小説 古都の花影 83 | 茶道体験教室 パート2 生徒さんとの日々のしおりとして、このブログを使わせていただきたいと思います。 

茶道体験教室 パート2 生徒さんとの日々のしおりとして、このブログを使わせていただきたいと思います。 

月に一度の体験教室でも何か人生でプラスになるものを掴んでほしいと思っています。興味ある方は日曜体験教室にご参加ください。何の用意もいりません。その人その人に合ったお茶を体験していただきたいと思います。

 宗一はじっと腕を組んだまま、妻の言葉に耳を傾けていたが、父の気持ちを思い遣るように、ふとガラス越しに隠居部屋の方へ眼を移した。

 一羽の白鳩が八幡宮の方から滑空し、大きく翼を広げ、茅葺の屋根に降りてきた。白鳩は苔むした茅葺に根を張った野草の中、何かをついばみ、また八幡宮の方へ飛び立った。

 宗一は、その白鳩が勢いよく、高く舞い上がっていく姿を、心を休めるように見詰めていた。

 宗一には、父の源造の心持が解っている。解っているが、なぜか素直には応じられない自分に苛立ちもする。

 田島病院に帰ってからの十数年、医療のことはともかく、その要は父に従ってきた宗一だった。何しろ、田島家に養子を取ることは、田島病院の将来に関わる大切な事柄だけに、宗一は源造の意思の表れを期待したのだ。だが、この件だけは源造も自分の意見を言わない。まるで、源造はその決断を宗一に迫っているようだった。

 宗一は思い切ったように話し出した。

「今度の件では大森君ともよく話し合ってみたのだがね、、、。早苗と由加里のどちらかに養子を迎え、田島病院の今後を考えるというのは、典子も綾子も田島家の血縁的な私情にとらわれすぎているという気がするのだ。今の田島病院は、内科、婦人科、外科で医療の6割を占めている。その外科が他所に比べると弱い。まして、新病院には高度な医療設備が整う。そうなると、新しい医療体制に対応できる有望な医師を迎え、内科とのギャップを埋めたいとね。今の外科部長の堀くんは高齢だ。大学病院だったら、とっくに定年になっている。まあ、よくやってくれるが、その後継者が育たない。だから、健二君が来てくれれば、将来外科の中心的存在になると考えたのだ。私は今でもその気持ちに変わりはない」

 典子が口を挟むのを宗一は制した。

「まあ、最後まで典子も聞いてくれよ。それは勿論、病院の問題を中心に考えた場合だ。私だって、早苗の幸せを考えないわけではないさ。健二くんと早苗の話が具体的になれば話そうと思っていたことだが、、、。早苗だって、今までとは違ってきたしね。あの子の病気の事を考えすぎてやしないかな、私達は。そのことで、あの子の世界を狭くするのはどうかと思う。健二君という人が現れ、あの子は、堂々と社会への第一歩をあゆみだしたんだと思うんだよ。私はあの子の可能性を封じ込めるようなことはしたくない。健二君という杖に助けられて、どこまでやっていけるか見守りたい。それが重荷と綾子は言うが、あの子が乗り越えた病の重みはもっと大きなものだったはずだ。今までは、この田島家や、病院の将来に父への遠慮があったかもしれない。だが、もうそんな遠慮もこだわりも捨てなくてはいけないと思う。父も歳だしね。

ー兎に角、佐山家から正式に早苗の話があったときは、養子に入ってもらうという希望はそのままで、話を進めよう」

 そんな宗一の言葉に綾子は、もう泣き声を押さえていられなくなった。

 典子も思わず、もらい泣きをしながら、宗一の言葉に重ねた。

「お兄さん、判ったわ。そうしましょう、ねェー、綾子さん。これで、お父様も、きっと安心するわ。お父様だって、一番早苗さんを可愛がっているんですもの」

 典子は、宗一の話しぶりで、これで決まったと思った。いつもの宗一にはない歯切れのよさを感じた。家のことで、これほど、はっきりとした意見を聞いたのは初めてだった。


エピローグ つづく