯【フォロー】最判平成2.12.13 百Ⅱ 238(旧版)。

 

〈求償権、公務員の個人責任〉

[判]Q305  国賠法1条に基づき賠償責任を負うのは、国又は公共団体であって、加害公務員個人は被害者に対して直接、損賠責任を負わない。A◯【フォロー】最判昭和30.4.19 百Ⅱ 234(旧版)。

 

〈養護施設入所児童暴行事件〉

[判]Q306 施設職員の養育監護行為が公権力の行使に当たる公務員の職務行為であるとして国賠責任が認められる場合、公務員個人の責任が否定される趣旨から、当該職員の【使用者についても民法715条に基づく使用者責任を否定】する。A◯【フォロー】最判平成19.1.25

 

[大]Q307 国賠2条に基づき賠償責任を負う国又は公共団体は、他に損害の原因について責任を負担すべき者がいる場合、その者に求償できる。A◯【フォロー】国賠2②。

 

〈損失補償〉

[定]Q308 損失補償。A特別の犠牲に当たると認められた損失について、それを社会全体の負担で補填することをいう。

 

[例]Q309 損失補償は、財産権保障の理念の下、私有財産の侵害に対する補償制度として形成されてきた制度であり、土地収用に対する補償がその典型例である。A◯

 

[沿革]Q310 損失補償制度は、明治憲法下でも存在したものの、憲法上の根拠がなく立法に委ねられていた。A◯

 

〈損失補償の根拠〉

[学説]Q311 損失補償は、憲法29条3項に明文の根拠が置かれているが、その意義に関して考え方が分かれていた。憲法上補償が必要となる規制を加える一方で,規制を置いていない法令を巡る見解の対立である。当該法令は違憲無効ではなく、直接、憲法に基づき損失補償権が生ずるという見解が通説・判例である。A◯【フォロー】最大判昭和43.11.27 百Ⅱ 251(旧版)。請求権発生説。

 

〈河川附近地制限令事件〉

[判]〈判旨〉Q312 河川附近地制限令4条2号による制限について、同条に損失補償に関する規定がないからといって、同条があらゆる場合について一切の損失補償を全く否定する趣旨とまでは解されず、本件被告人も、その損失を具体的に主張して、別途、直接憲法29条3項を根拠にして、補償請求をする余地が全くないわけではないから、単に一般的な場合について、当然に受任すべきものとされる制限を定めた同令4条2号及びこの制限違反について罰則を定めた同令10条の各規定を直ちに違憲無効の規定と解すべきではない。A◯

【フォロー】最大判昭和43.11.27 百Ⅱ 251(旧版)。

 

〈損失補償の要否〉

[判]Q313 土地利用制限には、公共事業を円滑に遂行するための都市計画制限(都計53)があるが、この制限は一般的には当然に受任すべきもので特別の犠牲に当たらない。A◯【フォロー】最判平成17.11.1 百Ⅱ 252(旧版)。

 

〈奈良県ため池条例事件〉

[判]〈判旨〉Q314 本条例は、災害を防止し公共の福祉を保持するためのものであり、その4条2号は、ため池の堤とうを使用する財産上の権利の行使を著しく制限するものではあるが、結局それは、災害を防止し公共の福祉を保持する上に社会生活上已むを得ないものであり、そのような制約は、ため池の堤とうを使用し得る財産権を有する者が当然受忍しなければならない責務というべきものであって、憲法29条3項の損失補償はこれを要しないと解する。A◯【フォロー】最大判昭和38.6.26 百Ⅱ 250(旧版)。

 

〈損失補償の内容・範囲/「正当な補償」の意味〉

[判]〈文解〉Q315 正当な補償とは、その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基き、合理的に算出された相当な額をいうのであって、必ずしも常にかかる価格と完全に一致することを要するものではない。A◯

 

【フォロー/留保】最大判昭和28.12.23 百Ⅱ 247(旧版)。この事案は、農地改革による農地の強制買収の対価が憲法29条3項に反するかという特殊なものであったことから、学説では同判決の射程は限定的に捉えられ、完全補償説が支配的な考え方となった。

 

[判]Q316 収用の前後を通じて被収用者の財産価格を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもって補償する場合には、被収用者が近隣において被収用地と同等の代替地等を取得することを得るに足りる金額の補償を要する。A◯

 

【フォロー】最判昭和48.10.18 百Ⅱ 249(旧版)。土地収用法上の解釈において完全補償説に立つことを明らかにした。

 

〈観察電力変電所事件〉

[判]Q317「正当な補償」の意味については、最大判昭和28.12.23を先例として挙げるものの、同規定(土地収用法71条)に基づく算定方法について、事業認定告知後の補償金支払制度の利用等を考慮に入れ、被収用者は、収用の前後を通じて被収用者の有する財産価値を等しくさせるような補償を受けられるものであるとして、完全補償の考え方を前提にした上で、上述の算定方法には十分な合理性があり、同規定は憲法29条3項に違反するものではないとした。A◯【フォロー】最判平成14.6.11。

 

[判]Q318 土地収用法上の損失補償の範囲・額は客観的に定まったものであり、その決定については収用委員会に裁量権は認められない。A◯【フォロー】最判平成9.1.28 百Ⅱ 210(旧版)。