刑訴基本的事項⑦[判例]Q613〜710

 

〈伝聞証拠〉

〈伝聞の意義/東京高判昭和58.1.27 百79〉

[判]〈主張〉Q613 被告人側の主張。A本件メモは、Bを原供述者とする再伝聞証拠であるが、Bが死亡等により 供述不能とする証拠及び特信情況についての証拠が存在しないから、その証拠能力は否定される。

 

[判]〈判旨〉Q614 本件メモについて、意思の合致するところとして確認されなかったとしても、本件メモの作成経緯等が明らかになった時点において、弁護人が証拠の排除を申し出ることもBを証人として申請することもしていないから、Bに対する反対尋問権を放棄したものと解されてもやむを得ないとして、本件メモの証拠能力を肯定した。A◯

 

[定]Q615 伝聞法則。A 原則、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできないこと。

 

[定]Q616 伝聞。A伝え聞き、又聞き。

 

[例]Q617 伝聞の例。A① Aは犯人が現場から走り去るのを目撃、②Aは、そのことをBに話した。③BがAから聞いたことを証言。この③のことをいう。【フォロー】CがBから聞いた「Aの話したこと」を話すのが再伝聞。

 

[考要]〈理〉Q618 何故、伝聞法則というものがあるのか。A又聞きは正確ではないから。

 

[考要]〈理〉Q619 何故、供述録取書に署名・押印が必要なのか。A録取書が、書面に記録する過程で誤りが混入するのを防ぐため。【フォロー】自ら作成した供述書は、署名・押印は不要。

 

[定]Q620 伝聞証拠。A公判期日外における者の供述を内容とする供述を内容の真実性が要証事実となるもの。

 

[学説]Q621 伝聞証拠について実質説。A事実認定する裁判所の前での反対尋問を経ていない供述証拠。

 

[学説]〈同上〉Q622 形式説。A①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②供述内容の真実性を立証するためのもの。【フォロー】実質説の定義によれば、原供述が伝聞証拠になるが、形式説は、原供述を内容とする公判廷供述・書面を伝聞証拠とする点で相違がある。

 

[基準]Q623 伝聞証拠の判断基準。A伝聞供述となるかどうかは、要証事実と当該供述者の知覚との関係により決せられる。

【フォロー/理由】最判昭和38.10.17。320条1項にいう供述証拠は、知覚、記憶、表現の各過程に過誤が介在する危険があり、反対尋問により真実性を吟味する必要がある。

 

🟧🔵予備26 伝聞法則の定義

🟧🔵予備26 供述録音の証拠能力

🟧🔵予備26 伝聞例外

🔷[論文リ(39)]伝聞証拠・非伝聞証拠の区別

🔷[論文リ(40)]伝聞証拠の意義と犯行計画メモ

🟩[論文マ(43)]伝聞法則

→伝聞証拠に当たるか否かは、要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となるかどうかで相対的に判断される。

 

[定]Q624 供述証拠。A言語又はこれに代わる動作によって表現された供述が証拠となるもの。

 

[定]Q625 非供述証拠。Aものの存在、あるいは状態などを証明するための供述以外の証拠。

 

[文解]〈判例〉Q626「実質的に異なる」(321①2号)。A 被告人の検察官に対する供述を録取した書面で、その公判廷における供述と大綱においては一致しているが、公判廷の供述よりも内容において詳細なものも「実質的に異なる」といえる。

 

[文解]Q627 312条1項2号にいう「前の供述と相反」。A立証事実との関係で、公判準備又は公判期日の供述と検面調書記載の供述とが、表現上明らかに矛盾していること。

 

[要件]Q628 裁判官面前調書の要件。A供述不能又は前と異なった供述(相反性)。

 

[要件]Q629 検察官面前調書(前段書面)の要件。A①供述不能、②特信状況。【フォロー】321①2号前。

 

[要件]Q630 検察官面前調書(後段書面)の要件。A①供述不能又は実質的不一致供述、②相対的特信状況。【フォロー】321①2号後。

 

[要件]Q631 司法警察員面前調書等の要件。A①供述不能、②不可欠性、③絶対的特信状況。【フォロー】321①3号。321条1項3号における特信状況は、321条1項2号と異なり比較の問題ではなく、それ自体の絶対的特信性が要求される。

 

[要件]Q632 証人尋問調書・検証調書の要件。A無条件。

【フォロー】321②。

 

[要件]Q633 検査機関の検証調書の要件。A証人の真正作成供述。【フォロー】321③。

 

[要件]Q634 鑑定人の鑑定書の要件。A鑑定人の真正作成供述。【フォロー】321④。

 

[要件]Q635 被告人の供述書及び供述録取書について、被告人の供述が不利益な事実の承認であるときの要件。A①被告人の供述が不利益な事実の承認であるとき、②供述の任意性に疑いがないとき。

【フォロー/文解】321①。「被告人に不利益な事実の承認」とは、およそ自己に不利益な被告人の供述をいい、一部自白、間接事実を認める供述も含む。

 

[要件]Q636 被告人の供述書及び供述録取書について、被告人の供述が不利益な事実の承認でないときの要件。A絶対的特信状況。

 

[要件]Q637 被告人の公判準備又は公判期日における供述録取書の要件。A任意性。【フォロー】321②。

 

🔷[論文リ(45)]321条1項3号の要件。

 

〈供述不能の意義/東京高判平成22.5.27 百80〉

[判]〈判旨〉Q638 321条1項2号前段の供述不能は、例外的に伝聞証拠を用いる必要性を基礎付ける事情であるから、一時的なものでは足りず、その状態が相当程度継続して存続しなければならないが、他方で迅速な裁判の要請も考慮する必要があるから、証人が証言を拒絶した場合には、事案の内容、証人の重要性、審理計画に与える影響、証言拒絶の理由及び態度等を総合考慮して、供述不能といえるかを判断するべきである。A◯

 

[原則]〈理〉Q639 伝聞証拠は、原則、証拠とすることができない(320①)。その理由。A反対尋問の機会を欠いている以上、供述者の態度等を直接注視して信用性を吟味することもできない。

 

🔷[論文リ(44)]証人が証言を拒絶した場合

 

〈犯行状況等の再現結果を記録した実況見分調書/最決平成17.9.27 百83〉

 

[判]〈要旨〉Q640 実況見分調書や写真撮影報告書等の証拠能力については、326条の同意が得られない場合には、321条1項所定の要件を満たす必要があることはもとより、再現者の供述の録取部分及び写真については、再現者が被告人以外の者である場合には、321条1項2号ないし3号所定の、被告人である場合には322条1項所定の要件を満たす必要がある。A◯

 

[判]〈実見目的〉Q641 再現実況見分を行う目的。A①供述内容を行動で示させ、視覚的に明確化すること、②放火方法など、供述通りに犯行可能であるかを確認すること、③被疑者等に自ら犯行を再現させ、供述の任意性や信用性を吟味・担保することなどを目的とする。【フォロー】捜査実務上よく行われる。

 

[考要]Q642 証拠能力を有するといえるためには、何が必要か。A自然的関連性、すなわち、要証事実について必要最小限度の証明力を有すること。

 

[用語]〈定〉Q643 被害再現見分調書。A被害者立会いの下で被害者や犯人等に見立てられた警察官が被害状況等を再現し、その経緯及び結果を記録した実況見分調書。

 

[定]Q644 実況見分調書。A捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載した書面。【フォロー/検証】人の五官の作用によって物、場所、人の状態を認識する処分。

 

🔷[論文リ(41)]犯行再現写真、現場指示・現場供述の証拠能力

不要🔷[論文リ(42)]写しの証拠能力

🔷[論文リ(46)]実況見分調書の証拠能力

 

🟩[論文マ(44)]実況見分調書について

→実況見分は、人・物・場所において五官の作用によりその状況を観察する任意処分である。もっとも、任意処分であっても、検証調書と同様に書面による方が誤りの混入する危険は少なく、また、書面によった方が正確であることから、実況見分調書も321条3項の書面に含まれ、同条項により証拠能力が認められる。

 

🟩[論文マ(45)]現場指示部分の証拠能力

→実況見分の動機を示し、対象を特定するための手段としての現場指示は、地点特定の立証趣旨にとどまる限り、実況見分調書と一体として、321条3項により証拠能力が認められる。

 

🟩[論文マ(46)]現場供述部分の証拠能力

→実況見分調書が321条3項の要件を満たすことに加え、現場供述について、供述者が被告人の場合には322条1項、被告人以外の場合は321条1項3号の要件を満たす必要がある。

 

不要🟩[論文マ(47)]写しの証拠能力

→①原本が存在し、または存在したこと、②内容が原本に一致していること、③写しを提出する必要性があること、④原本でしか証明できない事情が含まれていないという要件が満たされれば、写しにも証拠能力が認められると解する。

 

🟩[論文マ(50]再現写真の証拠能力

→再現状況については、実況見分調書として321条3項の要件を満たすのみならず、加えて、再現者が被告である場合は、322条1項、被告人以外の場合には321条1項3号の要件を満たす必要がある。

 

〈私人作成の燃焼実験報告書/最決平成20.8.27 百84〉

 

 [判]〈判事〉Q645 判示事項。A 火災原因の調査,判定に関し特別の学識経験を有する私人が燃焼実験を行ってその考察結果を報告した書面について,刑訴法321条3項は準用できないが,同条4項の書面に準じて同項により証拠能力が認められるか。【フォロー/解釈】321条3項所定の主体は、「検察官、検察事務官又は司法警察職員」とされている。かかる規定の文言及びその趣旨に照らすならば、本件報告書抄本はのような私人作成の書面に同項を準用することはできないと解する。

 

 [判]〈要旨〉Q646 火災原因の調査,判定に関し特別の学識経験を有する私人が燃焼実験を行ってその考察結果を報告した本件書面については,刑訴法321条3項所定の書面の作成主体が「検察官,検察事務官又は司法警察職員」と規定されていること及びその趣旨に照らし同項の準用はできないが,同条4項の書面に準ずるものとして同項により証拠能力を有する。A◯

 

[趣]Q647 312条4項趣旨(鑑定の経過及び結果を記載した書面・・)。A鑑定書は、専門性がある特別の学識経験を有する者が作成した書面であり、通常相当の正確性を有すること、また、鑑定書の内容は複雑な事項を含むため、書面による報告に馴染む。

 

[文解]Q648「真正に作成された」(321④)。A作成名義の真正のみならず、記載内容の正確性、鑑定内容の正確性をも意味する。

 

〈特に信用すべき書面/東京地決昭和53.6.29 百85〉

[判]〈要旨〉Q649 個人的目的で作成された公開性がないという一点を除けば、本件日誌は、作成目的及び作成方法に照らし、まさに本件業務過程文書に比肩すべき高度の信用性の情況的保障を有するものと認められ、323条3号所定の文書に該当する。A◯

 

[判]〈要旨〉Q650 本件日記は、その記載内容を見ても、銀行における業務上の出来事も記載されている反面、全く私生活に関する事項の記述や主観的な所感、意見等が随所に記載されているといった状況であって、到底これをもって323条1号、2号所定の書面に準じる性質の書面と解することはできない。A◯

 

[前提]Q651 320条1項の規定は、伝聞証拠禁止の原則を規定したものとされ、321条以下は伝聞証拠を例外的に許容する要件を規定したものと理解されている。A◯

 

[要件]Q652 伝聞例外の要件。A信用性の状況的保障と必要性の相関関係により定まる。

 

[意義]Q653 323条の意義。A信用性の状況的保障が類型的に高度であり、また書面の作成者を証人尋問して得た供述よりも書面自体を証拠とした方が正確性を期待し得るものについて、無条件に証拠能力を認める。

 

〈証拠とすることの同意/大阪高判平成8.11.27 百86〉

[判]〈判旨〉Q654 被告人が公訴事実を否認している場合には、検察官請求証拠につき弁護人が関係証拠に同意しても、被告人の否認の陳述の趣旨を無意味に帰せしめるような内容の証拠については、弁護人の同意のみにより被告人がこれら証拠に同意したことになるものではない。A◯

 

[法性]〈理〉Q655 326条1項の法的性格。A⑴326条1項の規定によれば、検察官及び被告人が同意した書面又は供述は、裁判所が相当と認めるときに限り、321条ないし325条の規定にかかわらず、証拠とすることができる。⑵320条1項が伝聞証拠である書面や供述の証拠能力を否定しているのに対し、321条以下はその例外を規定している。⑶さらに、326条1項は、それらの規定にかかわらず、当事者が同意した書面又は供述に証拠能力を認めている。このことから、本規定(326①)は、伝聞例外の中でも、例外的規定であると理解されている。

 

〈証明力を争う証拠/最判平成18.11.7 百87〉

[判]〈判旨〉Q656 328条は、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述が、別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に、矛盾したことの供述したこと自体の立証を許すことにより、公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性を減殺を図ることを許容する趣旨のものであり、別の機会に矛盾する供述をしたという事実の立証については、刑訴法が定める厳格な証明を要する趣旨であると解する。A◯

 

[判]〈判旨〉Q657 328条により許容される証拠は、信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が、同人の供述書、供述を録取した書面(要件を満たすものに限る)、同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られているというべきである。A◯

 

[判]〈判旨〉Q658 本件書証は、本件Aの供述を録取した書面であるが、同書面には同人の署名押印がないから、本件供述を録取した書面に当たらず、これと同視し得る事情もないから、328条が許容する証拠に当たらない。A◯

 

[定]Q659 立証趣旨。A当該証拠の取調べを請求する当事者が、その証拠によって立証しようとする事実。

 

[定]Q660 要証事実。A具体的な訴訟の過程で、その証拠が立証するものと見ざるを得ないような事実をいう。

 

🔷[論文リ(47)]「証明力を争うため」に用いられる証拠の範囲

→最判平成18.11.7百87。

 

🟩[論文マ(51)]328条の「証明力を争うため・・証拠」の意義

→「証明力を争うため・・証拠」とは、自己矛盾供述に限られる。理由は、自己矛盾供述の場合には、供述内容の真実性が問題にならないからである。

 

不要🟩[論文(52)]「証明力を争うため・・証拠」には、増強証拠及び回復証拠を含むのか→①増強証拠は争っているわけではないこと、②増強証拠により犯罪事実を認定することは、供述内容の真実性が問題となり、伝聞法則の潜脱となることから「証明力を争うため・・証拠」には、増強証拠は含まない。他方、回復証拠は、弾劾の弾劾という意味では、争っているといえるから、「証明力を争うため・・証拠」に含まれると解する。

 

🟧🔵予備26 立証趣旨と要証事実

🟧🔵予備26 弾劾証拠

不要🔷[論文リ(43)]再伝聞

 

〈現場写真/最決昭和59.12.21 百89〉

[判]Q661 犯行の状況等を撮影したいわゆる現場写真は、非供述証拠に属し、当該写真自体又はその他の証拠により事件との関連性を認めうる限り証拠能力を具備するものであって、これを証拠として採用するためには、必ずしも撮影者らに現場写真の作成過程ないし事件との関連性を証言させることを要するものではない。A◯

 

🟩[論文マ(48)]写真の証拠能力

→写真は、対象を機械的、科学的方法により事実を紙に印刷するものであり、人間の知覚・記憶・叙述の過程を経て証拠化されるものではない。したがって、写真は非供述証拠であると解する。写真には伝聞法則の適用はなく、写真と要証事実との関連性は、何らかの手段で立証できれば足りると解する。

 

🟩[論文マ(49)]実況見分調書添付の現場写真の証拠能力

→現場の状況・位置関係をただ撮影しただけの「現場写真」は、現場の状況や位置関係を言葉で説明する代わりに写真という客観的かつ機械的手段で保全しただけであり、実況見分調書の一部として、321条3項により証拠能力が認められる。

 

〈証拠排除の要件/最判昭和53.9.7 百90〉

 

[判]〈判旨〉Q662 押収等の手続に違法のある証拠物とその証拠能力について、証拠物の押収等の手続に憲法35条及びこれを受けた刑訴法218条1項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるべきである。A◯

 

[判]〈判旨〉Q663 押収手続に違法のある証拠物について証拠能力が認められるかについて、職務質問の要件が存在し、かつ、所持品検査の必要性と緊急性が認められる状況の下で、必ずしも諾否の態度が明白ではなかった者に対し、令状主義に関する諸規定を潜脱する意図なく、また、他に強制等を加えることなく行われた本件所持品検査において、警察官が所持品検査として許容される限度をわずかに超え、その者の承諾なくその上衣左側内ポケツトに手を差し入れて取り出し押収した点に違法があるに過ぎない本件証拠物の証拠能力は、これを肯定すべきである。A◯

 

[考要]〈趣〉Q664 321条4項が比較的緩やかな要件の下で、「鑑定書」に証拠能力を付与した趣旨。Aその内容が専門的かつ詳細であるため、これを口頭で供述させるより、書面化した方が正確かつ詳細であること、また、その内容が専門的かつ客観的なものであるため、鑑定人の主観によって内容が歪められるおそれが少なくないことにある。

 

〈先行手続の違法と証拠能力⑴/最判昭和61.4.25 百91〉

[判]〈判旨〉Q665 被告人宅への立ち入り、同所からの任意同行及び警察署への留め置きの一連の手続きと採尿手続は、被告人に対する覚醒剤事犯の捜査という一連の手続きよりもたらされた状態を直接利用してなされていることに鑑みると、採尿手続の適法違法については、採尿手続前の一連の手続きにおける違法の有無、程度をも十分考慮してこれを判断するのが相当である。A◯

 

[判]〈判旨〉Q666 そのような判断の結果、その違法の程度が令状主義の精神を没却するような重大なものであり、上記鑑定書を証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当ではないと認められるときに、上記鑑定書の証拠能力が否定される。A◯

 

[判]〈判旨〉Q667 本件尿の鑑定書を被告人の罪証に供することが、違法捜査抑制の見地から相当でないとは認められないから、本件尿の鑑定書の証拠能力は否定されるべきではない。A◯【フォロー】証拠能力は肯定。

 

[判]〈反意〉Q668 本件反対意見。A 特に立入行為の違法性の強さを強調した。その上で、任意同行や留め置き行為も違法であり、このような状況においてなされた採尿は、それだけを切り離して評価すべきものではなく、被告人宅への立ち入り以降の一連の手続とともに全体として評価すべきものであるとした上で、本件手続には令状主義の精神を没却するような重大な違法があるとした。【フォロー】島谷六郎裁判官。

 

〈先行手続の違法と証拠能力⑵/最判平成15.2.14 百92〉

[判]〈判旨〉Q669 逮捕当日に採取された被疑者の尿に関する鑑定書の証拠能力が逮捕手続に重大な違法があるとして否定されるかについて、被疑者の逮捕手続には,逮捕状の呈示がなく,逮捕状の緊急執行もされていない違法があり,これを糊塗するため,警察官が逮捕状に虚偽事項を記入し,公判廷において事実と反する証言をするなどの経緯全体に表れた警察官の態度を総合的に考慮すれば,本件逮捕手続の違法の程度は,令状主義の精神を没却するような重大なものであり,本件逮捕の当日に採取された被疑者の尿に関する鑑定書の証拠能力は否定される。A◯

 

[判]〈判旨〉Q670 捜索差押許可状の発付に当たり疎明資料とされた被疑者の尿に関する鑑定書が違法収集証拠として証拠能力を否定される場合、同許可状に基づく捜索により発見押収された覚せい剤等の証拠能力について、捜索差押許可状の発付に当たり疎明資料とされた被疑者の尿に関する鑑定書が違法収集証拠として証拠能力を否定される場合であっても,同許可状に基づく捜索により発見され,差し押さえられた覚せい剤及びこれに関する鑑定書は,その覚せい剤が司法審査を経て発付された令状に基づいて押収されたものであり,同許可状の執行が別件の捜索差押許可状の執行と併せて行われたものであることなど判示の事情の下では,証拠能力を否定されない。A◯

 

[定]Q671 違法収集証拠の排除。A違法に収集された証拠の証拠能力を否定する原則。

 

[根拠]Q672 違法収集証拠排除法則の根拠。A①適正手続の保障、②司法の無瑕性・廉潔性の保持、③将来の違法捜査の抑止の3つ。【フォロー】物のみならず、自白についても、この3つの根拠は当てはまる。

 

🔷[論文リ(33)]違法収集証拠の排除法則

🟩[論文マ(38)]違法収集証拠の排除法則

🟧🔵予備26、30 違法収集証拠の排除法則

→違法収集証拠の排除法則は、①令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、②これを証拠として採用することが将来の違法捜査抑止の見地より相当でない場合に、適用される。

 

不要🔷[論文リ(34)]毒樹の果実論

 

不要🟩[論文マ(39)派生証拠(毒樹の果実)のアプローチ

→派生証拠と違法手段との関連性派生証拠の重要性等を考慮して、証拠能力の有無を判断する。

 

不要🔷[論文リ(35)]違法性の承継

不要🟩[論文マ(40)]違法の承継のアプローチ

→後行の証拠収集手続が先行手続を利用して行われている限り、先行手続の違法性を承継し、後行の証拠収集手続の適法性判断に当たっては、先行手続の適法の有無、程度を考慮して判断する。具体的には、①後行手続による先行手続の利用関係、②先行手続の違法の有無、程度を考慮し、後行手続の違法の重大性及び証拠の排除相当性を判断する。

 

不要🔷[論文リ(36)]不任意自白と派生証拠

 

[論]Q673 司法の無瑕性論。A裁判所が捜査機関の違法に収集した証拠を許容すると、国民に裁判所は、捜査機関の違法行為に加担しているとの印象を与え、司法に対する国民の尊敬や信頼を失わせてしまうので、国民の司法に対する尊敬・信頼を確保・維持するために、違法収集証拠を排除する考え方。

 

[考要]〈要件〉Q674 違法収集証拠が証拠能力を否定される要件。A令状主義の精神を没却するような重大な違法の存在と、将来における違法捜査の抑制の見地から相当でないことの2要件。

 

[意義]Q675 本判決の意義。A具体的適用において証拠能力を排除したのは、本判決の尿の鑑定書に関する部分が初めてである。

 

〈択一的認定〜遺棄と被害者の死亡時期/札幌高判昭和61.3.24 百93〉

[判]〈判旨〉Q676 死亡の事実を認定して死体遺棄罪が成立するかについて、法医学的観点からは死亡時期の推定に幅があり、これのみでは遺棄時に被害者が既に死亡していたか否か確定し難い本件事情の下では、上記法医学的判断に加えて、遺棄当時の具体的状況を総合し、社会通念と、被害者生存の場合に成立すべき罪と死体遺棄罪との軽重を対比し被告人に死体遺棄罪の刑事責任を問い得るかという法的観点を踏まえて考察し、被害者死亡の事実を認定するのが相当である。A◯

 

[判]〈判旨〉Q677 本件において、遺棄当時A(被害者)が生きていたとすると、被告人は、重過失致死罪又は保護責任者遺棄罪を犯したことになるが、両罪は死体遺棄罪より法定刑が重い罪である。本件では、Aは生きているか死んでいたかのいずれか以外にないところ、重い罪に当たる生存事実が確認できないのであるから、軽い罪である死体遺棄罪の成否を判断するに際し、死亡事実が存在するものとみることも合理的な事実認定として許されてよいものと思われる。以上を総合考察すると、本件においては、被告人の遺棄行為当時Aは死亡していたものと認定するのが相当である。A◯

 

[原]Q678 「疑わしきは被告人の利益に」の原則。A裁判所に、合理的な疑いを容れない程度の確信を抱かせるに至らなかったことについての不利益は検察官が負う。

 

[文解]Q679 「犯罪の証明があった」(333①)とは。A通常人なら誰でも疑いを差し挟まない程度に真実らしいとの確信を得ることができたこと(判例)。

 

🔷[論文リ(48)]択一的認定

→択一的認定は、①予備的認定、②概括的認定、③狭義の択一的認定の3種類に分けられる。

🟩[論文マ(53)]択一的認定

🟧🔵予備25 択一的認定

→「犯罪の証明があった」(333①)ときとは、有罪認定について合理的な疑いを差し挟む余地がない程度の立証があったことをいう。

 

[大]Q680 免訴判決が言い渡されるのは、①確定判決を経たとき、②犯罪後の法令により刑が廃止されたとき、③大赦があったとき、④時効が完成したときである。A◯【フォロー】337条1号〜4号。

 

〈量刑と余罪/東京高判平成27.2.6 百95〉

[判]〈判旨〉Q681 一審東京地裁(立川支部)が,起訴されていない行為である被害者に関する性的画像をインターネット上で公開したことにつき、「量刑事情」としての考慮を超え,事実上これを余罪として処罰したと評価せざるを得ず,その審理手続には違法があるとしてこれを破棄した。A◯

 

[判]〈判旨〉Q682  本件投稿行為は、殺人の実行とは、生命と名誉という被侵害利益も異なる全く別個の加害行為であり、これを異なる機会に行ったものであるから、本来的には殺人とは別個の評価の対象となる犯罪行為である。単に時期が近接しているとか、被害者への復讐という同じ目的で行われている点を捉えて、本件投稿行為を殺人罪の刑の加重要素として評価することは正当ではない。A◯

 

【フォロー】別個の加害行為が起訴されれば、殺人罪とは併合関係になる。

 

〈一事不再理効の範囲/最判平成15.10.7 百97〉

[判]〈判旨〉Q683  前訴及び後訴の各訴因が共に単純窃盗罪であるが、実体的には一つの常習特殊窃盗罪を構成する場合と前訴の確定判決による一事不再理効の範囲について、前訴及び後訴の各訴因が共に単純窃盗罪である場合には,両者が実体的には一つの常習特殊窃盗罪を構成するとしても,前訴の確定判決による一事不再理効は,後訴に及ばない。A◯

 

[定]Q684 一事不再理。A有罪、無罪の実体判決があれば、再起訴は許されないという原則。【フォロー】憲法39条後段、337条1号。同一の犯罪は、重ねて刑事上責任を問われない。一事不再理は、裁判を受ける側の人権として保障されるもの。

 

🟧🔵予備2 一事不再理

 

〈控訴審における職権調査の範囲/最決平成25.3.5 百99〉

 [判]〈判事〉Q685 判示事項。A本位的訴因を否定し予備的訴因を認定した第1審判決に対し、検察官が控訴の申立てをしなかった場合に,控訴審が職権調査により本位的訴因について有罪の自判をすることの適否。

 

 [判]〈要旨〉Q686 本位的訴因とされた賭博開張図利の共同正犯は認定できないが,予備的訴因とされた賭博開張図利の幇助犯は認定できるとした第1審判決に対し,検察官が控訴の申立てをしなかった場合に,控訴審が職権により本位的訴因について調査を加えて有罪の自判をすることは,職権の発動として許される限度を超えるものであり,違法である。A◯

 

(控訴審における事実誤認の審査/最判平成24.2.13 百100〉

 

 [判]〈判旨〉Q687 刑訴法382条にいう事実誤認の意義について、事実誤認とは,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることをいう。A◯【フォロー】補足意見有。

 

[判]〈判旨〉Q688 刑訴法382条にいう事実誤認の判示方法について、控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示す必要がある。A◯【フォロー】補足意見有。

 

[判]〈判旨〉Q689 覚せい剤を密輸入した事件について,被告人の故意を認めず無罪とした第1審判決に事実誤認があるとした原判決に,刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があるとされるかについて、覚せい剤を輸入する認識がなかった旨の弁解が排斥できないなどとして,被告人を無罪とした第1審判決に事実誤認があるとした原判決は,その弁解が客観的事実関係に一応沿うもので第1審判決のような評価も可能であることなどに照らすと,第1審判決が論理則,経験則等に照らして不合理であることを十分に示したものとはいえず,刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があり,同法411条1号により破棄を免れない。A◯【フォロー】補足意見有。

 

〈自動車検問/最決昭和55.9.22 百A1〉

 

 [判]〈要旨〉Q690 交通の安全及び交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動と警察法2条及び警察官職務執行法1条との関係について、警察法2条1項が「交通の取締」を警察の責務として定めていることに照らすと、交通の安全及び交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動は、任意手段による限り、一般的に許容されるべきものであるが、それが国民の権利、自由の干渉にわたるおそれのある事項にかかわる場合には、任意手段によるからといって無制限に許されるべきものでないことも同条2項及び警察官職務執行法1条などの趣旨に鑑み明らかである。A◯

 

[判]〈要旨〉Q691 警察官による交通違反の予防、検挙を目的とする自動車の一斉検問の適法性について、警察官が、交通取締の一環として、交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のため、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法である。A◯

 

[問意]Q692 自動車検問の問題点。A対象となる車両の外観や走行状態に異常があるか否かを問わず、無差別に行われるため問題が生じる。

 

[判]〈要件〉Q693 対象者の任意の協力を前提とした上で、さらに検問が適法となるための要件。A①目的の正当性、②実施の具体的必要性、③対象者に不当な負担をかけない方法・態様が要求される。

 

〈差押えの必要性/最決昭和44.3.18 百A4〉

[判]〈要旨〉Q694 218条1項によると、検察官若しくは検察事務官又は司法警察職員は、「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」に差押をすることができるのであるから、検察官等のした差押に関する処分に対して、430条の規定により不服の申立を受けた裁判所は、差押の必要性の有無についても審査できるものと解する。A◯

 

[判]〈要旨〉Q695 差押物が証拠又は没収すべき物と思料されるものである場合であっても、犯罪の態様、軽重、差押物の証拠としての価値、重要性、差押物が隠滅毀損されるおそれの有無、差押によって受ける被差押者の不利益の程度その他諸般の事情に照らし明らかに差押の必要がないと認められるときにまで、差押を是認しなければならない理由はない。A◯

 

〈捜索・差押令状の記載事項/最大決昭和33.7.29 百A5〉

 

 [判]〈要旨〉Q696 憲法第35条と捜索差押許可状の記載事項について、憲法第35条は、捜索、押収については、その令状に、捜索する場所および押収すべき物を明示することを要求しているにとどまり、その令状が正当な理由に基いて発せられたことを明示することまでは要求していないものと解すべく、捜索差押許可状に被疑事件の罪名を、適用法条を示して記載することは憲法の要求するところではない。A◯

 

[判]〈要旨〉Q697 捜索差押許可状には、罪名のほか適用法条を記載することを要するかについて、捜索差押許可状に罪名を記載するにあたっては、適用法条まで示す必要はない。A◯

 

〈訴因の特定〜白山丸事件/最大判昭和37.11.28 百A17〉

[判]〈要旨〉Q698 刑訴256条3項において、公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならない、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならないと規定する所以のものは、裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被告人に対し防禦の範囲を示すことを目的とするものと解される。A◯

 

[判]〈要旨〉Q699 犯罪の日時、場所及び方法は、これら事項が、犯罪を構成する要素になっている場合を除き、本来は、罪となるべき事実そのものではなく、ただ訴因を特定する一手段として、できる限り具体的に表示すべきことを要請されているのであるから、犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、前記法の目的を害さない限りの幅のある表示をしても、その一事のみを以て、罪となるべき事実を特定しない違法があるということはできない。A◯

 

[判]〈主張〉Q700 被告人側の主張。A本件公訴事実の記載について、日時等が不特定で256条3項に違反する。

 

[課]Q701 訴因の特定の問題が出たとき、白山丸事件のポイントを一言言及。A犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、法の目的を害さない限りの幅のある表示をしても、その一事のみを以て、罪となるべき事実を特定しないということに違法はない。

 

[判]〈考要〉Q702 訴因の明示について、犯罪の日時、場所、方法に関して、幅のある表示をすることは許されるか。A訴因明示の目的、場所、方法について、①詳細な記載ができない特殊事情が存在すること、②法の目的を害さない限度であることを条件に幅のある表示も許される。

 

〈手錠をかけたままの取調べと自白/最判昭和38.9.13 百A33〉

 

  [判]〈判旨〉Q703 手錠を施されたまま取調を受けた被疑者の自白の任意性について、勾留されている被疑者が、捜査官から取り調べられる際に、さらに手錠を施されたままであるときは、反証のない限り、その供述の任意性につき一応の疑いを差し挟むべきである。A◯

 

[判]〈判旨〉Q704 本件においては、原判決は証拠に基づき、検察官は被告人らに手錠を施したまま取調を行ったけれども、終始穏やかな雰囲気のうちに取調を進め、被告人らの検察官に対する供述は、全て任意になされたものであることが明らかであると認定している。したがって、所論の被告人らの自白は、任意であることの反証が立証されているものというべきである。所論違憲の主張は、その前提を欠き、その余は単なる法令違反の主張に過ぎない。A◯

 

〈概括的認定/最判昭和58.5.6 百A44〉

[判]〈判旨〉Q705 有罪判決には、「罪となるべき事実」すなわち構成要件に該当する具体的事実を記載しなければならない。有罪判決の対象を明確にし、他の事実と識別して法律関係の混乱を防止するとともに、裁判所の確実な心証を支えるためである。したがって、構成要件に該当するに足る程度に具体的に明白にすることを要し、かつ、それを以って足りる。A◯

 

[短]Q706 写真撮影は、それ自体としては検証としての性質有すると解されるから、準抗告の対象となる「押収に関する処分」に当たらない。A◯【フォロー】430②。

 

[短]Q707 司法警察職員のした処分のうち、準抗告の対象となるのは、39条3項の処分(接見交通の日時、場所の指定)及び押収、押収物の還付に関する処分である。A◯【フォロー】供述録取書中の被疑者の署名の取消しを求める準抗告は不可。

 

[定]Q708 準抗告。A裁判官や捜査機関の下、一定の裁判、処分に対する不服の申立て。

 

[短]Q709 略式命令を受けた被告人又は検察官は、その告知を受けた日から14日以内に正式裁判の請求ができる。A◯【フォロー】控訴は不可。

 

[文解]〈意義〉Q710 435条6号(再審を許す判決・再審の理由)の「明らかな証拠」の意義。A確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠を意味する。