新型ウイルスの影響で異例の11月開催となったマスターズ···
大会レコードとなる-20で、D.ジョンソンが初の栄冠を手にした。

初日、1イーグル、5バーディー、ノーボギーの-7で首位に立つと、好調をキープしたまま四日間首位を守り続け、最終日2位に5打差をつける圧勝劇だった。
グリーンのコンパクションやスピードが低く全体的な難易度は下がったものの、いち早くそのことに順応した柔軟性が勝因となった気がする。
他の多くの有力候補者達が経験則の幻影に惑わされる中、この男だけが目前の実体を見極め有効なことを積み重ねていった印象を受けた。
この男···
プレー中に感情を剥き出しにするのをほとんど見たことがない。
風貌とは裏腹に、寡黙で穏やかな印象ばかりが強く残っている。
現世界ランキング1位を証明する結果となったわけだが、この大会に限っては、彼のそうした性向が、変化に順応した自在なプレーを可能にしたに違いない。


右手親指付近の状態は一進一退を繰り返している。
使うことを極力制限してるものの、仕事中に時折無理をするせいか、突然ハリが出て痛みの兆候が現われる。
そんなわけで通院は欠かせないのだが、金曜日の治療中に、今度は肘付近の上腕部にハリが見つかる。
マッサージを施してもらったその日を境に倦怠感が抜けない。
医師の話では、親指付近同様、筋肉疲労が溜まっている状態らしい。
おそらく、親指を使わないことで別の箇所に負荷がかかっているのだろう。
ガッカリしたものの受け入れるしかない。
医師に薦められた、血管の拡張を促すための温・冷の交代浴を試す。
疲労回復のための試行錯誤は続く。

オーガスタのグリーンを観てると、無性にウェッジとパターの練習がしたくなる。
到底真似できるわけはないが、名手達の凄技に感化され、『ナニか』がつかめたような気になっている。
右手のことが不安で欠勤したが、外は穏やかな日和···
ストレッチをして練習場に向かった。

ウェッジだけの練習はもう何年もしていない。
ラウンドをしてないせいだろう。
痛い目に遭ってないので上昇志向が欠落している。
しばらく打っていると、次第に高さ、距離がバラついてくる。
意識を集中するが直らない。
振り幅や手の動きに意識をもっていくと、今度は足もとが怪しくなってくる。
─ヘタだなぁ···
ボヤキながら、だんだんアドレスが気になってきた。
深くなり過ぎている前傾を正し、さらに打ち続けると今度はリズムが···
─キリがない···
少し悲しい気分になりながら練習を繰り返した。
結局、贔屓目に見て7割程度しか納得のゆく球は打てなかった。
─フラットな人口芝のマットでこれじゃ···
コースの複雑なライを考えると暗澹たる気分だった。

意気消沈した帰り道···
─もっと練習しなきゃ。
 真面目にやれよ···
そんな反省を繰り返していた。
─右手が不安で仕事も休んだのに···
そんなボヤキが沸き起こった時だった。
─オレは何でこんなことしてるんだ?
 ラウンドの予定があるわけでもない。
 まして、右手がヤバいかも知れないのに···
 バカだなぁ···
そう思った時、心の奥底から笑いがこみ上げてきた。
自嘲のソレではない。
愉快な気分だった。
─アンタも好きねぇ···
古いギャグが浮かんだ。
─そうなんだ。
 オレはゴルフが好きなんだ。
 何故かと言えば、楽しいから···
いつの間にか忘れていたことを思い出せた気がした。
初めてラウンドをした時···
惨憺たる成績に、スポーツに関する自信は木っ端微塵に砕け散り、それがいかに確証のないことかを思い知らされた。
コレは上達するには時間がかかると思った。
だが、パーであがったホールもいくつかあり、そのことが無性に誇らしかった。
練習するたびに難しさを知り、それを乗り越えようと次第にのめり込んでいった。
─負けん気だけじゃなかった···
難しさを克服すること···
それまでとは矛盾する、『楽しい』という感情がそこにはあった。
─コレは一生足抜けできないなぁ···
そんなことまで思っていた。

─いつからだろう?
随分長い間忘れていたような気がする。
─よかった···
もう二度と忘れたりしない。