記事の更新に時間がかかる。
時々の気づきを記録するつもりが、周囲の状況変化に揺らぎ、なかなか考えがまとまらない。
我ながら「どうしたものか?」と嘆息しつつ迷走する日が続く。
特に3月というのは、自分が一つ歳を重ねる節目のせいか、『これまで』や『これから』に思いを巡らせていることが多いような気がする。
─『今』を疎かにして良いはずはない···
今頃になって反省している。

振り返ってみれば、虚ろに過ごしてしまった九年間だったかも知れない。

2011年3月11日···
母が旅立って一年半程の頃だった。
東北地方一帯に甚大な被害を及ぼした、東日本大震災···
特に、巨大な大津波に襲われ多数の犠牲者を記録した陸前高田は、亡母の縁の深い地である。
僕が最後にこの地を訪れてから三十年以上の月日が経っていたが、それでも、断片的に思い出される風景が、不気味な海水に侵食されてゆく映像には、嗚咽を抑えられないほどのショックを覚えた。
じわじわと立ち上がってくる絶望的な哀しみの中で、亡父母がこの映像を見ずに済んだことが唯一の救いだと、心の中で何度も自分に言い聞かせていた。
それ以来、僕は無意識のうちに、このことに関わる事柄を遠ざけていたかも知れない。
父母急逝の喪失感から鬱々とした日を送る中で、震災のショックが精神に与えるダメージに怯えていたような気がする。
「忘れてはならない」と思いながらも、被災地の遠隔に暮らすことを方便に、一定の距離を保ったまま復興の状況を時々確認するばかり···
「何クソ」と思う反面、「このまま終わってしまうのか? 」といったネガティブな思考に抗いきることができない。
そんな自己との格闘に明け暮れた九年間だった。

そんな閉塞的気分が解消される気配を感じていた時だった。

1月末、中国武漢でその存在が確認された『新型コロナウイルス』···
その猛威は凄まじく、3月の中旬にはWHOから『世界的大流行』を意味する『パンデミック』が発令された。
致死率こそ絶望的な数値ではないものの、その感染力はいまだに衰えを知らず、各地で『医療崩壊』を引き起こしている。
市民生活は無論のこと、経済活動にも徐々に制限が及びつつあり、世界中が戦時下に近い状態となってきた。

当初、比較的影響の少なかった国内も、2月末頃からは安穏としていられなくなった。
公立の小中高が矢継ぎ早に休校となり、スポーツやエンタメのイベントは延期・中止を余儀なくされている。
そして、ここ一週間前後の急激な感染者増にともない、8日、東京・千葉・埼玉・神奈川・大阪・兵庫・福岡の7都府県に異例の『緊急事態宣言』が発令された。
現在僕の居住する地区では、『昼夜の外出自粛』要請が出されただけだが、早くも感染防止に協力して休業する娯楽施設や大型店舗なども多く、通勤時に目にする街の様相は劇変するばかりだ。
普段嫌っている人ゴミだが、ここまで激減すると何やら終末観のようなものを覚える。

あらためてここに特記しておかなければならないのは、今日現在、このウイルスについて様々な情報が錯綜しているものの、いずれも科学的確証を得たものではないということだ。
従来のインフルエンザ同様、肺炎症状を引き起こし、症状が重篤化すれば『死』に至ると言う。
感染は人から人への唾等の飛沫や、手指に付着したウイルスを吸引することによって引き起こされる。
感染しても八割方は無症状らしい。
また、潜伏期間が二週間前後と長いため、発症前に他者に二次感染を引き起こし易いとのこと···e.t.c.
今回のウイルスに関するこれらの特性はかなり信憑性の高いものだが、それとて学術的根拠を持ったものではない。
今後これらの説を裏切る発見があったとしても、何ら不思議はないのだ。

簡易的な検査薬すら無い未知のウイルスへの対処方について云々するのは陳腐だが、政府を含む政治家達の対応の鈍さには不満ばかりが募る。
防疫を狙いとした水際対策は名ばかりだった。
中国の春節の時期に何故入国規制を徹底しなかったのか?
そのことでウイルスの上陸を阻止できたとは思わないが、どれくらいの危機意識のもとで判断したことなのか疑わざるを得ない。
観光等での経済的損失を嫌ったのは明らかだ。
あの時点で強い危機感を持って対応してくれていれば、今の状況は軽減されていたのではと思うのは僕だけだろうか?
感染の拡大が抑えられない東京都政にも首を傾げるばかりだ。
オリンピックの延期決定と同時に感染者数が急増したのは偶然だろうか?
更には、馴染みの薄い横文字を連発し、都民のみならず周辺市民へ多くの不安と混乱を招きながら平然としている。
その緊張感の無いメッセージは、流行語大賞でも狙ってるのかと訝るほどだ。
猶予ならぬ勢いで政府に重大発令を迫ったのは良いものの、ようやく政府が『緊急事態宣言』を発令したら、具体的緊急措置はこれからだと言う。
あまりの仕事の遅さに開いた口が塞がらなかった。
医療現場で直接『命』に向き合っている医療従事者は無論のこと、多くの市民がリスクを抱えながら働かなければならない今まさにこの時に、この政治家達の行状はあまりに異様で気味が悪い···
この国で特別な権限を持つ人種のことを思うたび、落胆する気持ちと苛立ちを抑えることができない。
─信用できない···
そう思った時、自分の中に渦巻く行き場のない苛立ちの正体に気がついた。
─期待を裏切られたからだ。
 信用できない奴に期待する自分が間違っている···
僕は『不敵』なのかも知れない。
─政治家など信用したことはない。
 選挙も義務的に行ってるだけだ···
だが、そればかりではないとも思った。
何かに頼ろうとする『甘え』なのかも知れない。
─自分の命や生活を守るのは自分自身しかいない。
 僕はもっと『無頼』であるべきなのだ···
そう思えた時、訳の分からなかった苛立ちとの距離感が掴めた気がした。

そんな思索を続ける中、あることに思い当たる。
─あの人達の中にも同じ思いを抱いた人がいたかも知れない···
九年前の災害で被災された人達のことが浮かんだ。
あの当時も政治家達の心無い行状が取り沙汰されていた。
家財はおろか愛する家族すら喪ったあの人達にとって、それはどれほど腹に据えかねる仕打ちだっただろう。
─結局、オレも分かってなかった···
痛みを少しは共有できているつもりだった。
だが、その感覚はかなり怪しい。
そのことと向き合うことなく逃げ回っていた自分に、実感をともなう感覚があるとは到底思えなかった。

今回のウイルス騒ぎは自分への試練なのだろう。
─あの人達はどうやって乗り越えて来たのだろう?
もちろん僕が知る由もない。
だが、特別な力が働いたとは思えない。
おそらく、他所に頼ることなく現実と向き合いながら、一日一日を大切に積み重ねてきたのではないだろうか?
だとすれば僕も、胸の中に渦巻く様々な感情を引っくるめて、この難局を乗り越えたい。
もう虚ろに時を過ごすのはやめよう。
『光』を探すんだ。
今までにもあった。
もがきながらも懸命な一日を重ねる中で、それは突然現れる···
そのことを今はっきりと思い出した。