9月27日、先の衆院選挙遊説中に凶弾に斃れた安倍晋三元首相の"国葬"が、日本武道館にて執り行なわれた。
国内外からの参列者4,138名。
会場近くの九段坂公園に設けられた一般献花台には約23,000人が訪れたという。
約20,000人規模の警備による厳戒態勢が効を奏したのか、多少の小競り合いは見受けられたものの、大過なく終わったことに少なからぬ安堵を覚えた。
ロシアによるウクライナ侵攻以来、不穏な気持ちが拭いきれない。
─もうイサカイはたくさんだ···
そんな思いが強かった。
中止を願っていた僕には、今回の国家的葬儀はただの"厄介事"としか映らなかった。

最初にこの"国葬"の話を聞いた時、「悪い冗談だろう」と思った。
実績の評価が二分する一政治家に対して国民全体に"弔意"を求めるというのは、どう考えても無理な話じゃないか。
シンパだけで気の済むようにして欲しいと言うのが僕の意見である。
"政治利用"の臭いが色濃い。
吐き気がした。
─なんてヤツらだ···
非業の死を遂げた仲間の屍まで利用するような非道に、腸が煮えくり返るような思いだった。
法令に疎い僕は「どうせ国会で潰される」と思っていた。
だがそうはならず、ほぼ政府の一存で決定できることが分かり愕然とするばかりだった。
以来、この件について注視していたが、"反対論"が加熱する中、委細構わず事は粛々と進められていったのだった。
─「やる」と言ったら、何があっても実施するんだな···
最期にはそんな諦めがあった。
─バカな決断をしたものだ···
独り毒づくのが精一杯だった。
─こんなヤカラを支持するから、こんなことになる···
しばらく鳴りを潜めていた厭世観が湧き上がってきていた。

当日のTVは朝から"国葬"一色だった。
一般献花台の前には、午後からの開場にも関わらず、憂いを帯びた多くの人々が長い行列を作っていた。
一方、国会議事堂の前では、"反対派"が思い思いのプラカードを掲げて"国葬中止"のシュプレヒコールをあげている。
あたかも日本が二極に分断されたかのような光景···
予想はしていたが、それは果てしなく悲しい映像だった。
苦々しい思いで僕はTVをオフにした。

ゴルフの練習を済ませ家に戻って再びTVを点けると、葬儀は閉会の時刻に迫っていた。
今日の一連の葬儀の様子がダイジェストで流れる。
途中、献花に訪れた人々の進行を"反対派"が妨害するシーンが映された。
─バカヤロウ!
嫌な気分だった。
─党葬にすれば、こんなことにはならなかったはず···
苛立つ気持ちを鎮めるため、一度TVの前を離れる。
しばらくして閉会時間となった。
岸田首相に従い歩く、遺骨を抱えた昭恵夫人の姿が痛々しかった。
─これがアンタのしたかったことなのか?
厳しい面持ちで歩を進める岸田首相に、無意識に問いかけていた。
議員初当選同期の安倍元首相には、特別な思い入れがあったと言われている。
"国葬"は麻生副総裁の入れ知恵との噂も聞いていた。
岸田首相の表情に後悔の念が滲んでいるように見えたのは僕だけだろうか?
一方で"国葬"に難色を示したと言われる昭恵夫人···
遺骨を抱え歩を進めていることが奇跡と思えるほど、その姿は虚ろだった。
最愛のパートナーを失った哀しみだけがそこにあった。
立場をわきまえず奔放な言動で随分と夫の足を引っ張ったように見えたが···
─この人なりに一生懸命だったのかも知れない···
今までの印象を僕は思い直していた。
何か優しい言葉を投げかけてあげたい気持ちにかられていた。

まるで市井の有名人の"お別れの会"を見守っているような気分だった。
一部の喧騒と怒号を抜きにすれば···
どう考えても可怪しい···
─安倍元首相は"国葬"を望んだろうか?
シンパでもない僕には到底分からない。
だが、そうじゃないようなわだかまりだけが残った。

合掌