刑訴基本的事項⑥[判例]Q539〜612

 

〈公判前整理手続における証拠開示/最判平成9.30 百54〉

[判] 〈判事〉Q539 判示事項。A警察官が私費で購入したノートに記載し,一時期自宅に持ち帰っていた取調べメモについて,証拠開示を命じた判断が是認されるか。

[判]〈要旨〉Q540 警察官が私費で購入したノートに記載し,一時期自宅に持ち帰っていた本件取調べメモについて,同メモは,捜査の過程で作成され,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易な証拠であり,弁護人の主張と同メモの記載の間には一定の関連性が認められ,開示の必要性も肯認できないではなく,開示により特段の弊害が生じるおそれも認められず,その証拠開示を命じた判断は結論において是認できる。A◯

 

[要件]Q541 類型証拠開示の要件。A①類型証拠該当性(316の15①各号)。②重要性(316の15①本)、③相当性(315の15①本)。

 

〈証拠開示〉

[大]Q542 検察官は、検察官請求証拠及び類型証拠を開示する。A◯【フォロー】316の14、316の15。

 

〈被告人・弁護人による証明予定事実の提示と証拠調べ請求〉

[大]Q543 被告人・弁護人は、証明予定事実の提示及び証拠開示を受けた場合、その証明予定事実その他公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張があるときは、これを明示しなければならない。A◯【フォロー】被告人側の争点明示義務。被告人・弁護人は、その証明に用いる証拠調べを請求する必要有。316の17①②。

 

〈争点関連証拠〉

[大]Q544 被告人側が争点を明示した場合、検察官は争点関連証拠を開示する。A◯【フォロー】316の20。

 

[要件]Q545 争点関連証拠開示の要件。A①関連性(316の20①本)、②相当性(316の20①本)。

 

〈316条の17と自己に不利益な供述の強要/最決平成25.3.18 百55〉

[判]〈判事〉Q546  公判前整理手続において被告人に対し主張明示義務及び証拠調べ請求義務を定めている刑訴刑訴法316条の17は自己に不利益な供述の強要となるか。

 

[判]〈要旨〉Q547  316条の17は,被告人又は弁護人において,公判期日においてする予定の主張がある場合に限り,公判期日に先立って,その主張を公判前整理手続で明らかにするとともに,証拠の取調べを請求するよう義務付けるものであって,被告人に対し自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について認め るように義務付けるものではなく,また,公判期日において主張をするかどうかも 被告人の判断に委ねられているのであって,主張をすること自体を強要するものでもない。A◯

 

 [判]〈要旨〉Q548 公判前整理手続において被告人に対し主張明示義務及び証拠調べ請求義務を定めている刑訴法316条の17は,自己に不利益な供述を強要するものとはいえない。

 

[判]〈定〉Q549 公判前整理手続。A 充実した公判審理を継続的,計画的かつ迅速に行うために, 事件の争点及び証拠を整理する公判準備手続。【フォロー】訴訟関係人は、その実施に関して協力する義務を負う。その上、被告人又は弁護人は、316の17第1項所定の主張明示義務を負う。

 

[課]〈理〉Q550 公判前整理手続は受訴裁判所が主宰してこれを行う。その理由。A実効性のある争点整理をし、それに基づく計画的・集中的審理を実現させるためには、最終的な判断をすべき受訴裁判所がこの手続を主宰することが望ましい。

 

[課]〈目的〉Q551 公判前整理手続の目的。A審理計画の策定。具体的には、①証明予定事実を明示させる、②証拠調べの請求をさせること。

 

[文解]〈定〉Q552 憲法38条1項が保障する黙秘権。A何人も自己が刑事上の責任を問われる虞のある事項について供述を強要されないことを保障するもの。

 

〈公判前整理手続後の訴因変更/東京高判平成20.11.18 百56〉

[判]〈判旨〉Q553  事件の争点及び証拠を整理する公判準備という公判前整理手続の制度趣旨に照らすと、公判前整理手続を経た後の公判においては、充実した争点整理や審理計画の策定がされた趣旨を没却するような訴因変更請求は許されない。A◯

 

〈公判整理手続における主張明示と被告人質問/最決平成27.5.25 百57〉 

[判]〈判事〉Q554 判示事項。A公判前整理手続で明示された主張に関しその内容を更に具体化する被告人質問等を刑訴法295条1項により制限することはできるか。

 

[判]〈要旨〉Q555 「公訴事実記載の日時には犯行場所にはおらず,自宅ないしその付近にいた」旨のアリバイ主張が明示されたが,それ以上に具体的な主張は明示されず,裁判所も釈明を求めなかったなどの本件公判前整理手続の経過等に照らすと,前記主張の内容に関し弁護人が更に具体的な供述を求める行為及びこれに対する被告人の供述を刑訴法295条1項により制限することはできない。A◯【フォロー】295条(弁論等の制限)。

 

〈公判前整理手続後の証拠調べ請求/名古屋高判平成20.6.5 百58〉

[判]〈判旨〉Q556 弁護人は、Y(共犯者)及びB(共犯者の一員)の捜査段階の各供述調書を328条により弾劾証拠として取調べ請求したが、316条の32第1項の「やむを得ない事由」があるとはいえず、取調べの必要性もないとして、弾劾証拠請求をいずれも却下してX(被告人)を有罪とした。A◯

 

〈即決裁判手続の合憲性/最判平成21.7.14 百59〉

[判]〈判旨〉Q557 403条の2第1項は、即決裁判手続の制度を実効あらしめるため、被告人に対する手続保障と科刑の制限を前提に、同手続による判決において示された罪となるべき事実の誤認を理由とする控訴の申立てを制限をするものであるから、この控訴の制限には相応の合理的理由があり、憲法32条に違反しない。A◯【フォロー】即決裁判手続による判決では、懲役又は禁錮の実刑を科すことはできない(350の14)。

 

[制趣]Q558 即決裁判手続の制度趣旨。A争いがなく明白かつ軽微であると認められた事件について、簡略な手続によって証拠調べを行い、原則、即日判決を言い渡すものとするなど、簡易かつ迅速に公判の審理及び裁判を行うことにより、手続の合理化、効率化を図る。【フォロー/特性】①冒頭手続の省略(350の10①、296本)、②伝聞法則の適用除外(350の12本)、③即日判決の言い渡し。

 

[趣]Q559 350条の3第2項の趣旨(被疑者の同意要求)。A即決裁判手続では、証拠調べが簡略な手続で行われ、事実誤認を理由とする控訴が制限されることがある。

 

〈証明の程度/最決平成19.10.16 百60〉

[判]〈要旨〉Q560 有罪認定に必要とされる立証の程度としての「合理的な疑いを挟む余地がない」というのは、反対事実が存在する疑いを全く残さない場合をいうのではなく、抽象的可能性としては反対事実が存在する疑いを入れる余地があっても、健全な社会常識に照らしてその疑いに合理性がないと一般的に判断される場合には、有罪を可能とする趣旨である。A◯

 

[判]〈要旨〉Q561 有罪認定に必要とされる立証の程度としての「合理的な疑いを差し挟む余地がない」の意義は、直接証拠によって事実認定をするべき場合と情況証拠によって事実認定をすべき場合とで異ならない。A◯

 

[定]Q562 自由心証主義。A証拠の証拠力の有無を法定せず、専ら、裁判官の自由な判断に任せるとする原則。

 

[定]Q563 厳格な証明。A適式な証拠調べ手続を経た証拠能力のある証拠による証明。

 

[定]Q564 自由な証明。A厳格な証明以外の証明。

 

[定]Q565 自然的関連性。A証拠がその要証事実に対して、必要最小限の証明力を有していること。

 

[定]Q566 法律上の推定。Aある前提事実から他の推定事実を推認するというルールが法規化されたもの。

 

[基準]Q567 法律上の推定の合憲性判定基準。A①前提事実から推定事実を推認することが合理的で、かつ②反証の方が容易かつ妥当であるなど推定規定を必要とする特別の事情がなければ許されるべきではない。

 

[基準]Q568 量刑資料における余罪の利用。A実質上余罪を処罰する趣旨で量刑資料とすることはできないが、単に被告人の性格、経歴及び犯罪の動機、目的、方法等の情状を推知するための資料として考慮することは許される。

 

[趣]Q569 179条趣旨(証拠保全の請求、手続)。A防御権の充実を図る。

 

[定]Q570 直接証拠。A犯罪事実を直接証明するのに用いる証拠。

 

[例]Q571 その例。A V宅でVを包丁で突き刺した旨の甲が作成した供述書。【フォロー】甲がVを殺害したという犯罪事実を直接に立証することができるので、直接証拠にあたる。

 

[短]Q572  検察官、被告人又は弁護人は、証拠調べに関し異議を述べることができる。A◯【フォロー】異議申立ては、抗告と異なり決定した裁判所に対してする。

 

[定]Q573 弁論の併合。A数個の事件の弁論を同時に並行して行うこと。【フォロー】併合前の手続は、互いに別個独立審理手続であったものであるから、相互に影響し合うことはない。当然に他の共同被告人との関係で証拠にならない。

 

〈情況証拠による事実認定/最決平成22.4.27 百61〉

[判]〈判事〉Q574  殺人,現住建造物等放火の公訴事実について間接事実を総合して被告人を有罪とした第1審判決及びその事実認定を是認した原判決に,審理不尽の違法,事実誤認の疑いがあるか。

 

 [判]〈要旨〉Q575 殺人,現住建造物等放火の公訴事実について,間接事実を総合して被告人が犯人であるとした第1審判決及びその事実認定を是認した原判決は,認定された間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば、合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれているとは認められないなど,間接事実に関する審理不尽の違法,事実誤認の疑いがあり,刑訴法411条1号,3号により破棄を免れない。A◯

 

【フォロー】補足意見,意見,反対意見がある。

【フォロー2/本判決の位置付け】事実認定について具体的な事例判断をする際に、その前提として、刑事裁判において情況証拠により有罪認定をするに当たっては、「情況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば、合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要する」旨の総論的説示を付し、これが情況証拠による事実認定に関して新たな基準を定立したようにみえるところから注目を集めた。

 

〈同種前科による事実認定/最判平成24.9.7 百62〉

[判]〈判旨〉Q576  前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合の証拠能力について、前科証拠は,自然的関連性があることに加え,証明しようとする事実について,実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに証拠能力が肯定され,前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合は,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから,それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであるときに証拠能力が肯定される。A◯

 

[判]〈判旨〉Q577  前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いることが許されないかについて、被告人の現住建造物等放火等の前科に係る証拠を被告人と起訴に係る現住建造物等放火の犯人の同一性の証明に用いることは,前科に係る犯罪事実に顕著な特徴があるとはいえず,同事実と起訴に係る犯罪事実との類似点が持つ両者の犯人が同一であることを推認させる力がさほど強いものではないなどの事情の下では,被告人に対して放火を行う犯罪性向があるという人格的評価を加え,これをもとに被告人が犯人であるという合理性に乏しい推論をすることに等しく,許されない。A◯

 

🔷[論文リ(32)]前科による立証

→同種前科等類似事実の犯罪事実の立証の場合は、二段の推定すなわち、①被告人に前科があるという事実から、被告人が罪を犯すような悪性格をもっていることを推認し、②悪性格を介して、被告人が被告事件の犯人であることを推認しようとする二重の推認過程を経る。

 

🟧🔵予備28 前科調書の証拠能力

 

〈筆跡鑑定/最決昭和41.2.21 百64〉

[判]〈要旨〉Q578 伝統的筆跡鑑定方法は、多分に鑑定人の経験と勘に頼るところがあり、ことの性質上、その証明力には自ら限界があるとしても、そのことから直ちに、この鑑定方法が非科学的で、不合理であるということはできない。A◯

 

[判]〈要旨〉Q579 筆跡鑑定におけるこれまでの経験の集積と、その経験によって裏付けられた判断は、鑑定人の単なる主観に過ぎないものとはいえないことはもちろんである。したがって、事実審裁判所の自由心証によって、これを罪証に供すると否とは、その専権に属することがらである。A◯

 

[定]Q580 筆跡鑑定。A一般に、鑑定資料としての文字の筆跡の特徴と、対象資料としての文字の筆跡の特徴とを比較して、両資料の筆者が同一といえるかどうかを鑑定する手法。

 

〈警察犬による臭気選別/最決昭和62.3.3 百65〉

[判]〈要旨〉Q581 本件各臭気選別は、選別につき専門的な知識と経験を有する指導手が、臭気選別能力が優れ、選別時において体調等も良好でその能力がよく保持されている警察犬を使用して実施したものであるとともに、臭気の採取、保管の過程や臭気選別の方法に不適切な点がないことが認められるから、本件各臭気選別の結果を有罪の用に供しうる。A◯

 

〈遮蔽措置・ビデオリンク方式による証人尋問/最判平成17.4.14 百67〉

[判]〈判旨〉Q582 ビデオリンク方式によった上で、被告人から証人の状態を認識できなくなる遮蔽措置が採られても、映像と音声の送受信を通じてであれ、被告人は、証人の供述を聞くことはでき、自ら尋問することもでき、弁護人による証人の供述態度等の観察は妨げられないのであるから、被告人の証人審問権は妨げられていない。A◯

 

[趣]Q583 157条の5第1項ただし書趣旨(証人尋問の際の証人の遮蔽/・・弁護人が出頭・・場合のみ可)。A被告人の防護権、証人審問権に支障が来たすことがないように配慮する。

 

〈証人尋問等における被害再現写真等の利用/最決平成23.9.14 百68〜強制わいせつ被告事件〉

 

[判]〈要旨〉Q584 被害者の証人尋問において,捜査段階で撮影された被害者による被害再現写真を示すことを許可した裁判所の措置について、検察官が,証人から被害状況等に関する具体的な供述が十分にされた後に,その供述を明確化するため,証拠として採用されていない捜査段階で撮影された被害者による被害再現写真を示すことを求めた場合において,写真の内容が既にされた供述と同趣旨のものであるときは,刑訴規則199条の12に基づきこれを許可した裁判所の措置に違法はない。A◯

 

[判]〈要旨〉Q585 証人に示した写真を刑訴規則49条に基づいて証人尋問調書に添付する措置について,当事者の同意は必要ではない。A◯

 

[判]〈要旨〉Q586 独立した証拠として採用されていない被害再現写真を示して得られた証言を事実認定の用に供することができるかについて、証人に示された被害再現写真が独立した証拠として採用されていなかったとしても,証人がその写真の内容を実質的に引用しながら証言した場合には,引用された限度において写真の内容は証言の一部となり,そのような証言全体を事実認定の用に供することができる。A◯

 

〈自白〉

〈約束による自白/最判昭和41.7.1 百70〉

[判]〈判旨〉Q587 被疑者が、起訴不起訴の決定権をもつ検察官の自白をすれば起訴猶予にする旨もことばを信じ、起訴猶予になることを期待してした自白判断、任意性に疑いがあるものとして、証拠能力を欠く。A◯

 

[判]〈意義〉Q588 本件の意義。A被疑者が不起訴の決定権をもつ検察官の、自白をすれば起訴猶予にする旨のことばを信じ、起訴猶予になることを期待してした自白について、その任意性に疑いがあるとして証拠能力を否定した。A◯

 

[定]Q589 自白の補強法則。A被告人の自白だけで有罪とすることはできないため、自白にはこれを補強する証拠が必要とされること。

 

[趣]Q590 319条趣旨。A自白の証明力の過大評価を防止する。

 

[定]Q591 補強証拠。A有罪を認定するためには、自白の他に少なくとももう一つ証拠が必要なこと。

 

〈偽計による自白/ 偽計による自白の証拠能力と憲法38条2項/最大判昭和45.11.25 百71〉

[判]〈判旨〉Q592 偽計によつて被疑者が心理的強制を受け、その結果虚偽の自白が誘発されるおそれのある場合には、偽計によつて獲得された自白はその任意性に疑いがあるものとして証拠能力を否定すべきであり、このような自白を証拠に採用することは、刑訴法319条1項、憲法38条2項に違反する。A◯

 

[判]〈主張〉Q593 弁護人の主張。A偽計が自己負罪拒否特権侵害にあたり、また、偽計により虚偽の自白が誘発される上、本件では偽計以外にも虚偽自白を誘発する事情があった。

 

[課]Q594 憲法38条2項と319条1項の関係。A共に、任意にされたものではない疑いがある自白を排除するものであると解されている。【フォロー】立法者意図は、憲法38条2項の規定内容を刑訴法に取り組むことに有った。判例も、両規定による自白排除の範囲を同一のものと見ている。

 

〈接見制限と自白/最決平成元.1.23 百74〉

[判]〈主張〉Q595 弁護人の主張。A 被告人の自白調書を証拠とすることは、憲法31条、34条、38条に違反する。

 

[判]〈要旨〉Q596 本件自白はA弁護人が接見した直後になされたものである上、同日以前に弁護人4名が相前後して同被告と接見し、B弁護人も前日に接していたのであるから、接見交通権の制限を含めて検討しても、本件自白の任意性に疑いはない。A◯

 

[定]Q597 自白。A犯罪事実の全部又は主要部分を認める被告人の供述。

 

〈自白の証拠能力/学説〉

[学説]Q598 虚偽排除説。A強制などにより得られた自白には、虚偽のおそれがあるので、誤判防止のため排除されるとの立場。

 

[学説]〈批〉Q599 同批判。違法に得られた自白でも補強法則により真実性が確認されると証拠能力が認められることになり、証拠能力判断と証明力判断を分離した意味が失われてしまう。

 

[学説]Q600 人権擁護説。A憲法38条2項を同条1項の担保規定と解し、黙秘権が中心とする人権保障のために不任意自白を排除するとの見解。

 

[学説]〈批〉Q601 同批判。A自白と黙秘権の混同があり、さらに、違法行為があっても、供述の意思決定に影響を与えなければ自白が排除されない点に難がある。【フォロー】上記両説の弱点を克服すべく登場したのが違法排除説。

 

[学説]Q602 違法排除説。A特定の状況が供述者の心理に与えた影響の有無・程度の問題すなわち任意性を排除判断の基準とするのではなく、強制などの行為自体に着目し、自白採取手続の適正を担保しようという考え。【フォロー】かかる構成により、排除の対象を憲法31条の適正手続の要請に背く行為全般へ拡張することを狙った。

 

[学説]〈根拠〉Q603 同根拠。A ①違法排除説は、強制などを列挙し、それら行為のある場合に自白を排除する旨規定する憲法及び刑訴法の解釈として素直なこと、②証拠能力の判断基準の客観化に寄与すると考えられたこと、③捜査の適正化に道を開く可能性に富むと期待されたことなどを根拠とする。

 

[学説]〈批〉Q604 同批判。319条1項が明文で「任意にされたものではない疑いのある自白」を証拠から排除する旨定めている点に照らすと、自白法則を任意性判断から切り離す姿勢に疑問が残る。【フォロー/まとめ】自白排除の根拠の一つに限定せず、複合的に構成する折衷説を唱える論者が少なくない。

 

🔷[論文リ(38)]自白法則

→自白の証拠能力が認められるか否かは、自白に「任意」性が認められるか否かによる(319①、自白法則)。任意性説に立つ場合、①虚偽の自白を誘発するような状況、②被疑者の意思決定の自由な侵害状況等から自白の任意性を判断する。

🟩[論文マ(41)]自白法則

🟧🔵予備26

→「任意にされたものではない疑いのある自白」に当たるかどうかは、①虚偽の自白を誘発するような状況にあったかどうか、②被告人の供述の自由を侵害するような心理的圧迫があったかどうかにより判断される。

 

〈自白の信用性〜草加事件民事上告審判決/最判平成12.2.7 百76〉

[判]〈判旨〉Q605 自白の信用性の判断は、自白を裏付ける客観的証拠があるかどうか、自白と客観的証拠との間に整合性があるかどうかを精査し。さらには、自白がどのような経過でされたか、その過程に捜査官による誘導の介在やその他虚偽供述が混入する事情がないかどうか、自白の内容に不自然、不合理とすべき点はないかどうかなどを吟味し、これらを総合考慮して行うべきである。A◯

 

[問所]Q606 刑事裁判において自白の信用性判断が求められる典型的場面。A被告人が捜査段階で自白したものの、公判段階に到り否認に転じた場合。【フォロー】このようなケースでは、自白を除いた他の証拠のみでは犯罪事実を認定できず、自白の信用性判断が有罪・無罪を決める鍵になることが多い。

 

[判]〈判基〉Q607 本判決での自白の信用性の判断基準。A本判決は、①秘密の暴露の不存在、②自白を裏付ける客観的証拠の不存在、③犯行事実の中核的部分について供述の変遷の3点に依拠して、少年らの自白の信用性を否定した。

 

〈補強証拠/補強の範囲/最判昭和42.12.21 百77〉

[判]〈判旨〉Q608 無免許運転の罪については、運転行為のみならず、運転免許を受けていなかったという事実についても、被告人の自白の他に、補強証拠が必要である。A◯

 

[定]Q609 補強法則。A被告人は、自白しか証拠がない場合には、有罪とされない(憲38③、319②)という、有罪に際して、自白以外の証拠(補強証拠)を求めるルール。【フォロー】自由心証主義(318)の例外。

 

[趣]Q610 補強法則の趣旨。A ①自白の過大評価・偏重からもたらす誤判を防止するため、②自白以外の証拠に対する捜査の徹底を促し、自白強要を防止するため等にある。

 

🟩[論文マ(42)]補強を要する範囲(罪体説)

→自白の偏重を避けることによって誤判を防止し、間接的に自白の強要を防止するという補強法則の趣旨からは、認定基準を形式的に判断する必要があり、犯罪の客観的事実の全部、少なくとも重要な部分について補強証拠を必要とすると解される。重要な部分とは、法益侵害とその法益侵害が犯罪行為に起因していることをいう。

 

〈共犯者の自白/最決昭和51.10.28 百78〉

[判]〈主張〉Q611 Xの主張。A共同被告人の自白のみによるXの有罪認定は、憲法38条3項に違反する。

 

[判]〈判旨〉Q612 共犯者2名以上の自白によって被告人を有罪と認定しても憲法38条3項に違反しないことは明らかであるから、共犯者3名の自白によって本件の被告人を有罪と認定したことは、違憲ではない。A◯【フォロー】本判決は、共犯者らの自白のみによって被告人の犯罪事実を認定したものではないとした。