「凄腕社労士の労働事件簿」【11】 本田和盛氏 | 清話会

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凄腕社労士の労働事件簿 【11】
~注目判例から読み解く、時代の転換点~
<今回の注目判例>いじめ・従業員への商品売りつけ

美研事件事件(東京地判平成20年11月11日)

     本田和盛氏(あした葉経営労務研究所代表)
http://profile.allabout.co.jp/fs/honda/  
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●化粧品や医薬品、活性水生成器等の美容機材等の販売で、テレフォンアポインターが電話で勧誘し、試供品を送付した上で、営業員がフォローして最終的な売上に結びつけるというビジネスは多い。

   

●本件の会社(A社)の主力商品は、生薬に該当せず「医薬品」とはならないため、その薬効をうたうことは薬事法で禁止されていた。しかしA社は、トークマニュアルで薬効をうたい、そのトークマニュアルにしたがって営業員に説明をさせていた。そして高齢者等に高額商品を売りつけるが、現金では購入できない客にはリボ払いローンで販売していた。

  

●このようなA社の販売方法等に疑問を持った社員Bが、A社から不平分子とみなされ疎外されるようになり、いじめ・罵倒を受け、会社を強制的に退去させられたのが本事案である。この会社退去命令に伴う荷物運搬(30㎏の私物の運搬)によりBは、腰部脊柱管狭窄症等の傷害と反応性うつ病を発症させた。本件では、損害賠償として慰謝料、医薬費以外にも逸失利益として基本給の1年分が認められている。

    

●本事案では、仕事をさせることにからめて会社の商品を従業員に購入させていたことも争点となった。労働契約締結時に労働者に借金(たとえば研修費用の前借り等)をさせて、その借金を働きながら返済させるという働かせ方は、労基法17条違反(前借金相殺の禁止)となる。また使用者の立場を利用して強制的に社内貯金をさせることも禁じられている(労基法18条)。本事案では、立場の弱い従業員につけ込むこのような商法が、公序良俗違反と判断された。

     

●不景気になると、高齢者等の社会的弱者や弱い立場にある従業員につけこむ企業が増えてくる。本事案は、普段垣間見れない違法な企業の実態を知ることができるという点で、興味深いものである。

    

【事案の概要】
会社の販売方法に疑問を持った従業員Bが、会社から不平分子として扱われ、いじめ・罵倒の他、営業員(美容カウンセラー、正社員)からテレフォンアポインター(アルバイト)への降格・配転命令を受け、最終的に会社を強制的に退去させられた事案である。会社退去命令に伴う荷物運搬によりBは、腰部脊柱管狭窄症等の傷害と反応性うつ病を発症させたが、その損害賠償請求が争われた。なお本件では上記争点以外にも、試用期間後の基本給の減額(基本給を減額するのと同時に、販売実績により増額される能力給を加算)、始業開始前10分の出社を義務づけ、それ以降を遅刻として扱っていた取扱(労働時間性)についても争われた。

   

【裁判所の判断の要旨】
● 募集広告には「月給18万8千円+能力給+各種手当」と記載され、採用時も同様の説明を受けていた。試用期間中は基本給18万8千円のみで能力給が加算されず、試用期間後に高額な歩合がつく能力給が加算されたとしても、基本給は18万8千円であり、12万8千円に減額することは許されない。(当初合意した賃金額の減額は認められない)

  

● A社では、始業開始前10分の出社を義務づけ、それ以降を遅刻として扱っていたのであるから、この時間は実作業をしていないことが仮にあったとしても、A社の指揮命令下にある時間として労働時間の扱いをするのが相当である。(賃金支払い必要)

   

● A社幹部は、Bに対し、その人格を否定するような罵倒やいじめを行ったものと認められる。またテレフォンアポインターへの降格・配転命令は、たとえ配置替えの趣旨であっても、Bを退職させるよう仕向けるための降格とBが捉えることは無理からぬものがあり、このこともBに精神的苦痛を与え反応性うつ病に罹患したと認められる。(損害賠償請求が認められた)

   

● Aは使用者としての立場を利用して、仕事をさせることにからめて従業員に不要な商品を購入させたものであるから、公序良俗に違反する商法であり、不法行為を構成する。(損害賠償請求が認められた)

    

● Bは、当面働くことができない状態になり、少なくとも1年は就労することができなかったものと認められる。よってBの基本給の1年分を逸失利益として認めるべきである。

   

    

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