最近ネットで入れ墨やタトゥーを懸念される方から,「アメリカでもタトゥーはイメージ悪い」とか「アメリカはタトゥー=低所得者」などといったことが書かれているのを目にします。

 

この下の記事もその一つです。記事のタイトルは

意外にも海外でもタトゥーのイメージは悪い!?海外現地での反応

http://www.howtravel.com/news/tatoo/

 

書かれる方は米国に長年住まれているそうです。米国で育った私にとってこの記事は,「本当ですか?」という印象を受けました。

 

下記は記事からの抜粋です。

『はっきりと言ってしまえば、アメリカでは「タトゥー=低所得者」というレッテルが張られてしまうからだ。ホワイトカラーの一般企業でタトゥーをしている人はまずいない。少なくとも見える場所にタトゥーはない。私の勤めていた薬局もタトゥーは一切禁止だった。社会に出てから世間のタトゥーへの反応を知り、若気の至りでタトゥーを入れてしまったことを後悔しているという大人も少なくない。』

 

1. アメリカで雇用規定に入れ墨禁止は考えにくい。

記事では記者が薬局で勤務していたとき,入れ墨禁止だったことが理由としてあげられています。アメリカは差別的発言に特に敏感な国です。攻撃的なものや,顔などに入っていない限り刺青の有無で雇用は決定しません。たぶん,この記事を書かれた方は,「職務中は入れ墨を見せないように」,ということだったのではないかなと思います。

 

2. ダブルメッセージが入っている。

『ホワイトカラーの一般企業でタトゥーをしている人はまずいない。』と断言した後に,『少なくとも見える場所にタトゥーはない。』と言っています。分からないなら,自分の発言には影響力があることを自覚して,断言するのは記者としてご遠慮していただきたいです。

 

3. 『ホワイトカラーの一般企業でタトゥーをしている人はまずいない。』

いえ,私がそうでした。私は州の児童相談所に一時期勤務していましたが,私も入れ墨入ってましたし,私の部長にも,代表の方にも入ってましたよ。ただ,雇用規定に「勤務中入れ墨はカバーするように」というのはありました。大学の教授とかにも入れ墨している方はおられましたし,彼らは授業中も普通に見せてました。友達は保険会社で勤務していました。全部ホワイトカラーの職業です。

 

4. 『少なくない』『少なくとも』

この記事全体に言えることですが,『はっきり言えば』と断言しているのに『少なくない』と言ったり,『少なくとも』などと言ったりしています。『少なくない』というフレーズを使えば沢山の可能性を上げられ,かつ,あたかも主張していることが大多数の意見であるような印象を与えることができます。例えば,「今の不景気で投資を先延ばしにするケースも少なくない」,「女性だからと言って断られるケースも少なくない」など,無限にあげられます。でもどうですか?あたかもみんな不景気で投資していない印象を受けませんか?

 

5. 『社会に出てから世間のタトゥーへの反応を知り、若気の至りでタトゥーを入れてしまったことを後悔しているという大人も少なくない。』

あたかも若者が社会人になって差別を受け後悔しているような書き方をしている印象を私は受けました。この記事を書かれた方のこの視点には疑問を持ちます。アメリカに住んでいる日本人の中には,アメリカでも日本人に囲まれて過ごしている方々がいます。10年間住んでいて英語が未だ話せない方もおられます。そのためか,その方々の価値観は日本で教えられたまま変化していません。若気の至りでタトゥーいれたアメリカ人が後悔するのは社会に出てからの世間の反応じゃないと思います。デザインとかで後悔する方はおられますが,顔などに入れていない限り何ら影響はありません。

 

『一度入れたらもう元には戻せないタトゥー。アメリカでも日本でも社会の目は冷たいようだ。』

違います,そんなことはないです。

でも,私にいくら理由をあげられてもしっくりこないかもしれないので,現地のアメリカ人の方が書かれている下記の記事の抜粋を読んでください。中流階級以上が在学し,マリブに設立するペパーダイン大学の新聞からです。著作権のため,英文の本文が読みたい方はリンクからお願いします。

LIFE & ARTS / AUGUST 26, 2016
Attitudes towards tattoos transform
BY OLIVIA LOSOYA

http://pepperdine-graphic.com/attitudes-towards-tattoos-transform/

 

”ママはいつも絶対に入れ墨はしちゃダメって言ってたわ。入れ墨があると人から尊敬されるような仕事に着けないわよって。”ペパーダイン大学卒業のガリアナ・カーソンはこう言った。2016年5月,カーソンはビジネスB.A.を獲って卒業した。

この夏彼女は,NYにあるハフィントン・ポスト(かなり高いホワイトカラー)でインターンシップを終え,21歳の誕生日に彼女は母と一緒に同じ入れ墨を入れた。

 

世代を渡り,入れ墨とピアスは犯罪とバイク暴走族というステレオタイプとリンクしていた。しかし,近年の入れ墨は”ミレニアム世代のマーク”として知られている(*Millennialとは1982から2004年の間に生まれた人のこと)。Fox News(アメリカのかなりメジャーなテレビ,NHKみたいな感じ)が2014年に行った調査によると,45歳以下の大人は45歳以上の大人の2倍の確率で入れ墨を入れる。より詳しく述べると,全てのミレニアム世代の36%が1つ以上の入れ墨をしている。

 

入れ墨が社会から受け入れられるにしたがって,時間と共に彫師もそのクライエントが変化していることを体験している。

”僕は2年間見習いを経験した後,本格的に彫師をしてから2年になるよ”,Nathan’s Tattoos and Piercingsで働いているショーン・ギャラファーは言った。”いろんな理由で入れ墨を入れに来るよ。僕と年の近い子供にしたこともあるし,誰かの母や父にしたこともあるよ。”

 

ギャラファーはこのクライエントの変化を社会の中での,入れ墨に対するトレンドと態度が変わったためと考えています。しかし,入れ墨を入れることで適切な仕事に就けなくなるという恐怖は新しい世代にまだあるのでしょうか?Pew Research Centerの調査によると,ベイビーブームの世代の三分の一しか現在職場にいません。そして10年後には200,000人のベイビーブームの人達が定年を迎えます。そう,もう公式なのです。ルールを作った世代が今,定年を迎え,ルールを変化させてきた世代が彼らの仕事に就いているのです。

 

この事実を迎え会社側も入れ墨に対するポリシーを調整しています。コストコもスターバックスも過去2年間にドレスコードを変え,職務中にはタトゥーをカバーすればよいとしています。

 

”私には入れ墨のポリシーなんてないよ。その入れ墨が攻撃的でなければ,どうでもいいよ。”(30年間続いている家具屋のオーナー)

 

アメリカの軍隊では過去に規定がありました。しかし新しく試行された,670-Section 3-3,によると,入れ墨のサイズや量に限度はありません。

 

偏見や差別の問題を解決するため,Olive Garden, Bank of America ,Wyndham Resortsなどを含む大手企業28社が労働者に勤務中に入れ墨が見えてもよいというポリシーの調整をした後,多くの中小企業でも同様の調整が行われました。

 

以上が”Attitudes towards tattoos transform”からの抜粋です。

 

日本が入れ墨を懸念してしているのは別にいいです。しかし,誤ったアメリカの情報を流すのは止めてください。人種が入り混じる中で,子供がまず受ける教育は他者の価値観への敬意です。”agree to disagree”違うことに同意するということです。アメリカは入れ墨で就職の差別をしません。価値観の尊重だけでなく,アメリカは年功序列よりも実力社会です。入れ墨の有無で就職は決まりません。

『一度入れたらもう元には戻せないタトゥー。アメリカでも日本でも社会の目は冷たいようだ。』

アメリカは違います。「日本の社会はタトゥーに冷たいようだ」で終わってください。