新指導部の示す国家ビジョンは(徐 学林氏) | 清話会

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 「徐さんの中国投資最新レポート」第3
新指導部の示す国家ビジョンは

徐 学林氏((株)京華創業 代表取締役)


中国の国会に当たる全人代――全国人民代表大会が5日から北京で開幕されました。今年は党と行政のトップが交替され、また中国経済の成長エンジンが切替えを迫られる中での開催で内外から注目されています。

5日「政府活動報告」に立った温家宝首相は、今年の経済成長率を7.5%という控えめな目標を発表しました。昨年党の総書記に就任した習近平が、2020年までに国民所得倍増計画を発表したのに呼応した形の7.5%で、今年は8%を優に超えるだろうというのが大方の見方ですが、量よりも質の追求が新政権の最大の課題だからです。

17日までの会期で、3000名に及ぶ各界からの代表(議員)が「政府活動報告」について議論し、修正や加筆を加えた後、最終日にこれを採択し国家主席(習近平)と首相(李克強)などを選出して新指導部としての経済運営がスタートします。

課題山積の新指導部ですが、私は次の二つに注目したいと考えます。

一つは、新指導部に文革や「下放」経験者が多いことです。

習近平も李克強も文革の終盤に「知識青年」として農村に下放された経験の持ち主です。今でこそ、習近平は太子党と言われますが、文化大革命の時には、なんの特権もなく一般の若者と同じように地元陝西省の農村に下放され畑仕事に従事させられました。

一方の李克強は19歳の時に安徽省の田舎に下放され4年近く農村生活を経験したあと、文革後復活した大学受験に見事合格して北京大学に入ったものです。

文革・下放経験者に何より強いことは庶民の痛みを芯から理解されることです。腐敗が蔓延る現の中国で、国民の関心事は腐敗を根治出来るかどうかです。

習・李ともに実務型の人間で、総書記就任早々、虚礼廃止を打ち出し、地方視察や海外訪問時の大掛かりな出迎えを廃止するよう通達を出しました。

以前全人代開催の時には、代表の車列通行確保のために、道路を封鎖したりするなど市民に随分迷惑がかかりましたが、今回からはパトカー先導はあるものの、道路封鎖もなく、市民寄りの姿勢を演出しました。
そして重慶の前書記薄煕来処分を皮切りに、腐敗に関わるような人物を容赦なく摘発し、処罰しています。

更に今大会で国民の不満を一身に集めている鉄道部の解体も国務院行政改革の目玉にしています。
「土建国家」ならず利権の絡む鉄道部は、中国高速鉄道の建設を行政の独占で請け負っていますが、土地確保や建設資材調達など、まさに腐敗王国だと言われています。
国務院の行革が成功するかどうかは鉄道部の解体がスムーズにできるかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。

二つ目は、新外相の人事です。

新外相には、前駐日大使の王毅氏の就任が内定されています。日中関係で、ここ二、三年尖閣問題でギクシャクされています。戦略的互恵関係の構築は共通の認識ですが、今のところ妥協点は見いだせないままでおります。

「中国の芸術家訪日団の日本公演の際、昼食に和風弁当が出されましたが、冷めたご飯を見ただけで、メンバーが怒り出した」というエピソードがあります。
冷めたご飯は冷遇されるというイメージの他、健康にはよくないのが定説の中国と公務で忙しい時にはお弁当で、美味しく調理されているお弁当は冷めたご飯でも美味しくいただける日本との温度差では、よっぽどの日本通でないとわからないことでしょう。

王毅氏は大学で日本語を専攻し、中国の日本駐在参事官を経たあと、2004年から2007年にかけて日本駐在大使を務めた中国切っての日本通です。
「王毅氏なら、本人は冷めたご飯こそ食べないでしょうが、日本のお弁当は冷めたご飯で、日本人は普通にこれを食べていることは良く理解されている」と周りの友人の間で、大局ではもちろんのこと、きめ細かい部分での対日交渉でも手腕が発揮されるだろうと密かに期待しています。

習・李新体制で、内政では、もっと国民に利益をもたらす経済運営を、外交では、周辺国との対話を通じてお互いの利益最大化を求める政策が今後どのような形で具体化されるか、中国の国家ビジョンが示されるときです。



徐 学林
1983年  北京外国語大学日本語科卒
       北京放送入社
1990年  NHK国際局にて研修
1991年  名古屋市立大学大学院経済学研究科入学
1998年4月 (株)日本事業通信網入社
2001年6月 (株)邱永漢事務所、(株)邱永漢アジア交流センター入社
2012年9月 (株)京華創業 代表取締役就任

(株)京華創業
http://keika-corp.co.jp/