書評:『長谷川慶太郎 アジアの行方』『アジア力の世紀』進藤榮一著(小島正憲氏) | 清話会

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1.『長谷川慶太郎 アジアの行方』 長谷川慶太郎著  
実業之日本社  2013年4月18日
    副題 : 「大激動の真実を知れ!」

2.『アジア力の世紀』  進藤榮一著  
    岩波新書  2013年6月20日
    副題 : 「どう生き抜くのか」   
    帯の言葉 : 「TPPと中国脅威論のウソを暴く」

長谷川慶太郎氏は86歳、進藤榮一氏が74歳であり、共に高齢で、著名なエコノミストと学者が、その歴史的体験と博識を元にして、上掲両著で、それぞれ、これからのアジアの行方と日本の立ち位置を論じている。しかしながら、長谷川氏は「日米安保重視論」を、進藤氏は「アジア共同体論」を主張し、その結論は好対照となっている。

長谷川氏は、今後の世界は再びアメリカの一極集中覇権国家時代になると予測している。長谷川氏はその理由を、シェールガス革命に求め、「価格の安いシェールガスがアメリカ国内で盛んに生産されることにより、製造業の生産コストは格段に下がり、雇用も回復を強め、そしてアメリカ経済を支えます」と書いている。

それに対して進藤氏は、「確かに米国は、リーマンショック後、3度の大量金融緩和とシェールガス革命に助けられて、“製造業ルネッサンス”の様を呈し、2012年以降帝国の復権を垣間見せている。大英帝国が終焉の時を迎えるのに、半世紀の月日を要したように、大米帝国が終焉の時を迎えるのは、21世紀中葉まで待たなくてはならないかもしれない。だが、にもかかわらず帝国は、“黄昏の時”を刻み続けているだろう」と書きアメリカの没落を予測し、「グローバル金融危機下で米国や欧州が、世界的不況の真っ只中に置かれているにもかかわらず、アジアはなおも成長を維持し続ける。時代の舞台はいま回り続けていると続け、「アジアの力」の勃興を予測している。

つまり長谷川氏はアメリカの復権を、進藤氏はアメリカの没落を予測している。

今後の世界が、「パックス・アメリカーナ」の継続なのか、「大アジア力の時代」が生起するのか、現時点での私の認識では、シェールガス革命を評判通りのものと考えれば、前者が延命する可能性が高いと思う。

中国経済について、長谷川氏は多くの実例を列挙して、「バブル崩壊が目前に迫る」と言い切り、「2012年度の経済成長率は実質3%前後ではなかったか」と極言している。長谷川氏の中国崩壊論は20年来のものであり、すでに“狼少年”を通り越してしまっているが、昨今の中国経済の内実は、いよいよ長谷川氏の指摘に近くなってきたのでは思わせるものがある。

進藤氏は本書では、中国経済の内実についての詳細な分析を行っていない。進藤氏は中国を「グローバル通商経済大国」として捉え、「日中韓3国関係についていえば、日本がバブル崩壊後、小泉構造改革によって、円高デフレを長期化させ、格差を拡大させた。そして少子化の罠に落ち、経済力を衰微させ、国内市場を縮小させた。それとは対蹠的に、中国と韓国は経済力を伸ばし、3国経済関係における“最後の審判役”が、いまや日本から中国へと移転した」と書いている。

進藤氏の中国経済の実力把握は、その実態を見極めたものではなく、したがって結論も誤っている。中国経済についての評価については、明らかに長谷川氏に軍配が上がる。

長谷川氏も進藤氏も、軍事的な「中国脅威論」についてはそれを一蹴している。ことに中国の人民解放軍の戦力について、その実態を、両氏なりの方法で分析し、「話にならない戦闘能力」(長谷川氏)、「中国が軍事的に大きな影響力を持つことなどあり得ない」(進藤氏)と書いている。

ただし長谷川氏は、「人民解放軍の暴発は有り得る」と想定しており、それを前提にして日米同盟が重要であると主張している。進藤氏は、中国を「アジア共同体」に取り込むことによって、そのような事態を未然に防ぐべきだとしている。

この本で長谷川氏は、シェールガス革命の影響で、中東産油国の景気は落ち込み、高層ビルの建築やインフラ整備は工事中止に追い込まれる可能性が高く、その結果、その現場へ出稼ぎに行っていたパキスタン・中国・インド・バングラデシュなどの労働者が母国に戻らざるを得ない状態に追いやられると予測している。それが世界中の労働賃金をさらに安くさせ、デフレを継続させると主張している。

この指摘が現実のものとなるのは、まだ数年先のことだと思われるが、労働集約型企業の経営者としては、頭の片隅に置いておかねばならない指摘だと考える。


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清話会  評者: 小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )

1947年生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化 市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を経ながら今年より現職。中国政府 外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。

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http://ameblo.jp/seiwakaisenken/theme-10028305790.html




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