「多くの悩みを抱える現場管理者」(4)(今成淳一氏) | 清話会

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激動期に勝つ“良い会社”をつくるために 第44回
多くの悩みを抱える現場管理者(4)

今成淳一氏(アイオー総合研究所所長)

※これまでの記事は、こちら


業績や部下のマネジメントに悩んでいたA氏は、真面目に働き、信頼のおけるB氏からじっくり話を聞く時間をつくりました。

すると、それまで知らなかった部下たちの不満や疑問、悩みを聞くことができました。さらにB氏は、「業績向上へのヒントは辞めていったE氏にある」と言うのです。

■仕事をさぼるE氏?

E氏とは、1年ほど前に辞めていった方で、その理由は「E氏は仕事をさぼってばかりいる」という評判がたってしまったからでした。

B氏やE氏の仕事は小売店の現場の仕事で、商品の包装から出し入れ、顧客への応対等、行うべきことがたくさんありました。もちろん人員に余裕はありませんので、皆がテキパキ働くことで、ようやく全体がまわるような状態でした。

しかしE氏の仕事ぶりは、そうではありませんでした。人と話をするのが好きな人で、すぐにいろいろな人と立ち話を始めるのでした。そのため、E氏が担当する仕事は滞りがちになってしまい、周りの人が手伝わなければならないことが多くなっていたのでした。

そうした苦情がA氏のところへも伝わり、注意をしたことがありました。そうすると、一時は状況が改善するのですが、しばらくすると元に戻ってしまうのでした。誰でも一生懸命仕事をしている時と、少し楽をしている時があるものですが、E氏の場合はそれが目立つのでした。

現場の仕事の遅れや効率悪化の元凶のように言われるようになってしまったE氏は孤立してしまい、辞めかざるを得なくなったのでした。

■顧客に好かれていたE氏

E氏が辞めた後、「あの人はどうしたの?」という顧客からの質問がしばらく続いた、とB氏は言うのです。そして、質問してきた顧客たちの内、何人かは来店されなくなったり、来店頻度が少なくなったと言うのです。

E氏は、仕事をさぼっているように見えていたのですが、その時間の多くは顧客と会話をしていたのでした。そしてE氏と顧客は「店員とお客様」という枠を超え、「E氏と○○さん」という関係となり、顧客の中にはその関係を求めて来店されていた方が少なからずいたのでした。

B氏は、E氏が辞めた前後の様子を現場で見ていて、そのことに気づいたと言うのです。もちろん、E氏のやり方は褒められたものではなかったのですが、目の前の作業だけを求められる現在の方針にも疑問があると言うのです。

しかしB氏は、それを提案することはありませんでした。組織としてそうした意見を引き上げ、決定し、実施するという仕組みと責任が存在しなかったからです。

■どのように実行するか?


A氏は、「E氏のように顧客と関係をつくること」は、業績向上のための有望な施策になるのではないかと感じました。しかし、そのような取り組みは、どうしても作業が遅れがちになるというデメリットを生じます。人員が限られている中でそれをどう解決するか? という課題が残ります。

A氏が「どのように実行すべきか」を迷っていた時、社外の友人と会う機会がありました。そこで友人に相談してみたところ、次のように言われたのです。

「悩んでいるよりも、試してみた方が早いんじゃないの?これは、と思う人に顧客と話す役を任せて、その分君が現場に入って様子を見てみたらどうだろう。」

「しかし、自分がいつまでも現場の仕事をするわけにはいかないし…」

「もちろんだ。新しい仕事を始めるのだから、他の仕事の効率化を図ったり、仕事の割り振りも変えなければならないかもしれない。また、新しい仕事の効果や方法も確認しなければならない。しかし、そのためにも自分が現場で見ながら考えてみたらどうだろう。」

「それに、前はE氏が極端な方法で行っていても、現場が破綻することは無かったのだろう?だとしたら、君が管理し、改善しながら行えば必ず実行出来ると思うよ。まずは出来る範囲で始めてみたら?」

A氏は少し勇気がわいてきました。さらに友人は、次のように続けたのです。
「『出来るかどうか』も大切だけれど、それを顧客に対するサービス向上と業績向上につなげる方が大切だろう。せっかく始めるのだから、多くの顧客に買い物を楽しんでもらい、来店されるお客様が増え、結果として業績をあげることを目的として、目標を掲げ、チャレンジしてみたらどうだ?」

友人の話を聞いているうちに、A氏はこれまでの自分が「やらなければならない」「やらされている」という後ろ向きの姿勢だったことに気づいたのでした。もっと「やりたいこと」「やるべきこと」を積極的に行った方がやりがいを持てますし、楽しめると感じたのです。

■友人の助言

「お節介かもしれないけれど、君自身がお客様の声をもっと聞いた方が良いと思うよ。もしかすると、もっといろいろなヒントがもらえるかもしれない。」

「それに、現場で働く人たちの声も聞いて、一緒に良い職場をつくっていこうという雰囲気をつくるべきだと思う。確かに、意見を聞いても『出来ない』ということが多いかもしれない。でも、『今、それを行うことは出来ないが、出来ることを先に取り組もう』とはっきり説明しながら進めていけば、すごく良い職場になっていくんじゃないかな。」

「そうして職場が変わり、業績も良くすることが出来れば、上司からの信頼も得られるだろう。そうしたら、今は任せてもらえないことも任せてもらえるようになるかもしれない。少しずつ、それに近づけていければ素晴らしいじゃないか。今回、B氏から意見を引き出すことが出来た君なら、きっと出来ると思うよ。」

A氏は、今までになく前向きな気持ちになりました。ついさっきまでは「難しくて大変な仕事」だと思っていたことが、「やりがいのある、大切で楽しい仕事」だと思えたのです。

もちろん、簡単にはいかないことも分かっています。今考えている方法だけでは、あまり業績は変わらないかもしれません。でも、出来ることがもっとたくさんあるだろうということも感じられます。急に目の前が開けたようでした。

A氏は、「明日から忙しくなるぞ」と明るく友人と別れたのでした。



~この項、終了~


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今成淳一(アイオー総合研究所所長)

1959年生まれ。電子部品メーカーで技術職として勤務後、経営コンサルティング会社役員を経て99年独立。経営コンサルティング歴25年。「ドラッカー教授のマネジメントを実際の経営に活かすことで、企業の課題解決と体質改善を図る」ことを主体に取り組む。
「差し迫った課題を解決するだけでなく、“良い会社をつくる”ことを目指す」内容と分かりやすい解説が、多くの経営者から支持を得ている。清話会メールニュースにて、「激動期に勝つ“良い会社”をつくるために」を好評連載中。