【特別リポート】「『旧車天国』に行ってきました。」(日比恆明氏) | 清話会

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【特別リポート】
「『旧車天国』に行ってきました。」

日比恆明氏(弁理士)
     
11月23日に、東京・お台場で開催された「旧車天国」に行ってきました。この日のお台場は雲一つ無い真っ青な空で、ポカポカと温かくて気持ちの良い日でした。

このイベントは或る自動車雑誌出版社により主催されたもので、今年で2回目とのこと。
お台場にある駐車場が会場で、ここに古い車を展示して楽しもうという企画です。似たようなイベントは全国各地で開催されているようですがいずれも小規模です。この日のイベントには全国各地からマニアが参加し、700台以上の旧車が展示されてました。 

なお、このイベントは出品者も入場者もタダではありません。愛車を出品するには数千円が、入場するには1,200円がかかります。見せる方も見る方もどちらも有料なのです。

このイベントに出品できる車は次のような条件が必要となります。
  
① 1985年(昭和60年)よりも前に製造されていること。
② 自力走行が可能であること。要するにナンバーを取得していることです。 
③ 暴走族風の改造車ではないこと。
 
要するに、30年以上にはどこでも見かけることのできた平凡な車を、現在でも走行可能にレストアして出品し、それを面白がって見物する人達を集めてみよう、というのが基本精神のようです。「旧車」と言えば聞こえが良いのですが、世間では「ポンコツ」とか「太古車」とも呼ばれることもあります。似たような名称に「クラッシックカー」というのがありますが、こちらは「ビンテージカー」とも呼ばれ、戦前に製造された名車や高級車のことを指します。クラッシックカーを維持するには相当な軍資金がかかるようで、こちらの趣味はそれ相応の金持ちが多いようです。
 
この「旧車天国」は古い自動車を愛好する「マニア」が集まるのですが、「マニア」と似たような人種に「オタク」がいます。両者には大きな違いがあり、いわゆる「オタク」は秋葉原付近を徘徊し、パソコンとゲームが趣味です。一日中部屋に閉じ籠もって、一人だけの世界に浸っている根暗な人達です。運動不足と不摂生な食事で小太りとなり、健康的なイメージはありません。

しかし、「マニア」は趣味の人種であり、その分野での知識が深く、根明な性格の人達が多いのです。この日は全国からマニア、見学者が集まり、広い会場を散策していました。晴天の空の下での散策は気持ちのよいもので、極めて健康的なイベントでした。なお、世間には「旧車會」という「旧車天国」と似たような名前の愛好会もあります。

こちらは中高年になった元暴走族のOBが集まり、昔を思い出して改造オートバイを乗り回そうという少々危ない団体のことで、お間違えのないように。
(写真2)

この日はボンネットバスが登場し、乗客を乗せてお台場の周辺の公道を回遊していました(写真2)。
このバスは有名なようで、あちこちのイベントに引き出されています。最近は全国の観光地でクラッシック風に改造したバスを走行させていますが、それらは現在製造されているバスの外観を変えただけです。オリジナルの旧車バスは全国でも希少なのです。

(写真3)                        写真3は1938年製のダットサンフェートンで、エンジンを始動するのは前のクランクを回します。
(写真4)

この日、会場内には写真4、5のように多くの旧車が並べられ、さながら中古車の展示場の様子となりました。写真4はイギリス製スポーツカーのロータス車で、車体はピカピカに磨かれていましたが、これだけ同じ種類の車種が並べられると面白みも無く、来場者はあまり近寄ってきません。写真5は日産のグロリアで、その昔は上場企業の重役か土建屋の親父が愛用していた車種です。当時は超高級車であり、庶民には手が届かない車種だったはずで
すが、今は落ちぶれてマニアの所有車に成り下がってしまいました。

(写真7)
昔の車であるということから、1950年代のアメリカ車が多く出品されるかと思ったのですが、意外と少ないものでした。写真6は1978年製キャデラックで、アメリカでは現在も街で走行するのを見かけることがあり、それほど珍しい車ではありません。

20年ほど前の日本では、アメリカ製の旧車を走行させるのが流行ったこともありましたが、現在はそんな趣味が廃れたようです。国産車の出品が多いのは、マニアが修理するのに部品を入手し易いことではないかと思われます。写真7はエンジン室を眺めている来場者です。どの車もボンネットを開け、エンジン室を覗けるようにしてました。エンジンなどはピカピカに磨かれていて、日頃の手入れを自慢したいのでしょう。旧車を展示するにはボンネットを開けておくのがマナーのようです。
(写真8)

(写真9)
写真8はご存じ富士重工のスバル360で、写真9はダイハツのミゼットです。
どちらも50年前は国民車と零細企業の運搬車であり、全国どこでも見かけられました。ミゼットは映画「三丁目の夕日」に登場し、懐かしさと親しみを持たれました。しかし、スバルもミゼットもこの会場では人気がありませんでした。これらは販売台数が多く、所有しているマニアが多いため珍しくないからでしょう。おまけに、旧車天国には度肝を抜かれるような旧車が多数展示され、この程度の旧車では関心を持たれないからです。
(写真10)

(写真11)
今回の出品にはオート三輪車が2台ありました。写真10は三菱重工の1955年製みずしま号、写真11はマツダ自動車製の1969年製T2000です。マツダの三輪車は廃車になっていた車を修理して車検を取り直したそうです。その昔は珍しい車ではなかったのですが、現在この姿で公道を走行したなら目立つでしょう。そもそも、オート三輪車などは見たことのない若い世代が多くなっていて、変てこな車としか感じられないかもしれません。

←(写真12)

会場内で車高が極めて高く、一際目立つのが写真12の米軍用戦車運搬用トレーラーでした。この車も車検を取得して公道を走行できます。米軍では耐用年数が過ぎた車両は一般に払下げられますので、個人が所有することは珍しいことではありません。しかし、このようなばかでかいトレーラーを米国本土から輸入し、車検を通してナンバーを付けたのは驚きです。利用できる価値もなく、単に走行することができるというだけの車両なのだからです。
もし、このトレーラーが公道を走行しているのを見かけたら、米軍の演習かと錯覚され、左翼に妨害されるのではないかと心配します。

←(写真13)

さらに驚かされたのは霊柩車の出品でした。本物の霊柩車で、今では見かけることの少ない木造宮式のものです(写真13)。葬儀屋が使用する霊柩車は運送事業であるため緑ナンバーですが、この車は白ナンバーを取得していました。このため、葬儀屋が使用していた車両を一旦廃車にして、再度白ナンバーを取り直したようです。この霊柩車では数多くの柩を搬送したはずで、それを趣味で運転するマニアがいるのですから驚きです。罰当たりにならないでしょうか。
(写真14)

(写真15)  
屋根に派手な電飾を付けたのはトヨタのセンチュリーで、昔のトラック野郎のような雰囲気でした。裏に回ってみると写真15のようにトランクには焼き芋機が搭載してあり、出来立ての焼き芋を販売していました。この車は実際に大阪付近で焼き芋を販売しているのだそうです。マフラーのようなパイプは焼き芋の煙を出すためのものでした。
(写真16)

(写真17)
会場内にはパトカーも2台出品されてました。良く出来ているな、と観察すると、警視庁の文字はマグネットシートであり、磁気で車体に貼り付けたものでした(写真17)。公道を走行する際には警視庁の文字を剥がし、天井の赤色灯を外すのだそうです。

←(写真18)

白黒のツートンカラーだけでは走行するには問題はないそうです。このパトカーもどきの車は映画、ドラマの撮影用に貸し出されるものでした。
 
パトカーの近くには制服警官がいましたが、会場内の交通整理をするのではなく、警官のコスプレでした。どこからか制服を入手し、警官になったような気分になっているのでしょう。警官の制服が好きならばいっそのこと警察に就職すればよいのでしょうが、それでは趣味になりません。コスプレはあくまでも趣味であり、警官まがいの恰好をするのが楽しいのです。
(写真19)

(写真20)
古色蒼然としたオートバイは1956年製陸王で、ハーレーダビットソンのコピーと言われたものでした。戦後もしばらく製造を続けていたのですが倒産しました。ホンダ、スズキが50ccのカブしか製造していなかった当時は、このオートバイに乗ることがステータスだったそうです。

写真20は警察官人形で、40年ほど前にはあちこちの国道にこの人形が立てられていました。事故が多い場所の道端に立てられ、運転手にスピードの出し過ぎを注意する役目をしていました。現在、この人形は製造されておらず、国道沿いでも滅多に見かけられない珍品です。どこから持ってきたのか不明であり、それを宝物として保存しているマニアがいるのです。
(写真21)

(写真22)
旧車天国に愛車を出品する理由の一つにマニア同士の交流があります。マニアは全国に広く薄く散らばっているので、日頃は出会う機会が少ないのです。この日は全国からマニアが集まるので会場で出会った同好の人達と知人になり、仲間を増やすことができます。また、趣味の世界での情報交換もできます。写真21のように、久しぶりに出会ったマニア同士が歓談して、親睦を深めていました。
 
写真22は七輪で焼き肉を楽しんでいる出品者です。この人、あちこちのイベントに遠征しているようで、食事の準備も慣れたものでした。皆様、晩秋の気持ちの良い一日をどのように楽しむかを工夫されてました。
(写真23)

(写真24)

(写真25)

(写真26)
この日は全国からマニアが集まるのを予想して、旧車に関連する商品を即売する屋台も開店してました。ここで販売している商品はデパートやスーパーでは売っていないものばかりですが、マニアにとっては垂涎の宝物なのです。写真25は旧車の部品で、素人からするとガラクタとしか思われません。写真26は自動車の整備マニュアルで、これで旧車の修理を勉強するのですが、神田の古本屋では売っていないのです。





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