「成功とは何か?」(1)(今成淳一氏) | 清話会

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激動期に勝つ“良い会社”をつくるために 第45回
成功とは何か? (1)

今成淳一氏(アイオー総合研究所所長)

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あるとき、A社長は金融機関が主催するマネジメントセミナーに参加しました。このところ仕事に追われていて、このような場に出席するのは久しぶりでした。特に期待していたわけではなく、「いつも欠席というわけにもいかないため、時間が取れそうなときには出席しておいたほうがよいだろう」という気持ちで出席したのです。

しかしA社長は、先ほど講師が話した「成功」という言葉に引っかかっていました。

講師は「経営者は会社を成功に導かなければならない」と言ったのですが、「成功って何?」という疑問がわいたのです。いつもでしたら、「利益をあげることである」という答えに満足していたに違いありません。しかしこのときは、なぜかそう簡単に答える気になれませんでした。

講師に「成功って何ですか?」と質問することも考えましたが止めました。そんな素朴な質問をすることに気恥ずかしさを覚えたのと同時に、「そんなことも分からないのですか」というように突っ込まれたらかなわないと思ったからです。また、「これだ」と思える答えをもらえずに、煙に巻かれるような気がしていたからでもありました。

そんなことを考えているうちにセミナーは終了し、もやもやした気分だけが残ってしまいました。

「成功とは何だろうか?」「私は経営者として会社を成功に導いているのだろうか?」

そんなことを考えながらセミナーから帰る途中、ふと「そんな言葉に引っかかるのは、最近の自分の仕事に疑問を感じているからではないだろうか」と思ったのでした。

■業績不振の会社

A社長の会社は、ここ数年良い業績をあげることができずにいました。赤字になってしまった年もありました。今期は後半になって業績を持ち直したのですが、それも自分の力量とか、社員の頑張りがあったから、というよりも、たまたま顧客の状況が良くなったからに過ぎなかったのです。

業績が右肩上がりの頃は、もっと充実した日々を送っていました。その頃は、自分の能力に疑問を感じることもなく、全てがうまくいっているように感じたものでした。

しかし今になって思うと、たまたま環境が良かっただけのようにも思えます。少なくとも、「自分が一流の経営者だから業績があがっていたのだ」とは、とても言えませんでした。

そして、業績があがっていたときは、より大きな業績を目指すことが楽しみであり、やりがいを感じていたものが、業績をあげるのに苦労をするようになると、業績目標を達成することが「ノルマ」のように、辛いものになってしまいました。

きっとあのセミナー講師は、このような環境下であっても、会社を成功に導くのが経営者の仕事だと言いたかったのでしょう。しかし、今の会社の状況や今後の見通しを冷静に考えてみると、「私は会社を成功に導いている」とは言えませんでした。そのような後ろめたく、辛い気持ちが、「成功」という言葉に引っかかったのだろうと思いました。

■利益は必要だが…

一方、「成功」という言葉にひっかかった原因はそれだけではないような気もしていました。それは、会社の業績が良くなったとしても、それだけで「うちの会社は成功している」とは自信を持って言えないと思ったからでした。

確かに業績は必要ですが、良い業績があげられるようになったときに「成功しましたね」と周りの人から言われたとしても、「ハイ」と素直に答えられないような気持だったのです。

その理由の一つは明らかでした。それは、「良いときがあったとしても、それは一時的なものであり、永遠ではない」ことを身に染みて知ったからです。

そしてもう一つの理由は、「成功とは業績だけではないのではないか」と感じていたからです。

こんなことを他の経営者に言ったならば、「負け惜しみだ」と言われそうです。あるいは「経営者がそんなことを言っていて良いのか」と叱られそうでもあります。

A社長は、「決して負け惜しみではない」とは思いながらも、「経営者として持つべき強さに欠ける」ことだとも感じていました。

 「私は経営者に向いていないのかもしれない。…」

■A社長のつまづき


A社長は、父が早逝したために30代という若さで社長を継いだのでした。当時は「経営者とは何をすれば良いのか」も分からないまま、がむしゃらに働きました。その甲斐もあってか、10年程経った頃には業績が安定し、周りからも一人前の経営者として見られるようになっていました。

そこで、「会社を大きくしたい」と思うようになりました。そして、無理をしない範囲で拡大していこうと取り組み始めたのでした。

その直後、景気が悪化し、急に仕事が無くなってしまったのです。設備投資を行った直後でもありましたので、会社は資金繰りに窮するようになりましたが、社長にとっては、一部の社員に辞めてもらうことになったことが一番辛かったそうです。

それからは、黒字にすること、資金繰りを安定させることに取り組んできました。資金繰りは少しずつ安定してきましたが、業績は安定しているとは言い難い状態でした。

その上、A社長には中長期的な不安があったのです。
「今うまくいったとしても、将来どうなるか分からない」
頑張り続けても先が見えてこない現状に、弱気になっていたのかもしれません。

■B社長との出会い

その頃、金融機関の担当者の紹介で、「優秀」と言われる経営者の方と会えることになりました。

こんなタイミングで会うことができることに、「もしかしたら、何かのきっかけになるかも…」と感じたA社長は、B社長に正直に話してみようと思い、出かけていきました。

A社長の話を聞いたB社長は、「確かに、今のあなたは経営者として失格ですね」と切り出しました。

「経営者というものは、会社が壁にぶつかったり、危機に見舞われたときこそ元気にならなければならない。うまくいっているときに元気で、うまくいかないときに落ち込んでいるようでは、会社が良くなるはずがない。」

「あなたはなぜ、自分が今のように落ち込んでいると思いますか?」

B社長の問いに、A社長は内心「それを知るために、今、こうして来ているのです」と思いましたが、さすがに口に出すわけにはいきません。
 
それを見透かしたように、B社長は話し出しました。



~次号に続く~


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今成淳一(アイオー総合研究所所長)

1959年生まれ。電子部品メーカーで技術職として勤務後、経営コンサルティング会社役員を経て99年独立。経営コンサルティング歴25年。「ドラッカー教授のマネジメントを実際の経営に活かすことで、企業の課題解決と体質改善を図る」ことを主体に取り組む。
「差し迫った課題を解決するだけでなく、“良い会社をつくる”ことを目指す」内容と分かりやすい解説が、多くの経営者から支持を得ている。清話会メールニュースにて、「激動期に勝つ“良い会社”をつくるために」を好評連載中。