刑訴基本的事項⑤[判例]Q410〜538

 

〈令状による捜索の範囲⑴/最決平成6.9.8百19〉

〈捜索場所にいる人の身体・所持人の捜索〉

[判]〈要旨〉Q410 Aの内妻に対する覚醒剤取締法違反事件につき、同女及びAが居住するマンションの居室を捜索場所とする捜索差押状により、捜索を実施した際、同室にいたAが携帯するボストンバックの中を捜索したことは違法ではない。A◯

 

[主張]Q411 弁護人の主張。A Aに対する被疑事件につき発付された、マンション居室に対する捜索差押許可状により、被告人の携帯物を捜索することは許されない。

 

[趣]Q412 113条1項本文趣旨(検察官、被告人又は弁護人は、差押状、記録命令付差押状、捜索状の執行に立ち合うこと可)。A当事者主義の要請に沿い、差押状、記録命令付差押状、捜索状の執行に検察官、被告人、弁護人が立ち会えることとした。

 

🔷[論文リ(20)]場所に対する令状による居住者の携帯物の捜索・差押えの可否

 

🟩[論文マ(24)]捜索差押場所及び捜索対象物を必要的令状記載事項とした趣旨→憲法35条に基づいて、裁判所に対して、どの範囲の場所及び物について捜索差押を行う根拠が存在するかをあらかじめ判断させる点。また、捜査官はその明示した範囲に限って捜索差押えを実施し、もって捜索差押えの濫用を防止し、被処分者に対して受忍すべき捜索範囲を明らかにし、不服申立ての便宜を与えることにもある。

 

🟩[論文マ(31)]場所に対する捜索差押許可状により捜索場所にいる第三者の所持品を捜索することの可否。→裁判官としては、令状の有効期間内において、本来その場所にあることが予定されている物については、当該令状の効力が及び、プライバシーを開示することを想定している。したがって、第三者が所持する物に対して令状の効力が及ぶかどうかは、本来その場所に存在することが予定されているかどうかにより判断するものと解する。

 

🟧🔵予備4 被疑者宅への捜索令状によって、被疑者以外の居住者の携帯物を捜索できるか

 

 🟧🔵予備4 捜索令状執行中に、被疑者以外の居住者が持ち込んだ携帯物を捜索できるか

 

🟧🔵予備23 捜索差押許可状における罰条の記載(特別法犯)

 

〈逮捕に伴う捜索・押収/最大判昭和36.6.7 百A7〉

 

[判]〈要旨〉Q413 被疑者の緊急逮捕に着手する以前その不在中になされた捜索差押は適法かについて、司法警察官の職務を行う麻薬取締官が麻薬不法譲渡罪の被疑者を緊急逮捕すべくその自宅に赴いたところ、被疑者が他出中であったが、帰宅次第逮捕する態勢をもって同人宅の捜索を開始し、麻薬を押収し、捜索の殆んどを終る頃帰宅した同人を適法に緊急逮捕した本件の場合の如く、捜索差押が緊急逮捕に先行したとはいえ、時間的にはこれに接着し、場所的にも逮捕の現場でなされたものであるときは、その捜索差押を違憲違法とすべき理由はない。A◯

 

[判]〈要旨〉Q414 捜索差押調書および捜索差押にかかる麻薬に対する鑑定書の証拠能力について、本件麻薬取締官作成の本件捜索差押調書および捜索差押にかかる本件麻薬に対する鑑定書につき、被告人および弁護人が第一審公判廷において、これを証拠とすることに同意し、異議なく適法な証拠調を経たときは、上記各書面は、捜索差押手続の違法であったかどうかにかかわらず証拠能力を有する。A◯

 

🟩[論文マ(32)]「逮捕する場合」において

🟧🔵予備30

→「逮捕する場合において」とは、単なる時点よりも幅のある逮捕をする際を言うのであり、逮捕との時間的接着を必要とするけれども、逮捕着手の前後関係はこれを問わないものと解すべき。【フォロー】緊急逮捕のため被疑者方に赴いたところ、被疑者が偶々他出不在であっも、帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索、差押がなされ、且つ、これと時間的に接着して逮捕されている限り、その捜索・差押えは、なお、緊急逮捕する場合その現場でなされたものとするのを妨げない。

 

〈令状による捜索の範囲⑵/最決平成19.2.8 百20〉

 

[判]〈判事〉Q415 判示事項。A 被疑者方居室に対する捜索差押許可状により同居室を捜索中に、被疑者宛てに配達され同人が受領した荷物について同許可状に基づき捜索することの可否。

 

[判]〈主張〉Q416 弁護人の主張。A 法令違反、事実誤認、量刑不当である。

 

[判]〈要旨〉Q417 被疑者方居室に対する捜索差押許可状により同居室を捜索中に、被疑者あてに配達され同人が受領した荷物についても,同許可状に基づき捜索することができる。A◯

 

[考要]〈理〉Q418 警察官は、令状呈示後に搬入された物品についても、差押許可状に基づく捜索できる理由。A 捜索場所である被告人の居室内において、被告人が本件荷物を自己の支配下に置き、所持・管理するに至ったと見るべきだから。

 

[学説]Q419 逮捕に伴う捜索・差押え(220①2号)は、無令状(同条③)で行えるとされる理由について、相当説。A 逮捕の現場には、証拠の存在する蓋然性が一般的に高いため、裁判官による事前の令状審査を行う必要がない。

 

[学説]〈同上〉Q420 緊急処分説。A 逮捕の際には、被逮捕者により証拠が隠滅されるおそれが高いため、これを防止して証拠を保全する緊急の必要性がある。

 

〈令状による差押え⑴〜範囲/最判昭和51.11.18 百21〉

[判]〈判事〉Q421 判示事項。A差押物が捜索差押許可状の目的に含まれるか。

 

 [判]〈判旨〉Q422 恐喝被疑事件で発付された捜索差押許可状に基づき、事件に関係のある「暴力団を標章する状、バツチ、メモ等」の目的物にあたるとして、暴力団員らによる常習的な賭博場開帳の模様を記録したメモを差し押えたことは、暴力団に関連のある被疑者らによつてその事実を背景として行われた事件であること、右メモにより被疑者と暴力団との関連を知りうること、暴力団の組織内容・性格を知りうることなどの事情のもとにおいては、これを適法というべきである。A◯

 

[趣]Q423 219条1項趣旨(捜索差押許可状は、「罪名、差押え・・・物、・・・場所・・記載要」)。A捜索・差押の実施前に、捜査機関が差し押さえるべき物、捜索すべき場所、犯罪事実の要旨等を記載した令状の請求書に基づいて(規155①)、裁判官が捜索差押許可状の発付の可否を判断し、捜査機関は、発付された令状記載の場所において、そこに記載された被疑事実と関連性のある物のみを差押えるようにすること、個人のプライバシー及び財産権を侵害する捜索・差押え等が必要な限度を超えないようにすること。

 

🔷[論文リ(21)]捜索開始後に配達された荷物の捜索の可否

 

🟩[論文マ(30)]捜索差押えの実施中に届いた宅配便についての捜索差押えの可否→裁判官は、有効期間内の「正当の理由」を審査しており、裁判官の令状審査は捜査開始時点における「正当の理由」に限られるわけではない。したがって、裁判官の令状審査は、捜索差押え継続中に到達し受領したものについても及んでいる。よって、捜索差押の実施中に届いた宅配便について捜索差押えをすることができる。

 

🟧🔵予備23 差押許可状における目的物の概括的記載の可否

🟧🔵予備23 差押物と被疑事実の関連性

 

〈令状による差押え⑵〜フロッピーディスクの差押え/最決平成10.5.1 百22〉

 

 [判]〈判事〉Q424 判事事項。Aフロッピーディスク等につき内容を確認せずに差し押さえることが許されるか。

 

 [判]〈要旨〉Q425 フロッピーディスク等の中に被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合において、そのような情報が実際に記録されているかを捜索差押えの現場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるなどの事情の下では、内容を確認せずに右フロッピーディスク等を差し押さえることが許される。A◯

 

[判]〈主張〉Q426 申立人の主張。A 差押えられたフロッピーディスクの中には、何も記録されていないものがあり、被疑事実と関連性がなかった上、申立人からの協力を断って、その内容を確認することなく、行われた無差別な差押えは、憲法35条に違反する。

 

[考要]Q427「人の身体」は、何故、場所に対する捜索許可状によって捜索できないのか。A ①法が、捜索の対象としての身体と場所とを区別して規定している(222①で準用される102)という形式的理由と、②身体に対する捜索によって侵害される人身の自由やプライバシーの利益は、場所に対するプライバシーとは異質であって、そこには包摂させることはできないとの実質的な理由による。

 

[考要]Q428 どのような要件を充たすとき、内容を確認することなしに、パソコン、フロッピーディスク等を差押えることが許されるか。A ①パソコン、フロッピーディスク等の中に被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められること、②そのような情報が実際に記録されているかをその場で確認していたのでは記録された情報を損壊させる危険があることの2つの要件を充たすこと。

 

🔷[論文リ(19)]捜索差押許可状の効力

🔷[論文リ(25)]電磁的記録媒体の差押えの可否

🟩[論文マ(29)]電磁的記録に対する包括的差押え

→具体的には、⑴被疑事実に関する証拠が記録されている蓋然性が認められる場合で、⑵その場で確認していたのでは、証拠を破壊される危険がある場合、内容を確認しないで捜索差押をすることも許される。

 

〈逮捕に伴う捜索・差押え⑴/東京高判昭和44.6.20 百23〉

[判]〈判事〉Q429  判示事項。A現行犯逮捕に際し実施された捜索差押が違法となるか。

 

 [判]〈要旨〉Q430 被告人がベトナムから日本に向う飛行機の中で知り合った同国人たる外人Aと共に横浜市内のホテル7階の一室に宿泊していた際、(イ)捜査官において右ホテル内の外人2名が大麻たばこを吸つていたとの密告を受け、ホテル5階の待合所でAを大麻たばこ一本所持の現行犯として逮捕し、(ロ)Aの申立により外人警官の到着をまつて、逮捕から約35分後、ホテル7階の右一室の捜索をし、洗面所で大麻たばこ7本を発見し、(ハ)立会のAは、右たばこは被告人の所持品であると弁解したが、捜査官において被告人、A両名の共同所持であるとの疑いをもってこれを差押えた場合、Aに対する大麻煙草(たばこ)7本の捜索、差押は違法でない。A◯

 

[要件]Q431 通常逮捕の要件。A①逮捕の理由、②逮捕の必要性。【フォロー/文解/要件】①逮捕の理由とは、「罪を犯したと疑うに足りる相当の理由があること(199①本)。②逮捕の必要性は、被疑者の年齢・境遇、犯罪の軽重・態様、その他の諸般の事情に照らし、逃亡のおそれがない等、明らかに逮捕の必要性がないと認められる場合は、逮捕状請求を却下する(規143の3)。

 

[課]〈理由〉Q432 法220条1項2号が被疑者を逮捕する場合、その現場でなら令状によらないで、捜索差押えができる理由。A逮捕の場所には、被疑事実と関連する証拠物が存在する蓋然性が極めて強く、その捜索・差押えが適法な逮捕に随伴するものである限り、捜索差押令状が発付される要件を殆ど充足しているばかりでなく逮捕者らの身体の安全を図り、証拠の散逸や破壊を防ぐ急速の必要がある。

 

[要件]Q433 捜索・差押えの要件。A①「罪を犯したと思料される」こと(規則56①)、②押収する物が存在する蓋然性(221①、102②)、③被疑事実との関連性、④捜索・差押えの必要性。

 

[定]Q434 押収。A物の占有を取得する強制処分。

[定]Q435 差押え。A物の占有を強制的に取得する処分。

[定]Q436 領置。A遺留品又は任意提出物の占有を取得する強制処分。

[定]Q437 捜索。A一定の場所・物に対して、人・物の発見を目的としてなされる強制処分。

[定]Q438 検証。A場所、物、人について、五官の作用により、その形状を感知する強制処分。

 

🔷[論文リ(27)]逮捕に伴う無令状の捜索・差押えの可否

不要🔷[論文リ(28)]遺留物の領置

🟩[論文マ(33)]「逮捕の現場」の意義

→220条1項の趣旨は、逮捕の現場には、証拠存在の蓋然性が高いので、合理的証拠収集手段として認められる点にある。「逮捕の現場」とは、証拠存在の蓋然性の高い場所であり、令状が発付されれば通常、捜索差押えできる範囲のことをいう。

 

〈逮捕に伴う捜索・差押え⑵〜捜索・差押えの範囲/福岡高判平成5.3.8 百24〉

 

[判]〈争点〉Q439 本件争点。A  B子方を捜索し、台所下から2kgの覚醒剤を発見・押収した手続は適法か。

 

[判]〈判旨〉Q440 本件のように職質を継続する必要から、被疑者以外の者の住居内に、その居住者の住居内に、その居住者の承諾を得たうえで場所を移動し、同所で職質を実施した後、被疑者を逮捕したような場合には、逮捕に基づき捜索できる場所も自ずと限定されると解さざるを得ないので、B子方に対する逮捕に基づく捜索として正当化することはできない。A◯

 

[大]Q441 220条1項2号は、憲法35条を挙げて「逮捕する場合」に、逮捕の現場で、令状なしに捜索・差押えをすることを認めている。A◯【フォロー】220条1項本文、1項2号。

 

〈逮捕に伴う捜索・差押え⑶〜被逮捕者の身体・所持品に対する捜索・差押え/最決平成8.1.29 百25〉〜220①2号

 

[課]〈考要〉Q442 被疑者を他の場所に連行した上で所持品を差押えることは、「逮捕の現場」という要件(220①2号)に反しないか。A 警察署に連行した上で行われた本件各差押えは、逮捕の後できる限り速やかに被疑者らを差押えに適する最寄りの場所である上記警察署に連行した上で実施されたものであるなどの事実関係の下においては、刑訴法220条1項2号による差押えとして適法である。【フォロー】下記Q394参照。

 

 [判]〈要旨〉Q443  刑訴法212条2項にいう「罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるとき」に当たるかについて、いわゆる内ゲバ事件が発生したとの無線情報を受けて逃走犯人を警戒、検索中の警察官らが、犯行終了の約1時間ないし1時間40分後に、犯行場所からいずれも約4キロメートル離れた各地点で、それぞれ被疑者らを発見し、その挙動や着衣の汚れ等を見て職務質問のため停止するよう求めたところ、いずれの被疑者も逃げ出した上、腕に籠手(こて)を装着していたり、顔面に新しい傷跡が認められたなど判示の事実関係の下においては、被疑者らに対して行われた本件各逮捕は、刑訴法212条2項2号ないし4号に当たる者が罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときにされたものであって、適法である。A◯

 

[判]〈要旨〉Q444  逮捕した被疑者を最寄りの場所に連行した上でその身体又は所持品について行われた捜索及び差押えと刑訴法220条1項2号にいう「逮捕の現場」に当たるかについて、逮捕した被疑者の身体又は所持品の捜索、差押えについては、逮捕現場付近の状況に照らし、被疑者の名誉等を害し、被疑者らの抵抗による混乱を生じ、又は現場付近の交通を妨げるおそれがあるなどの事情のため、その場で直ちに捜索、差押えを実施することが適当でないときは、速やかに被疑者を捜索、差押えの実施に適する最寄りの場所まで連行した上でこれらの処分を実施することも、刑訴法220条1項2号にいう「逮捕の現場」における捜索、差押えと同視することができる。A◯

 

[判]〈要旨〉Q445 逮捕した被疑者を最寄りの警察署に連行した上でその装着品及び所持品について行われた差押え手続が刑訴法220条1項2号による差押えとして適法かについて、被疑者らを逮捕した後、各逮捕の場所から約500メートルないし3キロメートル離れた警察署に連行した上でその装着品、所持品について行われた本件各差押えは、逮捕の場所が、被疑者の抵抗を抑えて差押えを実施するのに適当でない店舗裏搬入口付近や車両が通る危険性等もある道幅の狭い道路上であり、各逮捕現場付近で差押えを実施しようとすると被疑者らの抵抗による混乱を生ずるおそれがあったなどの事情のため、逮捕の後できる限り速やかに被疑者らを差押えに適する最寄りの場所である右警察署に連行した上で実施されたものであるなど判示の事実関係の下においては、刑訴法220条1項2号による差押えとして適法である。A◯

 

🔷[論文リ(22)]捜索差押許可状の記載における「差し押さえるべき物」の明示の程度→最大判昭和33.7.29 百A4(旧版)。

 

🔷[論文リ(23)]別件捜索・差押え→百26

→別件捜索・差押えとは、A事実を被疑事実とする捜索差押令状を執行した場合、他のB被疑事実にも関連する証拠が発見された場合、専らB被疑事実の証拠を獲得することを目的として差押えることをいう。これを違法とすべきかについて、本件基準説と別件基準説の対立がある。判例(最判昭和51.11.18)は、本件基準説に立っていると考えられ、別件捜索・差押えは許さないとする。【フォロー】いずれの立場に立つかを明確にした上で適法性を検討すべき。

 

🔷[論文リ(24)]令状による差押えの範囲と別件捜索差押えの適法性

🟩[論文マ(34)]逮捕した場所から移動した先での捜索差押えの適法性→⑴本件差押えは、逮捕現場である路上から200メートル離れた時点でなされており、なお、その地点は「逮捕の現場」といえるかが問題。

 

⑵「逮捕の現場」とは、証拠存在の蓋然性が認められる範囲、すなわち、逮捕に着手しこれを完了するまでの間に通過した場所であり、逮捕の場所と同一管理処分が及ぶ場所をいう。

 

⑶ ①当初の逮捕現場で捜索を実施することが不適切な場合で、②移動した場所が当初の逮捕現場から短時間で行ける距離であり、③また、それが不当に離れておらず、最寄りの場所である限り、移動した場所は「逮捕の現場」と同視することができると解する。

 

〈強制採尿/最決昭和55.10.23 百27〉

[判]〈要旨〉Q446  捜査手続上の強制処分として被疑者の体内から導尿管(カテーテル)を用いて尿を採取することの可否について、被疑者の体内から導尿管(カテーテル)を用いて強制的に尿を採取することは、捜査手続上の強制処分として絶対に許されないものではなく、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経たうえ、被疑者の身体の安全と人格の保護のための十分な配慮のもとに行うことが許される。A◯

 

[判]〈要旨〉Q447 被疑者からの強制採尿に必要な令状の種類とその形式について、捜査機関が強制採尿をするには捜索差押令状によるべきであり、上記令状には、医師をして医学的に相当と認められる方法で行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠である。A◯

 

[判]〈要旨〉Q448 強制採尿の過程に適切な条件を付した捜索差押令状によらなかつた不備があつても採尿検査の適法性がそこなわれるかについて、強制採尿の過程に、適切な条件を付した捜索差押令状でなく、身体検査令状及び鑑定処分許可状によつてこれを行つた不備があつても、それ以外の点では法の要求する要件がすべて充足されているときには、上記の不備は、採尿検査の適法性をそこなうものではない。A◯

 

[判]〈主張〉Q449 強制採尿は、裁判官の発する令状に基づき直接的には医師の手によって行われたものであったとしても、被疑者の人格の尊厳を著しく害し、その令状の執行手続として許される限度を超え、違法である。そのため、本件尿鑑定書の証拠能力は認められない。

 

〈採尿令状による連行/最決平成6.9.16 百28〉

[判]〈要旨〉Q450 いわゆる強制採尿令状により採尿場所まで連行することの適否について、 身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、いわゆる強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができる。A◯

 

[判]〈要旨〉Q451 任意同行を求めるため被疑者を職務質問の現場に長時間違法に留め置いた場合、その後の強制採尿手続により得られた尿の鑑定書の証拠能力の適否について、覚せい剤使用の嫌疑のある被疑者に対し、自動車のエンジンキーを取り上げるなどして運転を阻止した上、任意同行を求めて約6時間半以上にわたり職務質問の現場に留め置いた警察官の措置は、任意捜査として許容される範囲を逸脱し、違法であるが、被疑者が覚せい剤中毒をうかがわせる異常な言動を繰り返していたことなどから運転を阻止する必要性が高く、そのために警察官が行使した有形力も必要最小限度の範囲にとどまり、被疑者が自ら運転することに固執して任意同行をかたくなに許否し続けたために説得に長時間を要したものであるほか、その後引き続き行われた強制採尿手続自体に違法がないなどのの事情の下においては、上記一連の手続を全体としてみてもその違法の程度はいまだ重大であるとはいえず、上記強制採尿手続により得られた尿についての鑑定書の証拠能力は否定されない。A◯

 

[定]Q452 強制採尿。A覚醒剤の使用等の嫌疑がある被疑者が尿を任意提出しない場合、カテーテルを被疑者の尿道を挿入する方式によって強制的に尿を採取すること。

 

[考要]Q453 強制採尿に必要とされる令状の種類。A「医師をして医学的に相当な手段によること」という条件付きの捜索差押許可状(「強制採尿令状」)が必要。

 

[考要]〈基準〉Q454 強制採尿の可否の基準。A①被疑事件の重要性、②嫌疑の存在、③当該証拠の重要性とその取得の必要性、④適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合は、最終手段として、適切な法律上の手続を経て、これを行うことも許される。

 

[考要]Q455 強制採血に必要とされる令状の種類。A鑑定処分許可状と検証としての身体検査令状とを併用する必要がある。A◯【フォロー】強制採尿と強制採血とでは、実務上、必要とされる令状の種類が異なる。

 

[特質]Q456 尿の特質。Aいずれ体外に排泄される老廃物。

 

🔷[論文リ(11)]採尿令状による連行の可否

🟩[論文マ(25)]強制採尿の可否・要件

→体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は、捜索・差押の性質を有するものと見るべきである。だから、捜査期間がこれを実施するには、捜索差押令状を必要とすると解すべき。身体検査令状に関する218条6項が上記差押令状に準用されるべきであって、令状の記載要件として強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の記載が不可欠である。

 

🟩[論文マ(26)]強制採尿の際の連行の適否

→身柄を拘束されていない被疑者を採尿場合へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができ、その際、必要最小限度の有形力を行使することができるものと解する。理由は、そのように解しないと、強制採尿令状の目的を達することができないだけでなく、このような場合に上記令状を発付する裁判官は、連行の適否を含めて審査し、上記令状を発付したと見られるからである。

 

[特質]Q457  血液の特質。A身体の構成要素であり、生命や健康にとって重要な役割を担う体液。【フォロー】血液は基本的に体外に排泄されることを予定しているものではなく、物として観念するのは相当ではない。

 

[定]Q458 強制採血。A被疑者の静脈から注射器を使用するなどして血液を強制的に採取すること。

 

[考要]〈理〉Q459 身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能である認められる場合には、強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄り場所まで被疑者を連行するにことができる。その理由。Aそのように解しないと、強制採尿令状の目的達成することができないだけではなく、このような場に上記令状を発付する裁判官は連行の当否を含めて審査し、本件令状を発付したものと認められるから。

 

〈梱包内容のエックス線検査/最決平成21.9.28 百29〉

[判]〈判事〉 Q460 判示事項。A 宅配便業者の運送過程下にある荷物について,荷送人や荷受人の承諾を得ずに,捜査機関が検証許可状によることなくエックス線検査を行うことは適法か。

 

 [判]〈要旨〉Q461 荷送人の依頼に基づき宅配便業者の運送過程下にある荷物について,捜査機関が,捜査目的を達成するため,荷送人や荷受人の承諾を得ずに,これに外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察する行為は,検証としての性質を有する強制処分に当たり,検証許可状によることなくこれを行うことは違法である。A◯

 

[判]〈主張〉Q462 弁護人の主張。A 捜査機関が令状に基づかず、かつ、寄託者の承諾を得ずに実施したエックス線検査は、国民のプライバシーを侵害するものであり、違法捜査であるから、エックス線に派生して収集された証拠は違法収集証拠として証拠能力を有しない。A◯

 

[考要]〈特質〉Q463 エックス線検査の特質。Aエックス線の射影により、内容物の形状や材質を窺い知ることができるだけで、内容物が具体的にどのようなものかについての特定は不可能。

 

🟩[論文マ(27)]X線検査の強制処分該当性

→X線検査は、検証として強制処分に当たる。理由は、検証とは、五官の作用をもって、物の形状を認識する処分をいうところ、X線検査はこれに当たるからである。

 

不要🟩[論文マ(28)]交通事故で意識不明の被疑者からの呼気検査

→呼気検査は、口にビニールを当てるだけであり、採血や採尿と異なり、痛みや屈辱を伴うこともない。また、呼気検査を採取されない自由や勝手にアルコール量を測定されない自由を観念したとしても、それは重要な権利・利益とまでは言えない。したがって、呼気を採取することは強制処分に当たらない。

【フォロー】最判平成9.1.30 百A9(呼気検査)。

 

🔴〈GPS捜査/最大判平成29.3.15 百30〉

[判]〈判事〉Q464 判示事項。A 車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査であるGPS捜査は、令状がなければ行うことができない強制の処分か。

 

 [判]〈判旨〉Q465 車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査であるGPS捜査は,個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であり,令状がなければ行うことができない強制の処分である。A◯

 

[定]Q466 GPS捜査。A 被疑者などの承諾なく、GPS端末を被疑者などの自動車に付け、パソコン等を使って、その位置情報等を取得しつつ、尾行や張り込みをする捜査手法。

 

[特質]Q467 G P S捜査の特質。A 対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。A◯

 

🟩[論文マ(12)]GPS捜査の強制処分該当性(判例)

→GPS捜査は、発信機を個人の所持品に密かに装着することによって行う点において、公道上での写真撮影とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものである。憲法35条に規定する「住居、書類及び所持品」に対する権利には、これらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれるものと解する。GPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる。

 

不要🟩[論文マ(13)]GPS捜査の強制処分該当性(学説)

 

〈捜索・差押え時の写真撮影と準抗告/最決平成2.6.27 百32〉

[判]〈判事〉Q468 判示事項。A司法警察員が捜索差押の際にした写真撮影によって得られたネガ及び写真の廃棄又は引渡を求める準抗告は適法か。

 

 [判]〈要旨〉Q469 司法警察員が申立人方居室内で捜索差押をするに際し捜索差押許可状記載の「差し押えるべき物」に該当しない印鑑、ポケット・ティッシュペーパー等について写真を撮影した場合において、上記の写真撮影は、「押収に関する処分」には当たらず、その撮影によって得られたネガ及び写真の廃棄又は申立人への引渡を求める準抗告は、不適法である。A◯

 

[趣]Q470 強制処分たる検証を実施するために検証許可状が必要とされる趣旨。A検証を行うべき正当な理由と必要性の有無を事前の審査に係らせることにより、捜査権の濫用を未然に防ぎ、もって対象者等国民のプライバシー権等の権利を保障する。【フォロー】捜索差押許可状が必要とされる趣旨も同じ。

 

[特質]Q471 プライバシー権の特質。Aプライバシー権は、個人の人格的生存にとって不可欠というべき重要な権利。

 

[趣]Q472 197条1項但書が強制処分法定主義を採る理由。A捜査機関が行う強制処分に関し、国民の代表機関たる国会の定める法律による制約を加え、もって国民の人権を保護しようとすること。

 

〈接見交通⑴〜接見指定の合憲性・要件/最大判平成11.3.24 百33〉

〈捜査のため必要があるとき(39③)〉

 

[判]〈判旨〉Q473 捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは、原則、いつでも接見等の機会を与えなければならない。39条3項にいう「捜査のために必要があるとき」とは、上記接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られる。A◯

 

[判]〈判旨〉Q474 接見等の申出を受けた時に、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証等に立ち会わせている場合、また、間近い時に上記取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、取調べが予定通り開始できなくなるおそれがある場合などは、原則、上記にいう取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たる。A◯

 

[趣]Q475 39条3項本文趣旨(公訴提起前に限り、日時、場所及び時間を指定可)。A被疑者が取調べ等の捜査の必要性と接見交通権の行使との調整を図る。

 

[短]〈修〉Q476 身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者と立会人なくして接見できるが、その場合に接受できるのは、物のみである。A×【フォロー】39①。書類も接受可。

 

[文解]Q477「捜査のため必要があるとき」(39③本)。A現に被疑者を取調中であるとか実況見分・検証等に立ち合わせる必要がある等、捜査の中断による支障が顕著な場合をいう。

 

[学説]Q478 接見指定の要件である「捜査のため必要があるとき」(39③本)の解釈について、限定説。A ①被疑者を現に取調べているときや、実況見分、検証等の立会いのため捜査官が被疑者の身柄を現に利用しているときに限られる。

 

[学説]〈同上〉Q479 準限定説。A ②上記①の場合に加えて、取調べを開始しようとしているとき、被疑者が実況見分、検証等の立会いのため当該場所に赴こうとしているときも含む。

 

[学説]〈同上〉Q480 捜査全般必要説。A ③上記①②の場合はもとより、弁護人等を通じた罪証隠滅、共犯者との通謀の防止等を含めて広く捜査全般の必要性をいうとする。【フォロー】浅井事件(最判平成3.5.10)が準限定説(②)を採り、安藤事件(最大判平成11.3.24)も準限定説(②)を確認している。

 

[判断]〈趣〉Q481 接見指定制度について、最高裁の判断。A身柄拘束の期間に厳格な時間制限があることに鑑み、被害者の取調べ等の捜査の必要と接見交通の行使との調整を図る趣旨で置かれたものとする。【フォロー/機能】判例は、接見指定制度を1つしかない被疑者の身柄を対象とした捜査機関と弁護人それぞれの活動を時間的に調整する機能とみる。

 

[性格]Q482 初回の接見の重要性。A弁護人となろうとする者と被疑者との逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとっては、弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関の取調べを受けるにあたっての助言を得るための最初の機会であって、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。

 

🔷[論文リ⑴]接見指定の適法性

🟩[論文マ⑴] 接見指定の適法性 

🟧🔵予備3 接見指定の適法性(初回の接見)

→接見指定の要件は、①捜査のため必要があるとき(36③本)、②具体的指定内容が「防御の準備をする権利を不当に制限するようなもの」でないこと(39③但)である。まず、①「捜査のため必要があるときとは、捜査機関・弁護人間で、一つしかない被疑者の身柄を必要とする要請を調和するため、その調和を理由に、捜査の中断による支障が顕著な場合をいう。

 

次に、②について、捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならない。

 

とりわけ、逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとって弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関から取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されないという憲法上の保障の出発点をなすものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御のために特に重要である。

 

〈接見交通⑵〜接見指定の内容/最判平成12.6.13 百34〉

 

[判]〈判旨〉Q483 弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者から被疑者の逮捕直後に初回の接見の申出を受けた捜査機関は、即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能なときは、留置施設の管理運営上支障があるなど特段の事情のない限り、被疑者の引致後直ちに行うべきものとされている手続及びそれに引き続く指紋採取、写真撮影等所要の手続を終えた後、たとい比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時又は近接した時点での接見を認める措置を採るべきである。A◯

 

[判]〈判旨〉Q484 接見の日時等の指定をする権限を有する司法警察職員が、逮捕された被疑者の依頼により弁護人となろうとする者として逮捕直後に警察署に赴いた弁護士から初回の接見の申出を受けたのに対し、接見申出があってから約1時間10分が経過した時点に至って、警察署前に待機していた弁護士に対して接見の日時を翌日に指定した措置は、即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能であるにもかかわらず、犯罪事実の要旨の告知等引致後直ちに行うべきものとされている手続及びそれに引き続く写真撮影等所要の手続が終了した後も弁護士と協議することなく取調べを継続し、その後被疑者の夕食のために取調べが中断されたのに、夕食前の取調べの終了を早めたり、夕食後の取調べの開始を遅らせたりして接見させることをしなかったなど判示の事情の下においては、国賠法1条1項にいう違法な行為に当たる。A◯

 

〈秘密交通権/福岡高判平成23.7.1 百36〉

[判]〈判旨〉Q485 39条1項にいう「立会人なくして」とは、捜査機関が立ち会わないことにとどまらず、弁護人等の固有権を保障したものである。A◯

 

[判]〈判旨〉Q486 憲法が刑罰権の発動ないし刑罰権発動のための捜査権の行使が国家の権能であることを当然の前提としていることに照らし、被疑者等と弁護人等との接見交通権は、刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先する性質のものではない。A◯

 

[判]〈判旨〉Q487 検察官が、いまだ秘密性が消失していない被疑者と弁護人との意思疎通の過程を聴取し、調書化したことは、被疑者等と弁護人等との自由な意思疎通ないし情報伝達に委縮効果を及ぼすおそれがあるから、違法である。また、この調書の取調べ請求に際し、あえて弁護人にも嘘をついたことをまでも立証趣旨としたことは、弁護人と被疑者との信頼関係を破壊するおそれのある行為であって、弁護人に対し、今後の公判における審理準備のため弁護活動をなす際においても、実質的弁護準備としての秘密交通権を行使する機会を持つことについて、心理的な萎縮効果を生じさせるものである。A◯

 

[定]Q488 起訴便宜主義。A検察官に訴追裁量を認め、事案の具体的事情に応じた公訴権の柔軟な運用を可能にする。【フォロー】248。

 

[趣]Q489 248条1項趣旨(起訴便宜主義)。A刑事政策的考慮、訴訟経済的考察から、犯罪の嫌疑と訴訟条件が備わっているが、訴追の必要性がないときに、検察官の裁量により不起訴となる処分を認める。

 

[基][立場]Q490 判例は、法定代理人の告訴権は、固有権であるという立場に立つ。A◯【フォロー】法定代理人が告訴した場合における被害者本人の告訴の取消しを否定。

 

〈訴因の設定と審判の範囲/最大判平成15.4.23 百39〉

 

[判]〈判旨〉Q491 売却等による所有権移転行為について、横領罪の成立自体は、これを肯定することができるというべきであり、先行の抵当権設定行為が存在することは、後行の所有権移転行為について犯罪の成立自体を妨げる事情にはならない。A◯

 

[判]〈判旨〉Q492 委託を受けて他人の不動産を占有する者が,これに欲しいままに抵当権を設定してその旨の登記を了した後,これについて欲しいままに売却等の所有権移転行為を行いその旨の登記を了した場合において,後行の所有権移転行為のみが横領罪として起訴されたときは,裁判所は,所有権移転の点だけを審判の対象とすべきであり,犯罪の成否を決するに当たり,所有権移転行為に先立って横領罪を構成する抵当権設定行為があったかどうかといった訴因外の事情に立ち入って審理判断すべきではない。A◯

 

[文解]Q493 法は、公訴事実を起訴状の記載事項とした上で(256②2号)、公訴事実は訴因を明示して記載しなければならないとする(256③)。ここにいう「訴因」。A検察官による犯罪事実の主張。【フォロー】⑴それは、刑事裁判における審判の対象。⑵公判で審理の対象は、検察官が訴因として起訴状に掲げた犯罪事実に限定され、訴因に記載されていない事実を裁判所が審判の対象とすることは不可。この意味で、検察官は、刑事裁判における審判対象を設定する権限を持っている。

 

[定]Q494 公訴事実。Aこれから法廷でそういう事件があったのかなかったのかを審理する対象となる事件をいう。【フォロー】裁判所は、生の事件について、実際に何が起こったのか、被告人はこの事件にどう関わっているかを判断していく。

 

[定]Q495 訴因。A検察官が、公訴事実として取り上げる事件について、検察官がどういう犯罪に当たるかを組み立てたものをいう。【フォロー】検察官は、訴因が殺人罪か、傷害致死か、過失致死かを明確にして控訴事実を構成する。

 

[構成]Q496 訴因の構成。A罪となるべき事実と日時、場所、方法とにより構成。【フォロー/理解】訴因の中核的要素は「罪となるべき事実」であり、日時、場所、方法は、これを特定するための手段に過ぎないと理解されている。

 

[機能]Q497 訴因の機能。A 裁判所に対し、①審判の対象を限定すること、②被告人に対し、防御の範囲を示すこと。

 

[文解]Q498 256条にいう「罪となるべき事実」。A 刑罰法令の構成要件に該当する具体的事実。【フォロー】犯罪構成要件事実のみならず、共犯者であれば、その者との共謀の事実、態様をも含む。

 

[判例]〈見解〉Q499 白山丸事件最高裁判決の見解。A 罪となるべき事実の特定=訴因の特定であり、「日時、場所及び方法」等は、罪となるべき事実を特定するための手段の意味しかなく、訴因の特定にとって不可欠の要素ではない。【フォロー】「犯罪の日時、場所及び方法」は、できる限り具体的に表示すべきことが要請されている。だから、訴因の特定にとって不可欠ではないとしても、これを記載すれば訴因の一部を構成することは否定できない。

 

【フォロー】下記(基本的事項⑥)A17に白山丸事件有。

 

[考要]〈理〉Q500 公訴提起を行うときは、起訴状のみを提出し、有罪の予断を抱かせるおそれのある事項上起訴状に記載してはならない。その理由。A裁判官に、事件の審理に先立ち被告人にとって不利な予断を生じさせるおそれがあること。

 

[制趣]Q501 公訴時効制度の趣旨。A時の経過に応じて公訴権を制限する訴訟法規を通じて処罰の必要性と法的安定性の調和を図ることにある。

 

[定]Q502 起訴状一本主義。A起訴は、起訴状のみを提出して行い、起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる書類、その他の物を添付し又はその内容を引用してはならない。【フォロー】256⑥。

 

[定]Q503 予断排除の原則。A裁判官は、事件について何らの予断を抱くことなく白紙の状態で審理に望まなければならないとする原則(256⑥)。

 

[要件]〈例外〉Q504 例外的に起訴状に前科を記載することが許される場合。A①公訴犯罪事実の構成要件となっている場合(常習類犯窃盗)、②公訴犯罪事実の内容となっている場合(前科の事実を手段方法として恐喝した)。

 

〈訴因の特定・明示⑴〜覚醒剤使用剤/最決昭和56.4.25 百43〉

[判]〈要旨〉Q505 覚せい剤使用の日時を「昭和54年9月26日頃から同年10月3日までの間」、その場所を「広島県a郡b町内及びその周辺」、その使用量、使用方法を「若干量を自己の身体に注射又は服用して施用し」との程度に表示してある公訴事実の記載は、日時、場所の表示にある程度の幅があり、かつ、使用量、使用方法の表示にも明確を欠くところがあるとしても、検察官において起訴当時の証拠に基づきできる限り特定したものである以上、覚醒剤使用剤罪の訴因の特定に欠けるところはない。A◯

 

[判]〈文解〉Q506 訴因の択一的記載。A Aという訴因とBという訴因とがある場合に、何か一方が認定されることを解除条件として審判を求める場合をいう。

 

〈訴因の特定・明示⑵〜包括一罪/最決平成26.3.17 百44〉

[判]〈要旨〉Q507 包括一罪を構成する一連の暴行による傷害について,訴因の特定に欠けるところはないかについて、包括一罪を構成する一連の暴行による傷害については,本件のような訴因であっても,共犯者,被害者,期間,場所,暴行の態様及び傷害結果を記載することをもって,その特定に欠けるところはない。A◯

 

[判]〈要旨〉Q508 本件訴因における罪となるべき事実は、約4か月間という一定の期間内に、被告人が同一の被疑者に対し、ある程度限定された場所で、共通の動機から繰り返し犯罪を生じ、同態様の暴行を反復継続したというもので、その全体を一体のものと評価し、包括して一罪と解することができるところ、その共犯者、被疑者、期間、場所、暴行の態様及び傷害結果の記載により、他の犯罪事実との区別が可能であり、また、それが傷害罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされているから、訴因の特定に欠けるところはない。A◯

 

[文解]Q509 当事者主義的訴訟構造(256⑥、312①、298①等)。A一方当事者たる検察官に訴因を主張させる(256③)とともに、裁判所は訴因の範囲で審判し、被告人も訴因について防御すれば足りるという構造。

 

[文解]Q510 256条3項の「できる限り」。Aできる限り厳密に特定するという意味であり、原則、日時、場所、方法を厳密に特定することが求められていると解釈すべき。【フォロー/理由】訴因は、裁判所に対して審判の対象を限定するとともに、被告人に対して防御の範囲を明確化するという重要な機能を有する。このような機能に基づいて、256条3項は訴因の明示を要求したから。

 

🟩[論文マ(35)]訴因の特定

🟧🔵予備25、29 訴因の特定

→⑴罪となるべき事実に記載された被告人の行為が特定の犯罪構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的事実を明らかにしていること、⑵他の犯罪事実と区別できる程に記載されているかどうかによって、訴因の特定の有無は判断される。

 

[性]Q511 訴因の機能。A ①裁判所が審理すべき対象を確定する機能と②被告人に対して防御の範囲を示す機能がある。

 

[短]Q512 訴因の予備的記載がなされていない場合には、主たる訴因が認定できれば、予備的訴因を認定する必要はない。A◯

 

[短]Q513 併合罪の関係にある事実は、公訴事実の単一性がなく公訴事実の同一性が認められないから、本位的訴因と併合罪の関係にある事実は、予備的訴因とすることはできない。A◯【

フォロー】256⑤。

 

[定]Q514 当時者主義。A訴因(犯罪事実の主張)と証拠を巡る訴訟追行過程において、当事者たる検察官・被告人が主導的役割を担う訴訟構造。

 

[定]Q515 職権主義。A裁判所が主導的役割を担う訴訟構造。

 

🔴〈訴因変更の要否〜共同正犯の実行行為者/最決平成13.4.11 百45〉

 

[判]〈要旨〉Q516 殺害の日時・場所・方法の判示が概括的で実行行為者の判示が択一的である場合、殺人罪の罪となるべき事実の判示として不十分かについて、殺害の日時・場所・方法の判示が概括的なものである上,実行行為者の判示が「A又は被告人あるいはその両名」という択一的なものであっても,その事件が被告人とAの2名の共謀による犯行であるときには,殺人罪の罪となるべき事実の判示として不十分とはいえない。A◯【フォロー】十分である。

 

[判]〈要旨〉Q517 殺人罪の共同正犯の訴因において実行行為者が明示された場合に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することの適否について、殺人罪の共同正犯の訴因において実行行為者が明示された場合に,それと実質的に異なる認定をするには,原則、訴因変更手続を要するが,被告人に不意打ちを与えるものではなく,かつ,認定される事実が訴因に記載された事実に比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には,訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定しても違法ではない。A◯

 

[判]〈要旨〉Q518 殺人罪の共同正犯の訴因において実行行為者が被告人と明示された場合に,訴因変更手続を経ることなく実行行為者がA又は被告人あるいはその両名であると択一的に認定したことは,訴因と認定との間で共犯者の範囲に変わりがなく,被告人が1審の審理においてAとの共謀及び実行行為への関与を否定し,「実行行為者は被告人である」旨のAの証言につき、「自己の責任を被告人に転嫁するものである」と主張するなどした判示の事情の下においては,違法とはいえない。A◯

 

[判]〈要旨〉Q519 殺人罪の共同正犯の訴因としては、その実行行為者が誰であるかが明示されていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえない。A◯【フォロー/その理由】実行行為者が明示された場合、それと異なる認定をするとしても、審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとはいえないから、実行行為者の明示は、訴因の記載として不可欠な事項ではない。

 

[文解]Q520 「罪となるべき事実」(335①)。A公訴事実に対応する訴因の範囲内で裁判所の認定した犯罪事実を指し、刑罰本条の構成要件に該当する事実、適法性又は有責性の事実及び処罰条件を充足することを示す事実のこと。

 

[判]〈要旨〉Q521 実行行為者が誰であるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化などのため、検察官において実行行為者の明示をした以上、判決において実質的に異なる認定をするには、原則、訴因変更手続を要するものと解する。A◯

 

[判]〈要旨〉Q522 実行行為者の明示は、前記の通り訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではない。A◯

 

[考要]Q523 訴因変更は、どのような場合に必要か。A事実に重要あるいは実質的な差異が生じた場合。

 

[考要]Q524 縮小認定の場合、何故訴因変更手続が不要なのか。A①裁判所の認定事実が訴因事実に含まれているときは、検察官により黙示的、予備的に主張されていると見られ、②定型的に、被告人の防御に不利益を与えることがないと考えられるから。【フォロー】縮小認定は、検察官の認定した訴因事実を包摂する関係にある場合をいう。

 

[文解]〈判例〉Q525 判例のいう「基本的事実同一性」とは。A両訴因の背後にある社会的・歴史的事実の同一性を意味する。

 

🔷[論文リ(30)]訴因変更の要否

→訴因とは、検察官の主張する具体的事実。審判対象の特定、被告人の防御権保障という訴因の機能から、重要な事実が変化した場合に訴因変更が必要になる。訴因変更の要否の判断基準として、①審判対象の確定のために必要な事実の変動か、②被告人の防御に重要な事項か、③具体的審理経過に照らし、被告人の防御に支障が生じるかを検討する必要有。

 

🟩[論文マ(36)]訴因変更の要否

🟧🔵予備25  訴因変更の要否

🟧🔵予備29 争点顕在化措置ないし訴因変更の要否

🟧🔵予備29 検察官の釈明と訴因

 

[例]〈犯行の日時、場所、行為態様など具体的事実の変化〉

[考要]Q526 犯罪の行為態様が変化した場合や、被害物件数・金額や傷害の程度が増大した場合は、訴因変更が必要となる。対し、犯罪の日時、場所や行為態様、被害の程度などの変化があっても、犯罪の成否や被告人の防御に直接影響がない場合は、訴因変更は不要とされる。A◯

 

[例]〈過失の態様の変化〉

[考慮]Q527 具体的な注意義務違反の事実に変化があれば訴因変更が必要になる。しかし、注意義務を課す根拠となる具体的事実には訴因の拘束力はない。A◯

【フォロー】最決昭和63.10.24。速度調整義務を課す根拠となる具体的事実が訴因変更により撤回された場合にも、上記事実を認定できる。

 

[例]〈法律評価の変化〉

[考慮]Q528 適用罰条は違うものの事実が同一の場合は、罰条の問題となり、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがない限り、罰条変更は不要とされる。A◯

【フォロー】最決昭和53.2.16 百A18(旧版)

 

🔷[論文リ(31)]訴因変更の可否

→判例は、基本的事実同一性説に立っていると考えられる。まず、事実的共通性を確認した上で、さらに事実同士が非両立であるといえるかを考慮して、公訴事実の同一性を判断する。

 

🟩[論文マ(37)]訴因変更の可否

→⑴本件では、訴因変更ができるかどうか、新訴因が「公訴事実の同一性」の範囲内にあるかどうかが問題。

 

⑵公訴事実の同一性については、基本的事実関係の同一性を判断基準とし、両事実の基本的部分が同一であれば、公訴事実の同一性がある。

 

⑶同一かどうか、構成要件の罪質の異同、犯罪日時・場所の近接性、方法・態様・被疑者・物件の同一性などから判断する。

 

⑷両訴因にずれがある場合でも、その背後にある社会的事実が重なり合って同一の社会的事実を構成している場合に、両訴因が両立していないときは、社会的事実は同一である。

 

〈公訴事実の同一性/最決昭和53.3.6・最決昭和63.10.25 百46〉

 

[判]〈要旨〉Q529 被告人甲は、公務員乙と共謀のうえ、乙の職務上の不正行為に対する謝礼の趣旨で、丙から賄賂を収受した」という枉法収賄(おうほう、加重収賄)の訴因と、「被告人甲は、丙と共謀のうえ、上記と同じ趣旨で、公務員乙に対して賄賂を供与した」という贈賄の訴因とは、収受したとされる賄賂と供与したとされる賄賂との間に事実上の共通性がある場合には、公訴事実の同一性を失わない。A◯

 

[判]〈判事〉Q530 判事事項。A 覚せい剤使用罪につき使用時間、場所、方法に差異のある訴因間において公訴事実の同一性が認められるか。

 

[判]〈要旨〉Q531  覚せい剤使用罪の当初の訴因と変更後の訴因との間において、使用時間、場所、方法に多少の差異があるとしても、いずれも被告人の提出した尿中から検出された覚せい剤の使用行為に関するものであつて、事実上の共通性があり、両立しない関係にあると認められる場合には、両訴因は、公訴事実の同一性を失わない。A◯

 

[判]〈文解〉Q532 審判の対象。A検察官が主張する訴因。

 

[文解]〈性〉Q533「公訴事実の同一性」(256③)。A訴因変更の限界を画すると同時に、二重起訴(338、3号)や不告不理違反(378、3号)となる範囲及び一事不再理効(337、3号)の及ぶ範囲を画する機能を有すると解している。

 

〈訴訟条件と訴因〜親告罪の告訴/最判昭和58.9.6 百48〉

[判]〈判旨〉Q534 非親告罪として起訴された後に、これが親告罪と判明した場合について、当初から検察官が告訴がないにもかかわらず敢えてあるいは、それを見過ごして親告罪の訴因で起訴したのとは全く異なり、本件のように、訴訟の進展に伴ない訴訟手続等によって親告罪として審判すべき事態に至ったときは、その時点で初めて告訴が必要となったに過ぎないのであるから、現行法下の訴因制度の下では、上記時点において有効な告訴があれば訴訟条件の具備につき何ら問題はなく実体裁判をすることができる。A◯【フォロー/帰結】本判決は、親告罪として審判すべき事態に至った時点において、有効な告訴があれば訴訟条件の具備について問題はないとした。

 

[定]Q535 親告罪。A公訴の提起に告訴を必要とする犯罪。

 

[定]Q536 告訴。A犯罪の被害者、その他の一定の告訴権者が、捜査機関に対し、犯罪事実を申告し、犯人の訴追を求める意思表示。

 

[定]Q537 直接主義。A公判廷で裁判所が直接調べた証拠資料に基づいて審判する原則。【フォロー】真実を発見するためには、裁判所が直接被疑者や目撃者等を取調べるのがよいと考えることによる。

 

[趣]Q538 規則208条趣旨(求釈明)。A裁判長の訴訟指揮権が、訴訟の審理に一定の秩序を与え、判決に到達するための裁判所の合目的活動とされていることからすれば、その訴訟の当事者等訴訟関係人が、裁判長の訴訟指揮権に従わなければならないことは当然だから、その旨規定した。