10月に入り、ようやく季節の遷ろいを実感する。
だが、どこか奇妙だ。
気温は平年より高く、冷たい雨の一日があったかと思えば、翌日には初夏を思わせる夏日が顔を出す。
日が落ちる頃には夕立のような強雨が降り注ぐ一幕もあった。
空にはうろこ雲に混じり、ひつじ雲にしては一回り大きい夏の雲が浮かぶ。
7〜11月の五ヶ月ほどの季節が行き交うような光景···
昭和のクッキリした季節感が染み付いた自分には戸惑いばかりがある。

11月二週目辺りから急激に気温が低下。
─どうなるんだ?
様子を見ていたが、どうやら秋は瞬く間に終わったらしい。
日中、気温が高い日もあるものの、吹く風はあくまでも北寄り。
陽射しの乏しい日は寒気が押し寄せる。
もはや夜間にはヒーターが欠かせない。
─紅葉が進む前に落葉か···
そんなことを思ううち、呆気なく11月も過ぎた。
かつての風物詩を無意識に追い続ける自分が、随分とトシをとった気分にさせられる。

8月中旬、市の特定健診の結果が出た。
今までは就業先の取り決めにならい春と秋に受診していたのだが、離職に伴い任意となったため先送りしていたことだった。
今回は登録している派遣会社に促され、時期外れの受診となる。
法令で定められたこととはいえ、このあたりのことをないがしろにしている会社も少なくないと訊く。
どうやら少しは信用してもイイらしい。

今回は自宅近くのかかりつけの内科医での受診となった。
あらかじめ提示された定型的な問診票を持参し、これまでと変わりのない健診を一通り受ける。
時間を取られそうなので任意の"大腸ガン"の検査はパスした。
これまでと違ったのは、検査結果が出た後医師から指導があることだった。
何を言い渡されるか少々不安も過ったが、検査結果に基づいて適切な指導が受けられるのは悪くないと思った。

結果は上々だった。
これまでも『要再検』の判定を受けたことはなかったが、それどころか、一項目を除く全ての項目で測定値が中位に改善していた。
唯一の基準外は中性脂肪がマイナス値を示していたことだが、医師の見解は「体質により個人差がある」ので心配に及ばないと云う。
生活上の改善点を尋ねるが、逆に現状維持を推奨されるほどだった。

─あくまでも一般的な検査であり、人間ドックのように掘り下げたモノであれば違ったかも知れない···
そう自分に言い聞かせながらも、久方ぶりにイイ報せを受けた気分だった。
と云うのも、塞ぎがちだった気分は何処ヘやら。
今抱える課題に前向きに取り組む気持ちが湧き上がって来るようだった。

中性脂肪については、やはり気になるのでネットを検索してみる。
要因は様々あるようでハッキリしないが、思い当たるのは糖質、脂質を抑えた食生活の変化くらいだった。
だが、一過性のことであれば気に病むほどのことではないらしい。
あまり食事に制限をかけ過ぎることなく、体調の変化に注意しながら経過をみていこうと思う。

体調好転の要因はウォーキングなどの体力向上もあるんだろう。
だが最たるモノは、意識して取り組んだ生活習慣の改善ではなかろうか?

まだ規則正しくとはいかないが、23:00前後に就寝、5:00頃起床。
一時は『睡眠障害』を疑ったが、寝付きはイイ。
ベッドに入って五分もしないうちに眠りについている。
睡眠時間は六時間。
世間一般には"七時間以上"を推奨しているが、僕の場合は寝起きが悪くなる。
午後に多少眠気を覚えるが、十分ほどうたた寝をすればすぐ醒める。
ずっと夜型だった生活とは縁が切れたのかも知れない。

朝はゆで卵とフルーツ、ヨーグルト等、夜はタンパク質を主とした食事で、ほとんど一日二食で済ませている。
おかげで体重は74kg前後となり、当然、身体の動きはイイ。
20代の頃と変わらぬ体重だが、自分では『ベスト』だと思っている。
一般的に云われる『一日三食』は、基礎代謝が低下した今の自分には"過食"だったのだろう。
空腹を感じた時は雑穀米や納豆、ナッツ類などの間食で補っている。
最初は"スタミナ切れ"などの心配もしたが、今のところそうしたことは起きていない。

一日の終わりには三十分ほど入浴。
夏場でもシャワーだけでなくしっかりと湯船に浸かる。
今までは汗など汚れを落とすイメージしかなかったが、湯船の中で手足の指や首、肩甲骨周りのストレッチを施し、なるべく身体の疲れをとることを意識している。
おかげで、左母指の関節痛に悩まされることは無くなった。
気づけば、翌日に倦怠感を感じることも無い。

雨の日や仕事のある日を除き、川沿いに向かうコースをウォーキングする。
目標は18,000歩/日。
前後するものの、今日現在、平均で目標値をクリア出来ている。
脚力には大分自信が持てるようになってきた。
ゴルフの練習は二回/週。
一球一球スイングと球筋を確認しながら120球を、二時間ほどかけてじっくり打ち込む。
次々と課題が見つかりキリが無いが、着実に進歩していることが実感できる。
経済的、時間的問題を早くクリアして、ラウンドしたい欲求がつのっている···

こうやって書き連ねてくると、ゴルフのことを除けば特異な生活をしているわけじゃない。
だが、今までこの当たり前な普通のことが出来なかった···
─どこかで歯車が狂った?
『大丈夫』という不確かな勢いに任せ、どれだけ自分の身体に負荷をかけ続けてきたか?
家族への扶養義務という大義名分がハバを利かせた時期はある。
だが、離別した後は意地や体裁、下らない見栄のようなことにばかり囚われていたんじゃないか?
本当に"やりたいコト"なら別だが、そうじゃないなら、払う"犠牲"をしっかり秤にかけるべきだった。
─なんとか踏みとどまったな···
"ダメモト"気分で始めたことだが、今回の取り組み方ばかりは"正解"が得られたような気がした。
もういつからだったか思い出せないほど長い間狂っていた歯車が、ようやく噛み合ってきた手応えを覚えている。

気づけば、最悪の気分にさせられた前職での一連の騒動から一年が過ぎていた···

相も変わらぬ停滞ばかりで"時間の浪費"に焦りを感じ始めていたが、かろうじて手の内に残ったモノはあった。
今の自分に最も不可欠なモノ···
"健康"という"ヨリドコロ"を保守したことを素直に喜びたいと思う。
そしてこの一年···
"ダメモト"と前述した通り、頭の中には常に『もうトシだから···』といった考えがつき纏っていたようだった。
─投げ出さなくて良かった···
何故できたのかは分からない。
だが、"やらない理由"を探すことがどれだけ不毛なことか?
今そのことを噛みしめている。
─少しマシになってきた···
自分のことを『信じてやろう』と思っている。