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今年、還暦を迎えるにあたって様々なことを思い立つ。
長年、懸案としていたお墓の決着。
転居や転職といった、年金生活に向けての準備。
クラブの見直しやラウンドなど、実戦形式での修練···e.t.c
いずれも金や時間を要する事柄ばかり。
現在の経済力や行動力では、スムーズに進捗できるとは到底思えない。
優先順位をつけてできることからと思うものの、しばらくするとタイムリミットが気になってくる。
どうやら決断力も不足してるらしい···
自分の中に湧き起こる不安とジレンマを押しやりながらの、なんとも重苦しいスタートとなっている。

正月、妹と話した僕の末期についての会話を思い出す。

「カラダが動かなくなったら、ホームかなぁ? 」
「空きがあればね」
妹のつれない返事だった。
「··· だとすると、部屋に閉じこもったまま孤独死かねぇ··· 」
予期せず突きつけられた現実の影をかわそうと茶化してみると、妹が呟くように言った。
「一緒に暮せばいいのに···
Sもそう言ってたよ」
「··· 」
思ってもみないことだった。

Sとは、五月頃正式に入籍する予定の、妹にとって三番目の旦那となる男のことだ。
これまでも妹と会話をするたびに、介護候補者の存在に探りを入れてくるのを感じてはいたが、まさか新たな伴侶にまで相談しているとは···
妹にとって僕の末期は、今や、些細とは言えない懸念となっていることが明らかになった。
「先のことは分からない」と曖昧に返事を濁したが、思いもよらない嬉しい話だった。
─そうだ···
ホントに、どうなるかは分からないんだ
そう心の中で反芻してはみたものの、いつまでも現実感の伴わない甘えた自身の考えを浮き彫りにする一事だった。

そこまで思い起こした後、ようやく重い腰をあげる。
カセットやビデオテープの類、着なくなった衣類をゴミ袋に放り込む。
もはや視聴が難しくなったコンテンツも多数あるが、いちいち確認すると時間を取られるばかりなので、取捨選択無しに分別しながら次々と袋に詰めていく。
30リッターの袋で15ほど。
ゴミ集積場まで四往復して廃棄した。

数日を経た今も、未練は微塵もない。
今の住居に転居して九年超···
振り返ってみれば、視聴したのは指で数えられるほどしかない。
要は、初めからココに持ち込む必要のないモノだったのだ。
だが、これに類するモノはまだまだ沢山ありそうだ。
不要なモノをこれほど長期間抱え続けているというのは、性癖云々ではなくもはや『病』と言うしかない。
敷地内に大型のゴミ集積場がある今の住居は、不用品の処分にはうってつけの場所なのだと自分に言い聞かせた。

僕の末期がどうなるかは分からない。
不本意ながらも、妹夫婦に甘えることになるのかも知れない。
有り難いと思う反面、少し気が重いのも事実だ。
『天涯孤独』の気ままな人生を気取ってみても、現実はそうはいかない。
その時を迎えれば、連絡を取るつもりもない絶縁状態にある元妻子の手さへ、煩わせることになるかも知れないのだ。
いまさら益のあるモノを遺せるとは思っていない。
それよりも、どうやって負の遺産を残さずに済ませるか?
できるだけの努力はしてゆきたい。
少なくとも、なるべく健康でいられるようにすることや、処分することになる不要な遺品を極力少なくすることなどは容易に実行に移せる。
だがそれすら、僕の現在の行動力では、今から始めても間に合わないかも知れない。
そう考えれば、過去の思い出を切り捨てるような感傷に浸っている暇はどこにもないのだ。

ここからは断捨離を日課にしてゆこう。
幕引きには、身軽な自分でありたい。
彼岸への旅立ちには、大脳皮質に息づく命達と、見果てぬ夢一つあれば充分だ。