「引き出しの働きかけ」で、愉しみづくりを支援する(澤田良雄氏) | 清話会

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鬚講師の研修日誌(29)
「引き出しの働きかけ」で、愉しみづくりを支援する

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)


◆引き出しの施しで空気を創る

実力型社員ランクアップ研修を実施した。地元企業の入社3~5年社員で選ばれての受講者である、業種様々であり、企業間のなんらかの協力関係があるものの、本人同士は初顔合わせである。

開始前の空気は静か、姿勢を正して始まりを待つ。空気が涼しい。小生が声を掛ける。
「O社長と昨日会いましたよ。Hさん(受講者)を宜しくといわれています」。

Hさんの表情にほっとした安らぎが浮かぶ。「T社長は元気ですか。禁煙運動は継続していますか」と別の受講者に声かける。「はい、ほとんどの社員が吸わなくなりました」場の空気が少しずつ和らぐ。研修がスタート。

受講者に問いかけながら説くべく事項との結び付けを掴む。あらかじめ得ている各社の情報を話題に、各自の現実と向かい合わせていく。
「わかっている、できる、じゃ最高実践していますか。第一線社員は実際に製品を作りこむ人。その実践力が製品の善し悪しを決める」
「第一線社員はお客様と直にやり取りする。だからその活躍ぶりは会社の評判を決定させる」
「ましてや、新人としての活躍で信用を得て、一人前の太鼓判での信頼を得、担当者として任され、責任を持っての仕事の遂行者です。他社例を紹介しましょう」

●運送会社N社では運転手の挨拶と笑顔で評判を高め今や地域1の運送企業に
●土木関係E社では礼儀正しさときちんとした服装の徹底で信用を得て見事に繁栄
●黒酢メーカーU社では納品書に手書きの挨拶文を書き込む
●建設機材メーカーS社では、ラインでの5S改善活動を小集団活動で問題解決見事な報告発表・ネームプレート関連B社では営業社員が求人広告を見て、「忙がしい会社だから求人、ならばお役に立てることがあろう」との判断で接触、案件を創り出す
●味噌製造Y社では味噌ソムリエの資格を取っての活躍

などがある。
いずれにしても、第一線社員の貢献力です」と小生の指導企業の活躍事例を紹介する。

更に「自社での立場ではこんな、持ち味を生かしたさすがの活躍を魅せられますね」と受講者に落とし込んでいく。徐々に自身のこととして学び取る空気が漂い、受講態度も自然体となって来た。小生からの問いかけにも自身の意見を率直に述べてくるし、講義への反応も明確に示す。内側にある自身の魅力財(能力、思考、想像力、人格、行動力、伝達力、意識…)が顕在化される。そこには逞しささえ見える。

後半のワークショップでは、自ら名前・企業説明を力強く施す受講者。当初は無表情だったHさんの笑顔が実に良い。すかさず、「Hさんその笑顔がいいね、普段もそれを惜しまず魅せていくと良いね」と褒め言葉をプレゼントする。笑顔でうなずく。開始前の妙なる空気が、学びのうずきが高揚し楽しさと熱が漂う空気に変わる。終了時には互いに握手を交わす。親和感と充実感を醸す空気だ。

研修翌日、参加企業のトップ、上長に各自の顕在化された魅力を報告する。「そうでしたか、今後その良さを生かして参ります」と感謝と今後の繋げを約す。「受講者から報告受けました。良き学びとなりましたと……」との御礼の電話をセミナー統括者事務局長にいただく。

受講者の内在する魅力を引き出すことへのお役に立てた実感を得る小生の「気づき研修」の楽しさがそこにある。

◆自ら引き出す「気づき研修」

手元に出講先部品メーカーS社のH社長から礼状が届いた。
「先般の管理職研修ありがとうございました。澤田講師の門下生が50人になりました。それぞれ、うずき→気づき→加工→実践、の変化を経て『明るく元気で楽しいS社』の実現の牽引力になってくれることを確信いたします(原文抜粋)」
との文面である。5年続く出講だ。

この研修は、2日間トップ講話をもとに、良きパートナーシップを生かした研修であり、企業ビジョンの実現に寄与する研修である。礼状に記されたうずき→気づき→加工→実践とは小生が取り組む研修プロセスである。名付けて「気づき研修」としている。

察しの通り、単なるあるべき論や、「ああしろ、こうしろ」の押しつけ型の指導法ではなく、受講者が主体的に、「なぜ」「あ、そうか」「じゃ、こうしよう」と自らランクアップしていく知恵と、内発的実践意欲を助長・支援することだ。そこには既に持ちうる潜在能力を「自ら引きだす機会」がある。

まず、「うずき」とは本人の受講マインド。それは、現状の活躍に、自信と誇りを持った本人が、更なるランクアップした活躍を目指す意欲の度合いがそこにある。この心意気を「うずき」と表現し、「何のために・何を掴むかの受講パワー」を創る。

とかく、無理することは無いとの現状維持型や、あるいは自信タイプの自意識過剰、うぬぼれ感情は「今さら何で」の批判的態度が先行する。これでは学ぶことによる実効は得られない。「従来の実績の評価と、今後の期待見込みがある人のみ、つかんだ研修の権利なり」と説く。

「何のための受講」? そこには自ら掲げた業務目標があるからだ。「目標とはできてないこと」「目標達成とは新たな学びによる新たな改善を施すことによって成したこと」との考えだ。研修での気づきは、2つ有る。

●一つは、自己の良さの確認。つまり、自分なりに自信・誇りとしている思考、言動、実績など客観的物差しで「強み」として確認することであり、
●2つ目は、わかっている、できる、やっていることが、本物か、最高か、周囲の期待との合致など、自己本位でなく他の物差しで診たとき、不足、未熟点等の「弱み」を発見することである。それは研修の場だから得られる「異との出会い」を鏡として自己を写すことにある。

異とは日常とは異なった場所での人の交流、体験を通じて、従来の自己見識や経験則と異なった受講者仲間の「珍・初・新・独(各自の独自性)」の考え方、実践例、そして人の味と遭遇する事だ。自分はどうかと自問自答できる機会そのものだ。

勿論、小生の施しによる講義、体験機会、個別の言動から診る日常の活躍傾向の推察、それがもたらす本人への是々非々、だから改善の示唆などを施す。これらの融合により真なる強み・弱みの気づきをもたらすのである。この気づき「何のために何をどうする」のランクアップへの取り組み策を見出しに生きる。
                 
特に気づきの機会は、難しい、厳しい、不安なりの状況だからこそ効力が増す。この機会を逃避的言い訳を超えて「やってみようかな」と新たな体験への挑みが肝心。そこでは然るべき立場の人の示範力による誘発させる空気を創ることである。

◆気づきは加工による実践力により生きる

強み、弱みの気づきの価値は、「何をどうする」と従来の言動を変えることである。その第一歩は、どう実践するかの知恵を産み出す力。例え真似であっても、他の人ができるから即自分ができるとは限らない。

強みは自信持って活用し、弱みはどう改善するかである。そして、即行する実践力。「ああしてこうして計画満点、実行せぬが玉のキズ」では困る。「周囲を変えたきゃ、自ら変われ」それは新たな成長へ向けた楽しみづくりでもある。

つまり、心が変われば行動が変わる(自己革新)→行動が変われば習慣が変わる(本物)→習慣が変われば人格が変わる(人間的影響力)→人格が変われば人生が変わる(協力温度の高まり、成功、立場のランクアップ)いう道筋がここに成り立つ。このランクアップした実践が企業への更なる強みづくりへの貢献力を高め、自身の「できた・認められた」の喜びの創造である。周囲を変えたきゃ自ら変われ、小生の実践を紹介しよう。

◆内観での導きに「引き出す」支援の重要さを掴む

「気づき型研修」の導きは「内観」の体験。内観とは、自分の心を観ること。

修行は寺で一週間。ポイントは小学校1~3年、以後3年ごとに、
1.母にしていただいたこと、
2.母にして返したこと、
3.母に迷惑をかけたこと、
この3点を部屋の片隅に屏風を立て座布団に座り2時間内観。2時間経つと導師が聴きに来るので必死に思い出す。

導師の1.からの問いかけに答える。この繰り返しが早朝から21時まで続く。進んでくるに従って気づいた。してもらったこと、迷惑かけたことはあれもこれもある。だが、して返したことはどうか、それは本物か、素直な心で自分を内観していく内に、いかに自分が、独りよがりで、見せかけ、自省も薄く、感謝の念も浅い、薄っぺらな人間であるかに気づく。

さらに、父、妻のことも1.2.3.と観ていくと、自分は一人で生きてきたのではない。父の母の妻のおかげで今の自分があることに気づいた。そう思ったとたん涙がとめどなく頬を伝わった。涙を流した後、心が澄んだ。さわやかになった。そして自分が見えてきた。関わってきた多くの人への感謝の念も。まさに自ら、自己洞察し、反省と謝念のわく、ひと回り大きな器の人間に脱皮していく導きであった。

同時に指導法の転換への示唆である。
「ダメ、だからこうしろ、もっとこうしろ」式の自分枠に填めることを多用して「良」としていたかつての指導法から、北風と太陽の話のごとく自ら心を開かせる働きかけ、あるいは馬に池の飲水を無理強いすることより、飲みたい欲求状況を創ること。だからこそ、その「自ら引き出す」環境を整え、素直に自らを診て、素直な気づきで自発的に自己改善していく楽しみを創造する。

「研修の真髄はここにあり」と自省と新たな指導への躍動を促がされた時であった。

以後、受講者の主体的に進化したい欲求を喚起し、現状の強みをより磨き、弱みを改善する楽しみを導けるサポーター(支援者)としての活躍である。

「引き出し、生かす支援」は小生に限るまい。上に立つ人の人を生かす共通事項だ。

◆引き出す施しは今だからこそ実践

社員・部下を生かす・意欲喚起、モチベーション・若年層は……の文言が飛び交う現実であることは確か。この対応のキーワードは「引き出す」「気づく」ことへの働きかけを施すことである。それはいかに自由に内なる魅せる財産を発揮する道筋を創っていくかに他ならない。

現実には個性を生かせといいながらもあれこれの制約が多い。目標の掲げも、その前提は上からの分化範囲であり、本心から発信する想いと異なることもある。そこに、意欲を喚起せよモチベーションを高めよと檄を飛ばしてどれほど功を生むのだろうか。

ならば、企業人(理念、方針、文化、歴史を共有化し)とし、組織メンバー(職掌・部門方針・目標を軸)として自立し、当事者意識で使命感もって責任を果たす活躍を楽しませるか、そのためのどれだけ自由裁量を提供できるかである。引き出し、気づき、自らの持ち味を生かした活躍の楽しみづくりの働きかけがそこにある。

その実践策に着目してみよう。

① 冗談を言える空気を創る。
「職場は楽しいですか?」と問うと「はい」「いいえ」との回答。同じ会社なのになぜか。それは職場の雰囲気の違い。上に立つ人の陰湿なる言動、枠に填めたがる余裕のなさ、真面目すぎる維持することの励行による固さなどが目立てば「いいえ」であろう。楽しませる遊び心での仕掛け、褒め、励まし、感謝の一言のプレゼントが温もりの空気を創る。

② 個々の持ち味を生かす
工具トップメーカN社の幹部T氏からの提言が届いた。配属新人を今年は野球チームになぞらえて育んでいくとのこと。体育会系のS君は一番バッターで雰囲気を創る、着実にことを成すO君は二番バッター、全体を見、戦略を練るコーチはOさん、いざとなったとき意外性がありそうなK君は代打。データを取り上を補佐するスコアラーはIさんとのこと。小生が入社時研修で各自を見ているので納得だ。

「引き出す」きっかけは各自の潜在する良さを知りうるからこそタイミング良い実践ができる。各自はその持ち味を個性と意味づけ、だからこそ「解ってくれている人」との信頼が寄せられる。

③ 見守る勇気で成功を産み出す

14才藤井棋士28連勝、凄い。関する話題は満載だが、生まれ持った素質に加え、それを伸び伸びと生かした周囲があったからこそ、十分に開花したとも見えるとの記事が目についた。

卓球でも10代半ばの選手が大活躍、ゴルフでも、フイギヤーでもその傾向が目立つ。本人の勝ちたい、優勝したい、この強い負けず嫌いのうずきに、周囲の献身的支援と、信じて見守る自制力の実りでもある。
任せると言いつつ、余計な指図は、苦あれば楽ありの楽しみの邪魔をする。

④ 学べる機会を提供する

本人の目指す達成に向けて学習機会をつくり生かさせる支援である。OJT・社内外セミナー、本人申し出の学習機会を可能な範囲で活用する配慮である。

⑤ コーチング的コミュニケーションの実践
「君はどう考える?」と訊ねることは本人の意図を浮き彫りにする。良しとの判断できる考えは実施に向けて背中を押す。聴く耳を持つ、訊く謙虚さは上に立つ人の包容力だ。

⑥ 特技を生かす演出
学友のT氏は社会活動団体4,000人の頂点に立つ人。カラオケはプロ級、ゴルフはシングル級で、衣装を整えての演技は役者並。ボランティアの慰問先では演じる台詞に思わず観衆が涙する。

凄いのはスターを生み出す働きかけ。仲間の民謡を聴く、三味線の引き技を目に止め、慰問団員として活躍の場を演出する。「次はいつ出番があるの?」この新たな楽しみでの幸福感を演出できる人徳は見事である。

職場も同様。特技を生かしてスター的存在を演出することは皆の楽しみをつくり出し、同時に本人は存在感を楽しめる。その注目は業務の思い入れを高めることになる。

⑦ 組織目標に準じた目標以外に、一項目成したい想いを認めよう
方針管理的目標管理は組織目標の分化された目標となる。
「サッカー部をつくる」「部広報誌を発行する」「○○の改善をする」「短歌愛好会を創設する」「課内親睦釣り船を出す」「自働機械の学習会を開催する」「作業を動画に撮り教材とする」「月1回機械掃除を徹底的にする」「新製品のアイデアを提案する」

……社内や部署内、個人での新たな活動による楽しみを個人グループ・単位で展開することを認め支援する。働き方が問われるとき、会社、職場内での第2の名刺で活躍する楽しみづくりの一助である。

如何であろうか。誰でも潜在する魅力の財産を生かし、役割を果たしたい、認められたいとの秘めたる欲求は持ち合わせているもの。しかし、活かす機会が無い。上からの指示通りなすことだけが求められ、新たな発想は拒まれる。

ならば、いわれた通り従えば良い、慣れたことを慣れた通りすることだ。こんな本望に背いた活躍は入社時の初心(本来のうずき)ではない。しかし企業は選べても、職場・上司は選べない。

上に立つ人の「引き出す」「気づく」の働きかけに、持ちうる能力を存分に生かし、「やった」「できた」。
藤井4段の言葉にあやかる{望外}{僥倖}の活躍の愉しみ作りを是非支援して頂きたい。

「部下は上役の器以上に育たない」「部下を変えたいなら、上役自ら変わる」

今日も、各自の変える力にエールを送り、支援指導に尽力している小生である。


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◇澤田良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
  http://www.hope-s.com/
 


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