日本のギリシャ問題を考える・・・その一(山本紀久雄氏) | 清話会

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街角ウオッチング132号
日本のギリシャ問題を考える・・・その一

山本紀久雄氏(経営ゼミナール代表)


日本国債への仕掛け

 日経新聞「大機小機」(2012.2.18)が
「これまで安全資産として買われてきた円が、2012年には円安への転換点を迎える可能性が高いうえ、過去に日本の国債売りを仕掛け、ことごとく失敗してきた多くのヘッジファンドが、今回は自信を持って売りを仕掛ける方針だという」と、世界からの日本経済への見方が変わってきたことを述べた。

 では、ヘッジファンドはどうやって売りを仕掛けるのか。それにはCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)というデリバティブ商品を使う。CDSとは債権のデフォルト(債務不履行)をヘッジするための金融商品である。

 例えば、日本国債を持っている人がいて、日本が倒産したら日本国債はボロ値となる。しかし、日本国債のCDSを買っておけば、それを売った人から損失分を貰えるというもので、その為にはCDSを買う人が、最初に決められた保険料、仮に日本国債を100億円保有しているとして、年間1%保険料であったら、1億円ずつ支払えば、日本が倒産しても損しないのである。

 また、日本国債を保有していない人でも、このCDSを買える。この場合、年間1億円払えば、日本が倒産したら最大で100億円儲かることができる。

つまり、これはギャンブルである。 他人の家に火災保険を掛けて、他人の家が燃えるのを祈るような賭けであって、債権がなくても、デリバティブ商品の売り手と買い手がいれば成り立ち、無限大の大きさの市場を作り出せるのである。

これがアメリカのサブプライムローンの仕掛けで、ヘッジファンドが住宅ローン仕組み債を空売りし、巨万の富を得た手法である。

この手法でいよいよ自信を持って日本国債に仕掛けてくるのだという。

アメリカの中のギリシャはどこか

 日本国がギリシャのような倒産状態に陥った場合、そのようなことはないと思うが、仮に発生した場合、日本のどこが、誰が、最も損害を被ることになるのだろうか。

その注意喚起のために、事前にシミュレーションしておいた方がよいと思うので、それをマイケル・ルイス著の「ブーメラン」(2012年1月)の中から紹介したい。

書名の「ブーメラン」とは、サブプライムローン仕掛けで、欧州が被った損失が、ブーメランのようにアメリカに戻って、地方都市に住む人々の生活を直撃しているという意味である。

「世紀の空売り」(2010年)、映画になった「マネーボール」(2011年)に続くマイケル・ルイスの力作である。

「ブーメラン」は最初にアメリカ全体の問題を述べる。

①2002年から2008年にかけて、州は住民と足並みそろえて債務を積み上げた。住民の負債額は全体で見てほぼ二倍、州の支出は約一・七倍になった。

②1980年には、州の年金原資のうち、株式市場に投資されたのは23%にすぎなかった。2008年には、その割合が60%にまで増えている。

③財政の穴は数兆ドルに広がり、その穴を埋めるには、ふたつの選択肢・・・公共サービスの大幅縮減か債務不履行か・・・の一方もしくは両方を実践するしかなかった。

④この国はどんどん、財政的に安定した地帯と危ない地帯に色分けされていくだろう。お金があって引っ越しできる人たちは、引越しする。お金がなくて引っ越しできない人たちは、引越しせず、最終的には州や自治体の援助をそれまで以上に当てにする。それが、事実上の“共有地の悲劇”(多数者が利用できる共有資源を乱獲することによって資源が枯渇すること)を招く。

と全国的な状況を述べた後、いちばん憐れむべき市としてカリフォルニア州サンフランシスコのベイエリア内にあるヴァレーホ市Vallejoを紹介した。

①2008年、多数の債権者との折り合いが付けられず、ヴァレーホ市は破産を宣告し、2011年8月、スタンダード&プアーズがアメリカ国債の評価を格下げしたのと同じ週に破産申請が認められた。最終的に、ヴァレーホの債権者の手もとには1ドルに対し5セント、公務員の手もとには1ドルに対し20ないし30セント程度の金が残された。

②破産の宣言以来、警察署と消防署の規模は半分に縮小された結果、自宅にいても安心できないと訴える人がかなりいて、その他のサービスは、事実上、まったく実施されなくなった。

③したがって、どこにでも駐車することができ、違反切符を気にする必要はなくなった。駐車違反を監視する婦警もいないからだ。


(続く)


※「街角ウォッチング」過去の記事はこちら



山本紀久雄--------------------------------------------------
1940年生まれ。中央大学卒。日仏合弁企業社長、資生堂事業部長を歴任。現在、㈲山本代表取締役として経営コンサルタント活動のほか、山岡鉄舟研究家として山岡鉄舟研究会を主宰。著書に『フランスを救った日本の牡蠣 』『笑う温泉、泣く温泉 』等がある。

(山岡鉄舟研究会)  http://www.tessyuu.jp/
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