憲法[基本的事項]② 見解 ©︎seize the dream 2023

2023.5.15 Q165〜317

 

※基本的事項が分かっていることを答案の端端に示す。→理解度を示す。2023.5.16

※法的思考力がある人間であることを答案の端端に示す。→論理的思考力を示す。2023.5.16

※出された問題、設問に対して、素直に答える。2023.5.16

※基本的事項の理解と法的思考力を駆使して問題を解く。2023.5.16

※一人の裁判官→150〜200件の事件を抱えている。

→事務処理能力(手際さ)、後回しにしない、早く終わらせる。司令塔にまとめる。2023.5.17

※当時者の立場に立った弁護人の主張、相手側の利益に配慮した帰結。2023.5.21

 

 

【憲法見解、原理原則等】【改訂版】

 

【1】憲法の法源→形式的意味の憲法、実質的意味の憲法

【2】近代立憲主義→定義、マグナカルタ知識

【3】⭐️憲法保障→抵抗権、国家緊急権

【4】「主権」の意味→統治権、最高独立性、最高の権威又は最終決定権

【5】⭐️天皇→儀式を行うこと→「おことば」

【6】⭐️9条1項、2項→〈想起判例〉百里基地、砂川

【7】外国人人権→文言説、性質説→マクリーン想起

【8】⭐️公共の福祉 →一元的外在制約説、内在外在二元制約説、一元的内在制約説

【9】⭐️私人間効力→(無敵用)→大別直接、間接

【10】⭐️13条→幸福追求権の意味一般的行為自由説、人格的利益説。

【11】プライバシー権→一人で放ってもらいたい、自己情報コントロール権

【12】法の下の平等→見解「法の下」「平等」

【13】⭐️思想良心の自由→広義説、狭義説(内心説)

【14】表現の自由→自己実現の価値、自己統治の価値 

【15】知る権利→アクセス権

【16】報道の自由→取材の自由

【17】⭐️22条、経済的自由→海外渡航

【18】生存権(⭐️25条1項、2項の関係、抽象的権利説等)

【19 】31条→実体の法定、適正、手続の実体、適正

【20】41条国権の最高機関→政治的美称説、統合機関説

【21】⭐️41条唯一の立法機関→国会中心立法の原則、国会単独立法の原則

【22】⭐️条約→憲法優位説 条約優位説

【23】⭐️解散の根拠→7条、65条、69条説

【24】予算の法的性格→予算法規範説、予算法律説

【25 】⭐️89条公の支配とは→厳格説、緩和説

【26】⭐️憲法改正の限界→限界説、無限界説

【27】憲法尊重擁護義務

 

2023.5.16

②憲法[基本的事項]②見解 ©︎seize the dream 2023

 

【1】憲法の法源→形式的意味の憲法、実質的意味の憲法

 

⭐️【重複/①1有】〈憲法の意味〉

〈形式的意味の憲法と実質的意味の憲法〉

 

//[定]Q憲法という名称の法は、現在多くの国で同様に、その国の最高位に位置する法規範として制定され、妥当している。これを形式的意味の憲法と呼ぶことができる。A◯

 

[基]Qイギリスには憲法がないといわれるときの「憲法」とは、形式的意味の憲法を指す。A◯

 

[基]Q国家における統治制度の構造や権限分配の基本的定めのことを実質的意味での憲法と呼ぶ。この意味の憲法は、イギリスも含めあらゆる国家に存在する。A◯

 

〈実質的意味の憲法〉

⭐️[基]Q実質的意味の憲法(国家の組織や作用に関する基本的な規範)からすれば、国会法や公職選挙法の一部は憲法法源としての意味を持つと解するのは誤りとは言えない。A◯【フォロー】20ー1ーア//

 

【2】近代立憲主義→定義、マグナカルタ知識

 

⭐️【重複/①2有】〈実質的意味の憲法〉

 

⭐️//〈立憲的・近代的意味の憲法〉

[基]Q1789年フランス人権宣言16条の「権利の保障が確保されず、権力の分立が定められていない社会は、全て憲法を持つものではない」という規定は、近代の憲法がこのような特定の内容を有する必要があることを示すものである。A◯

 

[基]Q国家権力の分割・制限を通じて国民の権利を確保しようとする考え方を立憲主義と呼び、立憲主義を内容とする憲法を立憲的意味の憲法ないし近代的意味の憲法という。A◯

 

[基]Q近代立憲主義は、イギリス、フランス、アメリカの市民革命を通じて確立されてきたものであり、イギリスにおける1215年のマグナカルタによって確立されたものではない。A◯【フォロー】27ー11ーア

 

[基]Q権力を制限することにより自由を保障することを基本理念とする憲法を立憲的意味の憲法と呼ぶ。この憲法は、権力分立を要請する。A◯

 

[基]Q日本国憲法は、国民主権や基本的人権の保障、権力の分立を定める、立憲的・近代的意味の憲法である。A◯

 

[基]Q1789年のフランス人権宣言は、近代立憲主義の内容を簡潔に示している。憲法というためには、権利保障と権力の分立が不可欠とされている。A◯【フォロー】27ー11ーイ

 

[基]Q19世紀の自由国家と形容される時代には、自由の保障が要請されていた。しかし、その自由の保障のために、違憲立法審査権を裁判所に認める国は例外的であった。A◯【フォロー】27ー11ーイ//

 

【3】⭐️憲法保障→抵抗権、国家緊急権

 

⭐️【重複/①11】〈抵抗権・国家緊急権〉

 

//[定]Q抵抗権。A国家権力が権力を濫用した場合には、国民は、最終的手段として、実力によってこれを抵抗することができるとする権利。

 

[基]Q国家の側が憲法を破る秩序を「法」で構築したとき、それに対する抵抗は「不法」となる。抵抗権は、この不法を正当化する論理である。A◯

 

[基]Q日本国憲法は、諸個人の自然権思想に依拠していると考えられるから、自然法上の抵抗権と親和的である。A◯

 

[定]Q国家緊急権。A戦争や内乱、大規模な自然災害などが起き、通常の憲法体制によっては対応できない事態となったとき、国家権力は憲法秩序を一時停止して非常措置をとる権限があることをいう。

 

[基]Q明治憲法は、14条の戒厳、31条の非常大権という天皇の大権によって非常事態に対処しようとしていた。A◯

 

[基]Q日本国憲法は、緊急事態についての明文の規定を持たない。国家緊急権には、抵抗権と違い抑制的に対峙すべきであるから、実定憲法上国家緊急権が認められていると解すべきではない。A◯//

 

【4】「主権」の意味→統治権、最高独立性、最高の権威又は最終決定権

 

⭐️【重複/①13】〈主権の意味〉

 

//〈主権の意味〉

〈国家権力そのもの〉

[学説]Qポツダム宣言8項「日本国の主権は本州、・・・局限せられるべし」にいう「主権」とは、国家権力そのものすなわち統治権を意味する。A◯【フォロー/ゴロ】ポッと。

 

[基]Q統治権とは、立法権・行政権・司法権等の国家の諸権力の総体であり、この意味での主権は、国家の統治活動を行う権力を意味する。A◯

 

〈国家権力の最高独立性〉

[定]Q国家権力の最高独立性とは、国家権力が対外的には独立であり、対内的には最高であることを意味する。A◯【フォロー】対外的に独立とは、他国から内政干渉を受けないことを意味し、対内的な最高独立性とは、中央政府に対して権限上優越する統治権力が国内に存しないことを意味する。

 

[基]Q日本国憲法前文第3段が「自国の主権を維持し」と規定する場合の主権の用法は、国家権力の最高独立性の意味である。A◯【フォロー/ゴロ】3段さいどく。//

 

2023.5.15

【5】⭐️天皇→儀式を行うこと→「おことば」

 

〈儀式の挙行(7条10号)〉

[分解]Q165 儀式を行ふとは、天皇が儀式を主催することをいう。A◯【フォロー/例】即位の礼、葬儀、結婚式。【フォロー2】宗教的な意味を持つものであってはならない。特定の宗教に沿った儀式は許さない。20②③、89。

 

[基]Q「おことば」を「儀式」(7、10号)に含めて理解する見解によると、その行為については内閣の助言と承認が必要となる。A◯【フォロー】18−16−7。

 

〈天皇の公的行為/「おことば」などの合憲性〉

[学説]〈批判〉Q166 国事行為の「儀式を行ふ」(7条10号)ことに含めて合憲とする説に対し、儀式の主催・執行に限定されず、他のものが主催する儀式へ参列することを含むと解することは無理があると批判される。A◯

 

[学説]〈批判〉Q167 私的行為として合憲とする説に対し、かかる行為の公的性格を無視して私的行為にあたるとすると、天皇の公的行為に対して内閣のコントロールが及ばなくなると批判される。A◯

 

[学説]〈批判〉Q168 国事行為、私的行為の何れにも当たらず違憲とする説に対し、そのような行為を認めないのは非常識であると批判される。A◯

 

[学説]〈批判〉Q169 天皇の国事行為以外の公的行為を象徴としての地位の基づくものとして認める見解(象徴行為説)に対し、象徴としての行為を認めることにより、内閣のコントロール下に置き得ると考えているものの、憲法上の根拠は希薄であると批判される。A◯【フォロー】学説の多数が支持。

 

〈天皇の権能/権能の性質〉

[解釈]Q170 象徴天皇制の趣旨等を勘案すると、国事行為とは、政治に関係のない形式的・儀礼的行為をいうと解される。A◯

 

【6】⭐️9条1項、2項→〈想起判例〉百里基地、砂川

 

〈戦争放棄の内容/9条1項の意味〉

[基]Q171 国際紛争を解決する手段としての戦争とは、国家の政策手段としての戦争と同じ意味であり、具体的には、侵略戦争を意味する。A◯

 

[学説]Q172 甲説。A国際法上の用例を尊重するならば、9条1項で放棄されているのは侵略戦争であり、自衛戦争は放棄されていないと解する説。

 

[学説]Q173 乙説。A従来の国際法上の解釈に捉われずに、凡そ戦争は全て国際紛争を解決する手段としてなされるのであるから、1項において自衛戦争を含めて全ての戦争が放棄されていると解すべきと解く見解。

 

〈自衛戦争に放棄/9条2項の意味〉

[解釈]〈基〉Q174 甲説(自衛戦争は放棄されていない)を採っても、2項について、「前項の目的を達成するため」に言う「前項の目的」とは、戦争を放棄するに至った動機を一般的に指すと解し、2項では、一切の戦力の保持が禁止され、交戦権も否認されていると解釈すれば、自衛のための戦争を行うことはできず、結局全ての戦争が禁止されることになるので、乙説(全ての戦争が放棄される)と結論は異ならない。A◯【フォロー】現在の通説。

 

[解釈]〈学説〉Q175 9条1項は、侵略戦争のみを放棄しているとして、甲説(自衛戦争は非放棄)の解釈を採る一方で、2項については、「前項の目的を達成するため」とは「侵略戦争放棄という目的を達成するため」ということであり、2項は、侵略戦争のための戦力は保持しないという意であり、交戦権の否認は交戦国がもつ諸権利を認めないとの意を述べるにとどまると解する説もある。A◯

 

[学説]〈批判〉Q176 この説は、日本国憲法には、66条2項の文民条項以外は、戦争ないし軍隊を予定した規定が全く存在しない、自衛のための戦力と侵略のため戦力とを区別することは、実際に不可能に近いと批判される。A◯

 

〈駐留軍の合憲性〉

〈砂川事件/最大判昭和34.12.16〉

[判]〈判旨〉Q177 戦力(9②)とは「我が国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局我が国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれが我が国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しない。A◯

 

[判]〈判旨〉Q178 安保条約は、高度の政治性を有するものであって、一見極めて違憲無効であると認められない限り、司法裁判所の審査には馴染まない性質のものである。A◯

 

2023.5.16

【7】外国人人権→文言説、性質説→マクリーン事件想起

 

〈人権享有主体性〉

[基][権性]Q179 人権規定は、権利の性質上日本国民のみを対象としているものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶ。A◯【フォロー/日本国民のみ対象】国政選挙、国防関係の公務員。

 

〈人権保障の範囲〉

〈参政権〉

[判]Q180 15条1項の参政権は、国民主権の原理(前文、1)に基づくものであり、国民とは日本国民を意味する。したがって、15条1項の規定は権利の性質上日本国民のみを対象とし、参政権の保障は外国人には及ばない。A◯【フォロー】裁判平成7.2.28 百Ⅰ 4(旧版)。

 

[判]〈基〉181 Q地方自治における住民自治の観点から、永住外国人等に、地方自治体レベルでの参政権を法律で付与することは【憲法上禁止】され【ない】。A◯

 

〈公務就任権〉

[判]Q182 公権力等地方公務員、すなわち、地方公務員のうち、住民の権利義務を直接形成し、その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い、若しくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とするものにつていてはその職務の遂行が、住民の生活に直接間接に重大な関わりを有するものであるから、国民主権の原理により、外国人にはその就任権は保障されない。A◯

【フォロー/留保】最大判平成17.1.26 百Ⅰ 5(旧版)。公立大学等への外国人の任用は認められている。

 

〈社会権〉

〈塩見訴訟/最判平成元.3.2 百Ⅰ 6(旧版)〉

[判]Q183 社会権(25)の具体的権利性を否定し、立法府の広い裁量を認めた堀木訴訟を引用した上で、在留外国人に対する社会保障上の施策については、特別の条約のない限り、政治的判断により決定することができるのであり、限られた財源の下で自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許される。A◯

 

〈入国の自由〉

[判]Q184 国際慣習法上、外国人の入国の許否は当該国家の自由裁量により決定し得るものであって、【特別の条約が存しない限り】、国家は外国人の入国を許可する義務を負わない。A◯【フォロー】最大判昭和32.6.19。外国人の入国の自由を、国際慣習法上の問題とし、人権としては保障していない。

 

〈在留の自由〉

[判]Q185 外国人には、入国の自由が保障されていないことから、在留の権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障されているものではない。【フォロー】最大判昭和53.10.4 百Ⅰ(旧版)マクリーン事件。

 

〈出国の自由〉

[判]Q186 憲法22条2項は、何人も、外国に移住し、又は、その権利の性質上外国人に限って保障しないという理由はないとして、【外国人の出国の自由を22条2項で保障】される人権として認めている。A◯【フォロー】最大判昭和32.12.25 百Ⅰ A1(旧版)。

 

〈外国人の再入国の自由〉

[判]Q187 外国人には、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されているものではない以上、【再入国の自由も保障されない】。A◯【フォロー】法改正で、【特別永住者の再入国】は広く認められている。

 

〈人権保障の程度〉

[基]Q188 自由権、平等権、受益権(裁判を受ける権利(32等))は、権利の性質上日本国民のみを対象としているのではなく、外国人にも保障される。A◯

 

〈人権の内容/自由権・参政権・社会権〉

[定]Q189 自由権。A国家からの自由の思想を基本とする重要な権利であり、【国家に対する不作為請求権】をいう。

 

[基]Q190 自由権は、国家が個人の領域に対して権力的に介入することを排除して、個人の自由な意思決定と活動とを保障する人権である。その意味で、【国家からの自由】とも言われ、人権保障の確立期から人権活動とを保障する人権体系の中心をなしている重要な権利である。A◯【フォロー/内容】精神的自由権、経済的自由権、人身の自由に分けられる。

 

[基]Q191 参政権は、国民の国政に参加する権利であり、「国家への自由」とも言われ、自由の確保に仕える。A◯【フォロー/具体例】選挙権、被選挙権に代表されるが、広く憲法改正国民投票や最高裁判所裁判官の国民審査も含まれる。

 

[基]Q192 社会権は、資本主義の高度化に伴って生じた失業・貧困・労働条件の悪化などの弊害から、社会的・経済的弱者を守るために保障されるに至った20世紀的な人権である。「国家による自由」とも言われ、社会的・経済的弱者が「人間に値する生活」を営むことができるように、【国家の積極的な配慮を求めることができる権利】である。A◯

 

[基]Q193 社会権は、憲法の規定だけを根拠として権利の実現を裁判所に請求することができる具体的権利ではない。裁判所に救済を求める具体的権利となるためには、【立法による裏付けを必要】とする。A◯

 

〈分類の相対性/人権分類の体系を絶対的なものと考えてはならない〉

[基]Q194 表現の自由の保障から導き出される「知る権利」は、単に情報の受領を妨げられないという自由権としての性格を有するのみではなく、【積極的に情報の公開を請求するという社会権ないし国務請求権としての性格】を有している。A◯

 

[基]Q195 社会権も、教育を受ける権利(26①)や生存権(25①)など、公権力によって不当に制限されてはならないという自由権的側面を有しており、それが裁判で問題となることがある。その限度で、社会権にも具体的権利性が認められる。A◯

 

[帰結]Q196 権利の性質を固定的に考えて厳格に分類することは不適当であり、個々の問題に応じて、権利の性質を柔軟に考えていく必要がある。A◯

 

〈外国人管理職任用選考試験/最大判平成17.1.26〉

[判]〈判旨〉Q197 管理職の受験資格につき外国人を日本人と同じに扱わなくても、【合理的な区別であり14条1項に違反しない】。A◯

 

〈生活保護請求却下取消請求/最判平成26.7.18〉

[判]〈事案〉Q198 事案の特殊性。A永住者として在留資格を持つ外国人が生活保護請求却下処分の取消を求めた。

 

[判]〈判旨〉Q199 外国人は、行政庁の通達に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づく受給権を有しない。A◯【フォロー】社会権は、外国人には適用がないことを前提としている。

 

【8】⭐️公共の福祉 →一元的外在制約説、内在外在二元制約説、一元的内在制約説

 

〈人権と公共の福祉〉

〈一元的外在制約説〉

[学説]〈定〉Q200 一元的外在制約説。A基本的人権は全て公共の福祉によって制約される。すなわち、憲法12条、13条の「公共の福祉」は、人権の外にあって、それを制約することができる一般的な原理である。22条、29条の「公共の福祉」は、特別の意味を持たないとする。

 

[学説]〈批判〉Q201 同説批判。A公共の福祉の意味を「公益」とか「公共の安寧秩序」というような、抽象的な最高概念として捉えているので、法律による人権制限が容易に肯定される虞が少なくなく、明治憲法における「法律の留保」の付いた人権保障と同じことになってしまうのではないかと批判される。

 

〈内在、外在二元制約説〉

[学説]〈定〉Q202 公共の福祉による制約が許されるのは、特にその旨が述べられている22条及び29条が保障する経済的自由権と、国家権力による政策的な判断に基づく規律をそもそも予想している社会権(25〜28条)に限られる。A◯【フォロー】それ以外の自由権は、権利自由に内在する制約のみが許され、その制約の程度は客観的に定まっている。立法者がこれを左右することはできない。

 

[学説]〈批判〉Q203 同説批判。A①自由権と社会権の区別が相対化しつつあるのに、それを画然と分けて、その限界を一方は内在的、他方は外在的と割り切ることは妥当ではない、②憲法に言う「公共の福祉」の概念を国の政策的考慮に基づく公益という意味に限定して考えるのは適切か、③13条を倫理的な規定であるとしてしまうと、それを新しい人権を基礎付ける包括的人権条項と解釈できなくなるのではないかと批判される。

 

〈一元的内在制約説〉

[学説]Q204 一元的内在制約説。A①公共の福祉とは、人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理である。②この意味での公共の福祉は、憲法規定にかかわらず、全ての人権に論理必然的に内在している。③この原理は、自由権を各人に公平に保障するための制約を根拠付ける場合には、必要最小限度の制約のみを認め、社会権を実質的に保障するために自由権の規制を根拠付ける場合には、必要な規制を認めるものとして働く。

 

[学説]〈批判〉Q205 同説批判。A人権の具体的限界についての判断基準として、「必要最小限度」ないしは「必要な限度」という抽象的な原則しか示されず、人権を制約する立法の合憲性を具体的にどのように判定していくのか、必ずしも明らかではない。内在的制約の意味が明確を欠くだけに、実質的には、外在制約説と大差のない結果となる虞も生じる。

 

〈比較衡量論〉

[基]Q206 比較衡量論と呼ばれる審査基準は、全ての人権について、それを制限することによってもたらされる利益をそれを制限しない場合に維持される利益とを比較衡量して、前者の価値が高いと判断される場合には、それによって人権を制限することができるというものである。A◯【フォロー】個別比較衡量論とも呼ばれる。

 

[基]〈利点〉Q207 比較衡量論は、個々の事件における具体的状況を踏まえて対立する利益を衡量しながら、妥当な結論を導き出そうとする方法でから、優れた一面を有している。A◯

 

[基]〈問題点〉Q208 比較衡量論は、一般的に比較の準則が必ずしも明確ではなく、特に国家権力と国民の利益の衡量が行われる憲法の分野においては、概して、国家権力の利益が優先する可能性が強い、という点に根本的な問題がある。A◯

 

[基]〈帰結〉Q209 比較衡量論の基準は、同じ程度に重要な二つの人権、例えば、報道の自由とプライバシー権を調節するため、裁判所が仲裁者として働くような場合に原則、限定して用いるのが妥当である。A◯

 

〈よど号新聞記事抹消事件/最大判昭和58.6.22〉

[判]〈判旨〉Q210 未決拘禁者の自由につき、逃亡ないし罪証隠滅の防止又は内部の規律及び秩序の維持という在監目的のため、必要かつ合理的な範囲において一定の制限が加えられることは、やむを得ないとし、その制限が是認されるかどうかは、在監目的のために制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を【比較衡量】して決せられるべきである。A◯

 

[判]〈判旨〉Q211 監獄長の抹消処分が許される限界について、閲読を許すことにより監獄内の紀律及び秩序の維持にとって障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要である。A◯

 

〈教科書検定/最判平成5.3.16〉

[判]Q212 教科書検定が表現の自由を侵害するかどうかにつき、表現の自由は、公共の福祉による合理的で必要やむを得ない制約を受けることがあり、その制限が右のような限度のものとして容認されるかどうかは、制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を比較衡量して決せられるべきものである。A◯

 

〈二重の基準論〉

[定]Q213 二重の基準論。A人権を規制する法律の違憲審査に当たっては、経済的自由の規制立法に適用される「合理性」の基準は、精神的自由の規制立法には妥当せず、より厳格な基準によって審査されなければならないとする理論。【フォロー】権利や自由の内容・形態、規制の目的・態様等によってさらに判定基準を細かく考えていこうとする。

 

[基]〈注意点〉Q214 二重の基準論は、①精神的自由と経済的自由との保障の程度が段階的に全く異なる形で区別されるのではなく、両者は保障の程度をほぼ同じくする領域を含み、重なる関係にあること、②現代憲法では、生存権をはじめとする社会権の他、憲法13条を根拠として認められるプライバシー権などの新しい人権をも加えて、人権の限界を検討すべきであることに注意が必要である。A◯

 

【8】⭐️私人間効力→(無敵用)→大別直接、間接

 

[学説]Q215 間接適用説。A規定の趣旨・目的ないし法文から直接的な私法的効力を持つ人権規定を除き、その他の人権については、法律の概括的条項、特に、公序良俗に反する法律行為は無効であると定める民法90条のような私法の一般条項を、憲法の趣旨に取り込んで解釈・適用すことによって、間接的に私人間の行為を規律しようとする見解。【フォロー】判例の立場。

 

[学説]〈基〉Q216 間接適用説の立場を採れば、人権規定の効力は、私人相互間の場合には、それが国家権力との関係で問題となる場合と異なり、当該関係の持つ性質の違いに応じて当然に相対化される。A◯

 

[学説]Q217 直接適用説。Aある種の人権規定が私人間にも直接適用されると説く見解。

 

[学説]〈批判〉Q218 同説批判。A人権規定の効力が相対化することを認めれば、実際上は間接適用説と殆ど異らないと批判される。

 

〈間接適用説の判例〉

〈三菱樹脂事件/最大判昭和48.12.12〉

[判]〈判旨〉Q219 私人間効力の問題については、社会的に許容し得る限度を超える人権の侵害があった場合には、民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって解決できるとし、間接適用説の立場に立ちつつ、具体的な解釈としては、企業は雇用の自由を有し、特定の思想・信条を有する者をその故をもって雇い入れを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。A◯

 

[判]〈判旨〉Q220 労働者の採否決定に当たり労働者の思想・信条を調査し、そのためその者からこれに関する事項についての申告を求めることも違法ではない。A◯

 

〈昭和女子大事件/最判昭和49.7.19〉

[判]〈判旨〉Q221 三菱樹脂事件を引いて間接適用の立場を明らかにした後、大学は国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設で、学生を規律する包括的権能を有するが、その権能も無制限なものではなく、在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認される。A◯

 

[判]〈判旨〉Q222 本件生活要録は、同大学が学生の思想の穏健中正を標榜する保守的傾向の私立大学であることをも勘案すれば、不合理なものと断定できず、退学処分も懲戒権者の裁量権の範囲内にあるもので違法ではない。A◯

 

〈百里基地訴訟/最判平成元.6.20〉

[判]〈判旨〉Q223 国が私人と対等の立場で締結する私法上の契約は、その成立の経緯及び内容において実質的に見て公権力の発動たる権利と何ら変わりがないと言えるような特段の事情がない限り、憲法9条の直接適用を受けず、【私法の適用を受けるに過ぎない】。A◯【フォロー/問意】本件契約は、実質的に見て公権力の発動たる行為と言えるのではないか。

 

2023.5.17

【10】⭐️13条→幸福追求権の意味一般的行為自由説、人格的利益説。

〈幸福追求権の内実〉

〈一般的行為自由説〉

[内容]Q224 一般的行為自由説内容。A13条は、広く一般的行為を行う自由、すなわち、あらゆる生活に関する自由を認めている。

 

[根拠]Q225 同説根拠。A個人の人権的生存に不可欠な人権と限定的に解すると、【人権保障の範囲が狭くなる】おそれがある。

【フォロー】24ー1ーイ

 

[批判]Q226 同説批判。A人権のインフレが起きる。

 

[補足]Q227 一般的行為自由説は、人格的生存に関わらない行動の自由については相対的に弱い保障を認め、緩やかな審査基準が妥当するとしている。A◯【フォロー】19ー4ーウ

 

[定]〈解釈〉Q228 一般的行為自由説。A個人の自由は広く保護されなければならないとの観点から、例えば服装、飲酒、散歩、登山、海水浴、自動車ないしオートバイの運転などの行為にも憲法の保障が及ぶと解する説。

 

【フォロー】その人権行使の一つの態様として、バイクに乗る、髪型を長髪にするかどうかの自由な決定が、他者の権利を侵害しない態度で保護されるという。しかし、人格的利益説をとっても、これらの権利が保護されなくなる訳でははない。

 

〈人格的利益説〉

[内容]Q229 人格的利益説内容。A13条は、個人の人格的生存に不可欠な人権を包括的に認めている。

 

[根拠]Q230 同説根拠。A①13条が一般的行為を広く認めているとすると、人権のインフレが起こり、人権の高位の価値が相対的に低下する、②人権の固有性が挙げられる。

 

[批判]Q231 同説批判。A人権保障の範囲が狭くなる。

 

[補足]Q232 人格的利益説は、新しい人権の承認について、個々の事案を考慮して、慎重に決することを求める見解である。A◯

【フォロー】24ー1ーア

 

[補足]Q233 人格的利益説であっても、公共の福祉による制約は認められる。A◯【フォロー】24ー1ーウ

 

[補足]Q234 人格的利益説にいう「人格的生存に不可欠」という基準は不明確であり、喫煙や髪型、趣味の自由については、論者により、人格的生存に不可欠であるか否か結論が異なっている。A◯

【フォロー】24ー1ーエ

 

〈幸福追求権の意義〉

[基]〈意義〉Q235 個人尊重の原理に基づく幸福追求権は、憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となる一般的かつ包括的権利であり、この幸福追求権によって基礎付けられる個々の権利は、裁判上の救済を受けることのできる具体的権利である。A◯【フォロー】判例も具体的権利性を肯定。

 

〈比例原則〉

[原則]〈定〉Q236 比例原則。A権利・自由の規制は、社会公共の障害を除去するために必要最小限に止まらなければならない原則。

 

〈幸福追求権から導き出される人権〉

[基]Q237 最高裁が正面から認めたものは、プライバシーの権利としての肖像権くらいである。A◯

 

〈前科照会事件/最判昭和56.4.18〉

[判]Q238 肖像権の他、前科・犯罪経歴等は人の名誉・信用に関わり、これを濫りに公開されないのは法律上保護に値する利益であると述べ、地方公共団体が弁護士の照会に安易に応じた行為を違法とした。A◯

 

【11】プライバシー権→私生活をみだりに公開されない権利、自己情報コントロール権

 

〈プライバシーの内容〉

〈私生活をみだりに公開されない権利〉

[理由]Q239 私生活をみだりに公開されない権利は、人が人格的生存を確保する上で不可欠である。A◯

 

〈自己情報コントロール権〉

[理由]Q240 個人の情報が行政機関などの情報収集機関により、一方的に収集・管理されている現代社会において、個人の人格的生存を実効的に確保するためには、自己に関する情報をコントロールする必要がある。A◯

 

〈プライバシーの権利〉

〈宴のあと事件/東京地判昭和39.9.28〉

 

[定]Q241 プライバシー権(消極的なもの)。A私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利。A◯【フォロー】宴のあと事件第一審判決。この私法上の権利は、個人の尊厳を保ち幸福の追求を保障する上において必要不可欠なものであるとし、それが憲法に基礎付けられた権利であることを認めた。

 

[要件]Q242 プライバシー侵害の3要件。A公開された内容が、①私生活上の事実又は事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること、②一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄であること、③一般の人々に未だ知られていない事柄であることを必要とする。

 

〈江沢民講演会参加者名簿提出事件/最判平成15.9.12〉

[判]〈事案〉Q243 事案の特殊性。A早大で中国の江沢民国家主席の講演会が開催された際に、警備に当たった警察の要請に応えて大学は、参加希望者が氏名、学籍番号、住所、電話番号を記入した名簿の写しを学生に無断で警察に提出した。学生が大学に対しプライバシー侵害を理由に損賠請求を求めた。

 

[判]〈判旨〉Q244 本件個人情報につき、本人が、自己が欲しない他者には濫りにこれを開示されたくないと考えることは自然のことであり、そのことへの期待は保護されるべきであるから、本件個人情報は、上告人等のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。A◯【フォロー】本件において学生の承認を求めることも容易であったと認定してプライバシー侵害を認めた。

 

〈住基ネット訴訟/最判平成20.3.6〉

[判]〈判旨〉Q245 13条が個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解されると述べた上で、本件では本人確認情報の目的外使用には住基法上重い刑罰により禁止される等の制度的担保が組み込まれており、プライバシー侵害の具体的な危険が発生しているとは言えないとした。A◯

 

〈違憲審査の基準〉

[基]〈基準〉Q246 個人情報は、誰が考えてもプライバシーと思われるものは、人の人格的生存の根源に関わるので、最も厳格な審査基準すなわち、目的は必要不可欠なやむにやまれぬ利益で、手段がその目的を達成するための必要最小限のものに限定される旨を要求する基準によって、合憲性を判断しなければならない。A◯

 

[基]〈基準〉Q247 一般的にプライバシーと考えられるもの等の情報については、原則、厳格な合理性の基準すなわち、立法目的が重要なものであり、規制手段が目的と実質的な関連性を有することを要求する基準を用いるのが妥当であると解される。A◯

 

〈自己決定権〉

[基]Q248 我が国では、自己決定権を真正面から認めた判例は存在しない。A◯

 

〈エホバの証人輸血拒否事件/最判平成12.2.29〉

[判]Q249 最高裁は、自己決定権には言及することなく、輸血を伴う医療行為を拒否する意思決定をする権利は人格権の一内容として尊重されなければならないとした。A◯

 

【フォロー/修正】自己決定権を認めた→× 自己決定権に言及することなく、人格的の一内容として尊重されなければならないとした。

 

【12】法の下の平等→見解「法の下」「平等」

〈「法の下の平等」(14①)の意味〉

 

〈立法者非拘束説〉

[学説]〈内容〉Q250 立法者非拘束説内容。A法の下の平等とは、法適用の平等を意味し、法内容の平等は要請されない。【フォロー】法内容の平等について、立法者を拘束しない。

 

[学説]〈理由〉Q251 同説理由。A人権は議会が制定した法律の範囲内で保障されているに過ぎず、裁判所には違憲審査権が与えられていない。【フォロー】憲法にいう人権は、専ら国民の代表である議会の手により法律を通して保障される。

 

〈立法者拘束説/通説〉

[学説]〈内容〉Q252 立法者拘束説内容。A法の下の平等とは、法内容の平等を意味し、法内容の平等が要請される。

 

[学説]〈理由〉Q253 同説理由。A不平等な内容の法律を平等に適用しても、真に平等権を実現することができない。

 

〈相対的平等の意味〉

[分解]Q254 法の下の平等とは、各人の性別、能力、年齢、財産、職業、又は人と人との特別な関係などの種々の事実的・実質的差異を前提として、法の与える特権の面においても、法の課する義務の面でも、同一の事情と条件の下では均等に扱うことをいう。A◯【フォロー】平等とは、絶対的、機械的平等ではなく、相対的平等だと言われる。

 

[定]Q253 絶対的平等。A様々な事実上の差異を無視して、全く機械的に平等に扱うことをいう。

 

[定]Q254 相対的平等。A等しいものは等しく、等しくないものは等しくなく扱うことをいう。

 

〈平等違反の違憲審査基準〉

[基]〈基準〉Q255 精神的自由ないしそれと関連する問題すなわち、選挙権などについて平等原則違反が争われる場合には、原則、立法目的が必要不可欠なものであるかどうか、立法目的達成手段が是非とも必要最小限のものかどうかを検討することが必要である。A◯

 

[基]〈基準〉Q256 経済的自由の積極的規制について平等原則違反が問題とされる場合、国会に広い裁量が認められるので、立法目的が正当なものであること、目的と手段との間に合理的関連性が存することをもって足りるとする基準すなわち、合理性の基準で良いとされる。A◯

 

[基]〈基準〉Q257 立法目的規制の場合は、厳格な合理性の基準すなわち、立法目的が重要なものであること、目的と手段との間に実質的な関連性があることを要求される。

 

〈サラリーマン税金訴訟/最大判昭和60.3.27〉

[判]〈判旨〉Q258 租税法の定立は立法府の政策的・技術的な判断に委ねる他ないので、立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することはできず違憲ではない。A◯

 

〈堀木訴訟/最大判昭和57.7.7〉

[判]〈判旨〉Q259 25条については、健康で文化的な最低限の生活とは、極めて抽象的・相対的概念であって、立法により具体化が必要である。25条に基づく立法措置についての選択決定は立法府の広い裁量に委ねられているとした。A◯

 

[判]〈判旨〉Q260 併給禁止条項により障害福祉年金受給者とそうでない者との間に児童不要手当の受給に関し差別が生じても、広汎な立法措置を前提として判断すると、差別は不合理なものとは言えない。A◯

 

〈平等の具体的内容/性別〉

〈夫婦同氏強制事件/最大判平成27.12.16〉

[判]Q261 夫婦同氏制(民法733条)は、①婚姻の自由を不当に制限する、②氏名に関する自己決定権の侵害である、③夫婦の96%が男性側の氏を採用しており、女性の自由な選択とはいえず、事実上の女性差別として機能しているとの主張がなされる。最高裁はこれら全ての主張を退け、合憲と判断した。A◯

 

〈社会的身分・門地〉

〈非嫡子相続分規定事件/最大決平成25.9.4〉

[判]〈事案〉Q262 事案の特殊性。A家裁の遺産分割審判において、嫡出子と均等な相続を主張したが容れられなかったので、相続財産について非嫡子の2分の1の法定相続分しか認めない民法900条4号但書の規定は違憲無効だと主張した。【フォロー】最高裁は、裁判官全員一致で婚外子相続分差別を違憲とする決定を下した。

 

[判]〈要旨〉Q263 平成13年7月以降本件判決時である平成25年9月までの間は、実際上は本規定が合憲であることを前提にして遺産分割がなされたであろうことを考慮して、法的安定性と平等の要請を調整するために、この間に審判その他の裁判あるいは協議その他の合意等により確定的となった法律関係には本決定は影響を及ぼさない。A◯

 

〈国籍法3条違憲事件/最大判平成20.6.4〉

[判]〈判旨〉Q264 国籍という法的地位は人権等を享有するための重要な地位であること、嫡出子かどうかは子が自らの意思や努力により決められることのできないものであることを理由に慎重な審査を行い、その結果、父母の婚姻という要件は、制定時には合理性があったが、その後の立法事実の変化により現在では合理性がなくなっており,その要件は違憲無効であるから、残りの要件を充たせば国籍は取得される。A◯【フォロー】国籍法3条は改正され、現行法上は、生後認知の届出により国籍を取得できる。

 

〈尊属殺重罰規定の合憲性〉

〈尊属殺重罰規定違憲判決/最大判昭和48.4.4〉

[判]Q265 事案の特殊性。A実父に夫婦同様の関係を強いられてきた被告人が、虐待に溜まりかねて実父を殺害し、自首した。【フォロー】最高裁は、刑法200条を違憲無効とし、199条の普通殺人罪を適用して執行猶予付き判決を下した。

 

[判]〈判旨〉Q266 8名の裁判官(多数意見)は、存続に対する報恩尊重という道義を保護するという【立法目的は合理的】であるが、刑の加重の程度が極端であって、立法目的達成手段として不合理だとした。A◯

 

[判]〈反意〉〉Q267 6名の裁判官(反対意見)は、立法目的自体が違憲であると説いた。A◯

 

【13】⭐️思想良心の自由→広義説、狭義説(内心説)

 

〈思想・良心の自由の保障の意味〉

[定]Q268 良心の自由。A思想のうち倫理性の強いものを意味する。

 

〈思想と良心の意味〉

〈広義説〉

[学説]〈内容〉Q269 広義説内容。A人の内心における物の見方ないし考え方であり、事物に対する是非弁別を含む内心一般である。【フォロー】謝罪広告の合憲性は、19条の問題とする。

 

[学説]〈理由〉Q270 同説理由。A思想・良心の自由の原理的保障としての意味から、保障対象は広義に捉えられるべきである。

 

[学説]〈批判〉Q271 同説批判。A思想・良心の自由が保障される範囲を広範に捉えることは、その高い価値を低下させ、その自由の保障を弱める。

 

2023.5.18

〈限定説〉

[学説]〈内容〉Q272 限定説内容。A人生観、世界観、思想体系、政治的意見などのように人格形成に関連のある内心の活動である。

【フォロー】謝罪広告の合憲性は、19条の問題ではなく、21条の沈黙の自由や13条の個人の尊厳の問題とする。

 

[学説]〈理由〉Q273 同説理由。A思想・良心の自由の保障の絶対性を確保する必要がある。

 

[学説]〈批判〉Q274 同説批判。A保障の対象となるものとならないものの区別が困難である。

 

〈謝罪広告強制事件/最大判昭和31.7.4〉

[判]〈事案〉Q275 事案の特殊性。A衆議院選挙に際して、他の候補者の名誉を毀損した候補者が、裁判所から謝罪広告を公表することを命ずる判決を受けたので、謝罪広告を強制することは思想・良心の自由の保障に反するとして争った。

 

[判]〈判旨〉Q276:謝罪広告の中には、それを強制執行すれば、債務者(加害者)の人格を無視し著しくその名誉を毀損し意思決定の自由ないし良心の自由の自由を不当に制限することとなるものであるが、本件の場合のように、単に事態の真相を告白し陳謝の意を表するに止まり程度であれば、これを代執行によって強制したとしても違憲とはならない。A◯【フォロー/反対利益】前段で反対利益に配慮する。

 

[判]〈反意〉Q277 この判決には、事物の是非弁別の判断に関する事項の外部への表現を判決で命ずること、あるいは、謝罪・陳謝という倫理的な意思の公表を強制することは良心の自由を侵害し違憲であるという反対意見が付されている。A◯【フォロー】これを支持する学説も有力。

 

〈麹町中学内申事件/最判昭和63.7.15〉

[判]〈事案〉Q278 事案の特殊性。A高校進学希望の一生徒が、その内申書に「校内において麹町中全共闘を名乗り、機関紙「砦」を発行。学校文化祭の際、他校の生徒と共に校内に乱入し、ビラ撒きを行った。大学生ML派の集会に参加している。学校当局の指導説得を聞かないでビラを配ったり、落書きをした」旨の記載があったことなどが理由で受験した全ての入試で不合格。国家賠償に基づく損賠請求を提起した。

 

[判]〈判旨〉Q279 19条違反の主張を、いずれの記載も、上告人の思想、信条そのものを記載したものではないことが明らかであり、右の記載に係る外部的行為によっては上告人の思想、信条を了知し得るものではないし、また、上告人の思想,信条自体を高等学校の入学選抜試験の資料に供したものとは到底解することはできないと述べ排斥した。A◯

 

【フォロー/疑問】内申書に「ML派の集会に参加している」などのような、本人の思想・信条を直接推知せしめる事実を記載することは許されないのではないかという疑問が持たれる。

 

〈君が代ピアノ伴奏拒否事件/最判平成19.2.27〉

[判]〈事案〉Q280 事案の特殊性。A市立小学校の音楽専科の教諭が校長から入学式での君が代斉唱のピアノ伴奏をするよう命じられたが、この職務命令に従わなかっために戒告処分を受けた。その処分取消訴訟において、職務命令が教諭の思想・良心の自由を侵害するものであり無効であると主張した。

 

[判]〈判旨〉Q281 ピアノ伴奏と君が代に関する歴史観・世界観とは一般的には不可欠の関係にあるわけではないから、ピアノ伴奏の強制は必ずしも世界観・歴史観の強制を意味するわけではなく、また、入学式における君が代の伴奏は、音楽専科の教諭にとって通常想定され期待されるものであって、特定の思想を表明する行為とは受け取られていないから、伴奏の強制は特定の思想の有無の告白を強制するものではないとした。A◯

 

〈信教の自由〉

〈明治憲法の信教の自由〉

[大]Q282 明治憲法も、もちろん信教の自由を保障していた。A◯【フォロー/留保】28条。他の自由権と異なり、法律の留保を伴わず、その限界は「安寧秩序を妨げず及び臣民たる義務に背かざる範囲において」という基準によって、憲法上定められていた。

 

〈信教の自由の内容〉

[定]Q283 信仰の自由。A宗教を信仰し、又は信仰しないこと、信仰する宗教を選択し、又は変更することについて、個人が任意に決定する自由である。

 

[定]Q284 宗教的行為の自由。A信仰に関して、個人が単独で又は他の者と共同して、祭壇を設け、礼拝や祈祷を行う等、宗教上の祝典、儀式、行事その他布教等を任意に行う自由である。

 

[定]Q285 宗教的結社の自由。A特定の宗教を宣伝し、又は共同で宗教的行為を行うことを目的とする団体を形成する自由である。

 

〈信教の自由の限界〉

〈剣道実技拒否事件/最判平成8.3.8〉

[判]〈事案〉Q286 事案の特殊性。A信仰する宗教エホバの証人の教義にもとづいて、必修科目の体育の剣道実技を拒否したため、原級留置・退学処分を受けた神戸市立工業高等専門学校の学生が、右処分は信教の自由を侵害するとし、その取消しを求めて争った。

 

[判]〈判旨〉Q287 学校側の措置は、社会通念上著しく妥当を欠く処分であり、裁量権の範囲を超えて違法なものである。A◯【フォロー】必要不可欠な目的を達成するための最小限度の手段という観点から言えば、正当と評することができる。

 

〈宗教法人オウム真理教解散事件/最決平成8.1.30〉

[判]〈事案〉Q288 事案の特殊性。A大量殺人を目的とした毒ガスであるサリンを組織的・計画的に大量に生産したため、宗教法人法81条に言う「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」及び「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」を行なったとして、宗教法人の解散命令が請求された。

 

[判]〈要旨〉Q289 解散命令の制度は、専ら世俗的目的によるものであって、宗教団体や信者の精神的・宗教的側面に容喙する意図によるものではなく、本件解散命令は、それによってオウム真理教やその信者らの宗教上の行為に支障が生じても、それは解散命令に伴う間接的で事実上ものに過ぎず、必須でやむを得ない法的規制であるとし、20条1項に反しないとした。A◯

 

【フォロー】解散命令があっても、法人格を有しない宗教団体を存続させたり、新たに結成することが妨げられない訳ではないから、厳格な要件の下で行われる解散命令の制度は、違憲とは言えない。

 

〈政教分離に関する判例〉

〈津地鎮祭事件/最大判昭和52.7.13〉

[判]〈事案〉Q290 事案の特殊性。A三重県津市が、市体育館の建設にあたって、神式の地鎮祭を挙行し、それに公金を支出したことが、20条、89条に反するのではないかが争われた。

 

[判]〈判旨〉Q291 20条3項により禁止される宗教的活動とは、宗教との関わり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で、相当とされる限度を超えるもの、すなわち、その行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になる行為に限られる。A◯

 

[判]〈判旨〉Q292 神武式地鎮祭は、その目的は世俗的で、効果も神道を援助、助長したり、他の宗教に圧迫、干渉を加えるものではないから、宗教的行事とは言えず、政教分離原則に反しない。A◯

 

〈箕面忠魂碑訴訟/最判平成5.2.16〉

[判]〈事案〉Q293 事案の特殊性。A箕面市が小学校の増改築のため、遺族会所有の忠魂碑を別の市有地に移転・再建したところ、その費用及び市有地の無償の使用貸借行為が政教分離原則に反するとして、住民訴訟が提起された。

 

[判]〈判旨〉Q294 忠魂碑は戦没者の慰霊・顕彰のための記念碑で宗教的施設ではなく、遺族会も憲法20条1項の宗教団体、89条の宗教上の組織若しくは団体ではないから、市の行為は違憲ではない。A◯

 

[判]〈判旨〉Q295 慰霊祭に市の教育長が参列し玉串を捧げ焼香したことは、職務に関わる社会的儀礼行為であり、目的・効果基準に照らし宗教的活動に当たらないとした。A◯

 

〈自衛官合祀拒否事件/最大判昭和63.6.1〉

[判]〈事案〉Q296 事案の特殊性。殉職自衛官の夫を自己の信仰に反して山口県護国神社に合祀されたキリスト教信者の未亡人が、合祀を推進し申請した自衛隊山口地方連絡部と社団法人隊友会山口県支部連合会の行為は政教分離原則に違反し、亡夫を自己の意志に反して祭神として祀られることのない自由を侵害するとして、損賠を請求した。

 

[判]〈判旨〉Q297 共同行為性を否定し、隊友会が単独で行なった申請行為に協力したに過ぎない地連の行為は、目的・効果基準に照らし、宗教的活動とまでは言うことができないとし、神社による合祀は未亡人の自由を妨害せず、その法的利益を侵害するものではない。A◯

 

[判]〈反意〉Q298 伊藤正己裁判官反対意見。A地連と隊友会が共同で行なった合祀申請は、合祀と密接不可分の関係にあるもので、目的・効果の基準に照らし宗教的活動に当たり、宗教上の心の静穏という法的利益を違法に侵害する。

 

(空知太神社事件/最大判平成23.1.20〉

[判]Q299 事案の特殊性。A市が市有地を連合町内会に無償で神社施設の敷地として利用されていたのに対し、市の住民が政教分離原則違反を主張して住民訴訟で争った。

 

[判]〈判旨〉Q300 当該宗教的施設の性格、当該土地が無償で当該施設の敷地としての用に供されるに至った経緯、当該無償提供の態様、これらに対する一般人の評価等、諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に行うべきである。本件は、憲法89条の禁止する公の財産の利用提供に当たり、延いては憲法20条1項後段の禁止する宗教団体に対する特権の付与にも該当する。A◯

 

〈愛媛玉串料訴訟/最大判平成9.4.2〉

[判]Q301 事案の特殊性。A愛媛県知事の靖国神社に対する玉串料等の支出、22回に亘り計16万6000円を争った住民訴訟。

 

[判]〈判旨〉Q302 玉串料の奉納は、社会的儀礼とは言えず、奉納者も宗教的意義を有するとの意識を持たざるを得ないもので、県が特定宗教団体だけ意識的に特別の関わり合いを持ったことになり、その結果、一般人に対して靖国神社は特別なものとの印象を与え、特定宗教への関心を呼び起こす効果を及ぼしたとし宗教的活動に当たるとした。A◯

 

〈学問の自由/内容〉

〈旭川学テ事件/最大判昭和51.5.21〉

[判]〈判旨〉Q303 普通教育においても、【一定の範囲における教授の自由が保障】されることを認めた。A◯

 

[判]〈判旨〉Q304 教育の機会均等と全国的な教育水準を確保する要請などがあるから、【完全な教授の自由】を認めることは、到底許されないとした。A◯

 

〈大学の自治/施設・学生の管理に自治〉

〈東大ポポロ事件/最大判昭和38.5.22〉

[判]〈事案〉Q305 事案の特殊性。A東大の学生団体ポポロ劇団主催の演劇発表会が東大内の教室で行われている途中で、観客の中に私服の警察官がいることを学生が発見し、警察官に対して、警察手帳の呈示を求めた際に暴行があったとして、暴力行為等処罰に関する法律違反で起訴された。

 

[判]〈判旨〉Q306 ポポロ劇団の演劇発表会が、学問研究のためではなく、内容が非常に当時非常に問題とされた松川事件に取材したものであったことなどから考えると、実社会の政治社会活動であり、かつ、公開の集会又はこれに準ずるものであるから、大学の自治を享有しないとした。A◯

 

【フォロー/疑問】①本件警察官の行為が長期に亘る情報収集活動の一環として行われたものであることを考慮に入れなかったこと、②学問的活動が政治的社会的活動かの区別は極めて困難な場合が少なくないのに、大学が正規の手続を経て教室の使用を許可した判断を尊重しなかったことなど、疑問が多い。

 

2023.5.20

【14】表現の自由→自己実現の価値、自己統治の価値 

 

〈表現の自由の価値/表現の自由を支える二つの価値〉

[定]Q307 自己実現の価値。A個人が言論活動を通じて自己の人格の形成を発展させるという個人的な価値。

 

[定]Q308 自己統治の価値。A言論活動によって国民が政治的意思決定に関与するという、民主政に資する社会的な価値。

 

[基]〈基〉Q309 表現の自由は、個人の人格形成にとっても重要な権利であるが、取り分け、国民が自ら政治に参加するための不可欠の前提をなす権利である。A◯

 

【15】知る権利→アクセス権

〈表現の自由と知る権利/送り手の自由から受け手の自由へ〉

[基]Q310 表現の自由は、思想・情報を発表し伝達する自由であるが、情報化の進んだ現代社会では、その観念を知る権利という観点を加味して再構成しなければならない。A◯

 

〈知る権利の法的性格〉

[基]〈法性〉Q311 知る権利は、国家からの自由という伝統的な自由権であるが、それにとどまらず、参政権的すなわち、国家への自由という役割を演ずる。A◯【フォロー/理】個人は様々な事実や意見を知ることによって、初めて政治に有効に参加することができる。

 

〈アクセス権〉

[定]Q312 アクセス権。A近づく権利ということで様々な場合に用いられる。例えば、裁判請求権のことを、裁判所へのアクセス権という。【フォロー】政府情報へのアクセス権とは、政府情報の公開請求権を意味する。その場合は、知る権利と同様になる。

 

[基]〈意味〉Q313 アクセス権とは、一般に、マスメディアに対する知る権利、つまり、情報の受け手である一般国民が、情報の送り手であるマスメディアに対して、自己の意見の発表の場を提供することを要求する権利の意味に使われることが多い。A◯

 

[基]Q314 私企業の形態を採っているマスメディアに対する具体的なアクセス権を21条から直接導き出すことは不可能で、それが具体的権利となるためには、特別の法律(反論権法)が制定されなければならない。A◯

 

〈サンケイ新聞事件〜マスメディアに対するアクセス権が問題となった/最判昭和62.4.28〉

[判]〈事案〉Q315 事案の特殊性。A自民党がサンケイ新聞に掲載した意見広告が共産党の名誉を毀損したとして、共産党が同じスペースの反論文を無料かつ無修正で掲載することを求めた。

 

[判]〈判旨〉Q316 反論文の制度は、新聞を発行・販売するものにとっては紙面を割かなければならなくなる等の負担を強いられるのであって、これらの負担が、批判記事、殊に公的事項に関する批判的記事を躊躇させ、表現の自由を間接的に侵す危険に繋がる虞の多分に存する等、民主主義社会において極めて重要な意味を持つ新聞等の表現の自由に重大な影響を及ぼすので、【名誉が毀損され不法行為が成立する場合は別論】として、具体的な【成文法の根拠】が【ない限り】、認めることはできない。A◯

 

[判]〈判旨〉Q317 公共の事実に係り、その目的が専ら公益を図るものであるから、不法行為を成立しない。A◯