「志の実現は人の喜びを創る」(澤田良雄氏) | 清話会

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髭講師の研修日誌(17)
「志の実現は人の喜びを創る」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆君原さん完走に歓喜

「75才君原さん完走」の新聞記事に心躍らせた。早速現地で応援する学友に「おめでとう」と電話を入れた。

「もうみんな歓喜でお祭りですよ」と弾んだ声だ。現地応援ツアー皆さんでの完走を祝う会は異常に高まり、喜びの言葉と拍手と涙の渦巻きだったと進行役を務めたT氏からの報告も聞いた。勿論、君原ご夫妻、ご子息を囲んでの祝賀の宴だ。

ご存じの120回ボストンマラソンだ。当大会は50年前の優勝者を招く事が恒例で、1966年の覇者君原さんが招待されてのことだ。50年前の25才で走った優勝記録は2時間17分11秒、今回の完走記録は、4時間53分14秒。

半世紀ぶりにボストンのまちを駆け抜けた君原さんは「完走が最大の目標だった。50年前の喜びと変わらないくらい満足」とインタビューに答えている。ちなみに50年前の心意気は、現役時代のユニホームから外した日の丸を縫い付けてくれた奥様との結婚直後で、「結婚しては走らなければ笑われる」と奮起したと述べている。

2年後のメキシコオリンピックで銀メダルに輝き、以後、ミュンヘンオリンピック5位、ほか国内外での優勝も多い。現役引退後も走り続けて通算73回のマラソンで完走を果たしている。その内に秘めたる志は、「ボストンという目標があったから今まで練習してきた。記念すべき大会だから歩いてでもゴールしたい」と大会前の取材に意気込みを語っている。

思い起こせば 昨年秋の福島県須賀川市の円谷幸吉メモリアルマラソンでは、ハーフマラソンに出場し完走。前日には円谷さんを墓参、恒例の缶ビールを半分飲み、墓石に半分捧げる事は周知の話。既に33回欠かさずの参加で、10キロ市民と共に走ってきた。だが昨年はハーフマラソン。今回のボストンマラソンに向けての練習である。

「円谷さんにハーフマラソンを完走できました。ボストンマラソン頑張ってきます」と伝えたと自身のコラムに記している。故円谷幸吉氏学友と君原氏との交流は、このメモリアルマラソンが縁である。小生もその一人である。

◆努力にゴールなし

ふと蘇った。それは「ゴールは無限なり。常に新たな目標があるからである」と君原氏が学友に送った色紙である。東日本大震災の被災地相馬市に住む学友が現地の皆さんを激励したいからと依頼(5年前)し、須賀川市の宿泊ホテルでお書きいただ頂いた言葉である。

学友が地元に帰り、多くの人に色紙を紹介し復旧の志に影響を与えた事の喜びを後日聞かされた。地震、まさかの熊本地震に驚きと、被災地の方々への心を寄せる日々が続く今日である。北九州市出身の君原氏は、熊本地震の被災地に思いを寄せ「今回の完走が、良いニュースになると良いですね」と語った。きっとこの想いは被災者に届いていると信じる。
 
50年前のボストンマラソン、今回のボストンマラソン、挑む事は変わらずとも、目指す志(目標)は違う。だからその練習(努力)方法は違う。しかも、高く、高くと目指す事でなく、今、持ちうる条件を最高に生かしす志を決断し、必達する努力の執念である。

「無駄に終わる努力などあり得ない」「人間に与えられた、最大の力は努力です」「努力の成果なんて目に見えない。しかし、紙一重の薄さも重なれば本の厚さになる」……君原氏の言葉そのものである。

◆新管理職の心新たな志と努力
 
志に注目してみればこの時期、人事発令に伴う新任・新天地での新たな活躍に志を秘めた人も多い。F県で新任管理職研修を担当した。4月各社の発令に基づく受講者はメーカー、物流、放送、工事、建設、資材など業種様々、職種も販売・研究、企画、設計、業務、工場長など多種である。技術士、博士号を持った人もおり大変面白い学び合いであった。
 
研修の軸は「管理職になっての志は何か」とした。当然あるから選考過程で発信し、従来まで積み上げてきた実力の裏付けで可能性を信じ、期待されたことに異論はない。「ならばどう実現する」、解らないなどとは論外。実現していく術も自身の経験則で固めている。

この場合の経験則とは、それまでの上長から得た学びである。それは、良しとの実感法はいかす事、逆に反感を抱いたことは反面教師として変えていく事としているはずだ。勿論、自分が描く憧れの管理職スタイルもあろう。いずれにしても志をどう実現していく新たな努力法を見つけ出していることは事実。
 
だからこそ、その持論が果たして如何かを確認する機会が研修だ。それは異見を鏡にすることだ。異の条件は記した如く、異業種の受講仲間は顧客視点であり、管理職での経営感覚が学べる。異職種の人からは横断的組織力と社外専門家の人脈を生かす活躍のヒントを掴める。

管理職には蛸壺思考は許されない。よく言う鳥の目(広角度視点)魚の目(流れを読む)虫の目(足下の観察)にプラスして、コウモリの目(逆さ、相手のからの目)も肝心である。その目は顧客、相手先部門、部下の立場に考えてみることである。

知将石田三成が秀吉に見いだされるきっかけとなった三献の茶のエピソード(大きな椀でぬるめ⇒多少椀を小さく、温度上げ⇒小さな椀で茶の味を味わえる熱め)のとおり、相手の状態条件を見据えた施しはチャンスを生かせる次なる力となる。それは、支援力となるからだ。
 
ふと、入社時の志は、と察してみた。「早く一人前になる、プロになる、偉くなって思いっきり大きな仕事をしたい、やがては社長……」であろうか。それとも「大過なく……」か。以後今日まで、多分に上昇気流に乗ることを目指し、段階毎に期待に応えたさすがの実績の軌跡を描いてきた。

だからこそ、今、管理職として通過点に立ち、「今まではこうだった」から「これからはこうしよう」の新たな努力を楽しむ事だ。それは、自身を変えることであり、統轄部署を変えていくことである。そうでなければ「○○さんが管理職になったからこそ……」の期待に応えた昇任の意義はない。

確認してみよう。知将石田三成か、熊本の礎を築いた猛将加藤清正か、トップ陣を支える管理職には様々なタイプがあるが、組織は人と人の成合いである。

◆組織力を生かした7つの心得

 
組織力を生かす活躍の有り様をここで末広がりを念じ8項に絞り提案してみよう。それは、

①部下力の最大活用⇒=1人動くよりも組織全体を最適に生かす
プレイヤーの活躍も必要ではあるが、第一義に持つ事は組織の全体視点から観て自部署のあり方を考えての活躍を構築すること。そこには トップ幹部の方向性を自分事として理解し、理念を共有して、部下を最大に生かす管理を施す。「部下を生かすためには自分に何が出来るか」常に心する。

②強い仕事集団形成⇒目標の旗を掲げ先導する
組織の総合力を結集していくための目標を掲げる。部下に伝える事を通じて「やろうという」強い意気を高揚する。 そこには、必達を覚悟した数値宣言もある。

③目標必達⇒部下力を高める指導の実践
掲げた旗に到達するには、部下の現存能力では不足。知識、技術を広く、深く、新たに付加すること。目標未達は、部下育成如何である。

④新発想による壁の打破⇒新たな施しは、好奇心に基づく感じる発見
「出来ません」咄嗟に起こる心境。その前提は経験則での先読み。経験則が自らの壁を創っている。出来る策は、「おやつ」「何故」「どうして」「こんな事って」などと、興味を持って観て見ると「なるほど」「そうだったのか」と正しく理解することや新たな発見がある。「ならばこうしよう」と新たな策を創造できる。好奇心を持つことが、洞察力を促す。切り口を変える、視点を変える、発想の転換よく使う言葉である。

⑤部下の喜働力の喚起⇒ 自発式での活躍ぶりを助長する伝える実践
喜働とは喜んで働く事。それは「何のために」と役割の意義を知り、達成の喜びを思い描いて実践すること。周知の自己実現欲求を享受させる働きかけである。部下に任せ、責任を持った活躍ぶりの実現は、部下を信用し、仕事の意義を納得、共感をえて自発的意思を湧かせることだ。その過程での報連相を生かし、状況把握に基づく褒め、アドバイスが更なる自発力を高める。

⑥示範力による信頼性の高め⇒即断、即決、即行のスピード力の発揮
組織活動は順調な時ばかりでない。まさかの事態は自身の立場にも起こるし、部下の活躍現場でも起こる。そのときの対応力が問われる。自身の身の丈を素直に認め、自署で出来る事、上司を巻き込むこと、部下に託すことの判断が大切。そして、解決に率先して取り組む。時に見せる背中の力量は自身の信頼性をより高める。

⑦異質が織りなす総合力の強さ⇒人を繋ぐ親和のベルトがけ
異なる特性、異見を持ち合った人の関わりが組織活動。そこには他部署、他社、他国と、異なりが現実。ならば、異なる事への、親しみを持って引き合う関係づくりが大切。自ら声を掛け、話す、そして訊く、聴く、のコミュニケーションを実践。勿論、人だけでなく習慣、文化に触れていくこともある。

⑧人を動かすプレゼンター⇒伝わる話力の向上
「あうんの呼吸」も時には良いが、異の条件でのやりとりでは通用しない。きちんとした論理思考に基づく提案力・折衝力は不可欠。伝えるのでなく伝わる話力はどうしても磨かざる得まい。その人の話の味が生きたオーラは、態度変容を促す影響力となる。ましてや部署での朝礼や催し時のスピーチ、さらには社外での場対応では自社評価も左右する。

◆人間力は如何かが問われる
 
ならば「俺が俺がの「が」(我)を捨てて、お陰お陰の「げ」で生きよ」、その人間力が決め手。推薦された、選ばれたその力は、部下始め、関わる人の家族や多くの人々の献身的支えのおかげである。
 
君原さんは「先頭争いをしているような熱のこもった声援を頂いた」と沿道の声に感謝したと述べている。沿道には、地元北九州市の人、故円谷幸吉氏学友ほか、君原さんの人徳に惚れ込み、是が非でも現地で応援したいとの仲間もいた。多分に一心同体であった事は察しがつく。

管理職としての活躍は、どれだけ献身的支援を頂けるかが肝心。謙虚、感謝で応えた活躍で「おかげさまで」と関わる人から新たな喜びを報告いただく事を楽しむ事だ。喜びの共受、共有、共感がより、絆を強くする。
 
研修終了時の声がけが嬉しい。「自分の器の小ささを思い知りました」「他社の強さを学びました」「独りよがりの自信過剰は禁物ですね」「自分の決め手をどう生かすかそのヒントを掴みました」「部下から学ぶゆとりが課題ですね」「必ず名を残す(設計・研究)事をいたします」「生涯現役で活躍できる存在感を高めます」と名刺交換をしながらのやりとりは、小生の想いが実を結ぶ喜びの共受の時である。異の条件の鏡が生きた研修で会った。

◆部下を生かし、引き立てる 

でも今年は寂しさもあった。それは女性管理職がいなかったこと。「女性管理者○割をめざす」「女性力を生かす」特例の紹介記事や言葉が目の前に飛び交っていることは事実だが、その実態は如何なものか。

先日のN社の新人研修で、会社紹介を作成するグループ課題の発表があった。研修期間中の隙間時間を活用しての取り組みだが、その一つに「当社は女性が活躍できる会社です」との発表があった。女性管理職への直接インタビューなど組み入れ、その良さをアピールする内容で興味を引いた。それだけ、彼らが就活で捉えた女性管理者の活躍の少なさに危惧を持った証の一例であろう。

4月に施行された「女性活躍推進法」により、女性管理者の育成と活躍の幅の広がりに関心が寄せられている 異の条件に異性も是非加えたいものである。そのためにも部下力を最大に生かし引き立て欲しいと願う。勿論性差を超えてである。

その努力条件をここで確認した。それは生誕300周年記念若冲展の鑑賞だ。混雑の会場だが作品を追いながら、細密画と称される凄さ。見たままリアルに描かれている動物も植物も虫も、生き生きと喜んでいる感じが伝わって来る。

さらに、目を引いたのが南天雄鶏図。まさに見せる事にも執着した凄さは、描かれている沢山の南天の実一つ一つが存在を示している事だ。目を移動させれば絵の中心にある雄鶏なども、周りの脇役たちも全部前面に出ている。脇役だからと手を抜いたり、奥に引っ込めたりはしてはいない。皆を際だてている。色のこだわりも凄い、人間の目で認識できない微細なところまで描いて、下書きも輪郭線もなしに正確に細密に線を描き込んでいる。解説によると当時日本になかった絵の具を使用、水墨画は中国、朝鮮の絵を参考にしたと記されている。

部下一人一人はなくてならない存在。しかも、十人十色、かける目はフイルターを掛けずありのままを捉える。その源をどう生かし、育て、際だたせるか。その仕込みにグローバル思考での材料(体験、技術、情報等伝わる表現等々)をも駆使する。

若冲の志を垣間見た程度だが部下を生かす努力の有り様を確認できた事も含め、鑑賞の喜びであった。
新任管理職へ、新たな志を実現し、喜びを共受する楽しみ方の一端を記し、エールとする。



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◇澤田良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
  http://www.hope-s.com/
 


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