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2日の晩、下北沢にて妹と会食。
いろいろと事情があり、妹宅に泊まることもままならないので、お互いの中間点、下北沢ということになった。

三十年以上を経て訪れた街は、予想以上に大きく変貌していた。
駅の大幅な改装にともなう再開発途上の駅前はゴミゴミしており、金曜日の夜ということも手伝って、人の混雑振りがひどい。
立錐の余地もないほど飲食店が乱立する通りは、店探しに難儀するほどの人出だった。
やはりトシのせいだろうか?
客のまばらな居酒屋の席にようやく腰を落ち着けた時には、正直、安堵のため息が出たほどだった。
─もう、こうした街に繰り出そうなんて、ありえない···
生ビールで一息つきながら、つくづくそう思った。

本題である相談事はすぐにカタがついた。
九年前に亡くなった父母の墓のことだ。
父が亡くなった時、菩提寺は父の郷里にあったが、現在の居住地とあまりに離れているため埋葬を見送ることにした。
その後、オイオイと考える間もなく母も亡くなったため、経済的事由もあり宙ぶらりんになってしまっていた。
今は、近在のお寺に好意で遺骨を預かってもらっている。
だが、僕の転居も現実味を帯びてきた。
もう待ったなしで、墓のことも決着をつける気になったのだ。
妹の方の都合で年内は難しいので、年明け早々に具体的に動くことにした。
それにしても九年超···
自分の甲斐性の無さが情けない。

その後は、亡父母の思い出話や妹一家の近況で盛り上がった。
バツ2の妹が、ようやく交際中の男性と同居できること。
末っ子の長男の就職先が決まったこと。
二歳児を抱える三女が、離婚間近になってしまったこと···e.t.c
わずか半年くらいの間に悲喜こもごも。
家族全員が幸せにとは、なかなかいかないようだ。
また、各々の喜びの中にも不安が、悲しみの中にも希望がある。
まさに、家族とは人間社会の縮図だなと、思いを新たにする。
それにひき比べ、変化は少ないものの、予定調和的な一人暮らしの味気無さ···
だが、今の暮らしに慣れ切った自分が、家族のある生活に戻れるのだろうか?
ずいぶんと遠い場所に来てしまったような気がした。

時間はあっという間に過ぎた。
妹に促されてようやく気づいた頃には、すでに終電間際になっていた。
反対方向に帰る妹に、ホームで見送られながら電車に乗り込む。
座席に身を沈めると、一気に酔がまわってくるのを感じた。
そのまま僕は眠ったようだ···
突然吐き気に襲われ、後先もなく、電車が滑り込んだホームに駆け降りた。
ホーム上をふらつく間に吐き気はすぐにおさまったが、案の定、電車はもう無い。
駅名を確認すると『赤坂』だった。
自宅まで半分以上の距離を残している。
呆然としながら改札を後にし、長いエスカレーターを使って地上に出た。
駅前の路上には、切れ間なく、タクシーの車列が続いていた。
僕は途方に暮れたまま、近くにある大理石のベンチに腰掛けた。
冷たい夜風が気持ちよかった。
─十五年くらい前なら、こんなの当たり前だったなぁ···
 店でも探して、夜明かしなんてしょっちゅうだった。
ひどく遠い昔のことのように思えた。
僕は首を振って立ち上がると、タクシーの車列の方に近づいていった。
─今のオレが居たいのはココじゃない。
 仮りそめだろうが何だろうが、一番居心地のイイ場所はアソコだけだ。
自分のお気に入りに埋め尽くされた部屋に、無性に帰りたくなった。
─帰ったら寝ちまおう。
 そして···
 明日は一日楽しもう。
そんなことを考えながら、運転手に行先を告げた。