「華僑流おカネと人生の管理術」小島正憲氏  | 清話会

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小島正憲氏の読後雑感
清話会 「華僑流おカネと人生の管理術」
  

宋文洲著  朝日新聞出版  5月30日
帯の言葉 :

 「“天災”も“人災”も数千年を切り抜けてきた華僑の人々。その発想を、生き方を今こそ学べ!」

小島正憲氏(㈱小島衣料オーナー)

宋文洲氏は日本でのビジネスの成功者の一人であり、彼はその成功談を数冊の本にして出版している。私はそれらの全てを読んできたが、おもしろく、かつ読んでいて心がさわやかになる本であった。おそらくそれは宋氏が本文中で、自らの人生を素直に吐露しているからなのであろう。今回の本も、同様であった。

まず宋氏は「はじめに」で、あるタクシー運転手の話として「放射能が来るからと行っ
て騒がれているけれど、万が一の場合でも、若い人には死んで欲しくないよ。わしらみたいな老人が先に死んだ方がいい。誰かが死ななきゃいけないなら、若い人に生きてほしいよ」という言葉を紹介し、それに感動したと書いている。私もこのタクシー運転手とまったく同じように考えているが、それに素直に感動し、わざわざ「はじめに」で紹介するという宋氏の姿勢に、さらに深い感銘を受けた。

宋氏はこの本で、日本的経営の中核としてもてはやされてきた「家族経営」の思想について、自らの体験を通して鋭く批判している。宋氏は「“社員を家族のように大切にすることで社員との連帯感を醸成できる”と本で読んだのを真に受けて、日本流の“家族経営”を見よう見まねで実践したところ、逆に社員から敬遠されるようになり、社内で孤立してしまった」と書き、一時は会社の閉鎖も考えたが、このとき宋氏は華僑経営者の本を読み、この苦境から脱却したと述懐している。その華僑経営者の本には「家族経営」の話などまったく出て来ず、むしろ反対に「“助けて欲しいときに、他人は助けてくれない。人間は結局一人で道を切り開いて行かなくてはいけない”、“いちばん困難なとき、支えて欲しいときほど、社員や部下、友人は隣にいない”ということを常に自分に言い聞かせることが重要だ」と書いてあり、それを読んで目が醒めたのだという。私もまったく同感である。

宋氏は「人間にとってもっとも必要な能力は、一文無しになってもはい上がってくる“
生き残る力”を備えていることだ」、「日本人にもっとも足りない能力は、この“生き残る力”なのではないか」と書いている。この点についても、私は同意見である。引き続いて宋氏は華僑の子育てについても言及し、香港の華僑財閥の総帥:李嘉誠が自分の子供を香港の街頭に一人で放り出し靴磨きの修業をさせ、金儲けの難しさや生き残る力を身につけさせたという話を紹介している。これはまさに子育ての模範のような話である。私も形は違うが、かつて自分の子を開発途上国に追い出し、そこで教えようとしたことは「ゴミを喰ってでも生きよ」という姿勢であった。ことに次男は16歳のときに、今でも最貧国の一つであるバングラデシュへ1年間放り出した。彼はそこで腸チフスにかかり死にかけたが、どうやら生き残るという目的は果たした。またその縁が偶然17年後に、わが社のバングラへの工場進出という副産物を産んだ。

さらに宋氏は、「華僑は誰もやりたがらないこと、行きたがらない場所にこそビジネスチャンスがあると考えている」、また「華僑の成功者は、贅沢や消費にはまったく興味がなく、ビジネスや投資そのものが、人生の一番の娯楽だと考えている」と書いている。この点についても私も同様である。私は酒・タバコを嗜まず、マージャン・ゴルフ・カラオケなどの遊興に耽らず、パチンコ・カジノなどの賭け事には一切関わらず、身にブランド品はつけず、マイカー・マイホームを持たず、移動もエコノミークラスに乗り、食事は社員食堂でできるだけすませ、出されたものは文句を言わず何でも食べる。

私はこのように「清貧な生活」=「普通の労働者よりもはるかに質素な生活」を心がけ、わが社を守り、多くの労働者の生活を支え続けてきた。しかし残念ながら資本主義社会では、この私も「労働者を搾取する性悪な資本家」の部類に入れられる。それは資本主義社会が資本家と労働者という敵対的階級で成立している以上、仕方がないことでもある。したがって私は、いつも「性悪な資本家」であることを自戒しながら、身を律してきたのである。

「華僑はリスクマネジメントに長けている。その一つが国籍の分散であり、理財=分散
投資である」と書いているが、これだけは私もなかなか真似することができない。理財
の才もなければ、意欲もないからである。

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清話会 小島正憲
氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化 市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を経ながら今年より現職。中国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。

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http://ameblo.jp/seiwakaisenken/theme-10028305790.html
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