早苗は可笑しくなった。
(健二さんらしくないわ、おみくじなんて)
早苗は、健二のそばにそっと歩み寄り、いきなり声を掛けた。
「健二さん、お待ちになった」
健二はびっくりしたように、慌てて振り返った。
「いや、とんだ所を見られてしまった」
「運勢はどうでしたの」
「大凶ですよ、大凶」と笑っていた。
「嘘でしょ」
「そう、嘘です。言ってしまうとご利益もなくなるというでしょう。生まれてはじめてこんなことしてみたものの情けないですね」
「何がですの。やっぱり、運勢悪かったのかしら」
「いや、そんなんじゃないんです。朝から親父とひと悶着ありましてね」
「まあ、今日はわざわざ、ご夫婦で家に来てくださるという大切な日なのに」
「そのことでね。僕は、自分で一人で説明に行くっていったんです、最初から」
「でも、今日は、別に私たちのことでいらっしゃるのではないでしょう」
「そうですが、僕としては早苗さんの事まで話をすすめたかったんです。そしたら、今そんなことを言うのは筋が違うとか、僕が勝手に見合いを無視して早苗さんと付き合いだしたことが常識外れだとか言って、もう貴方のことを相談できる雰囲気じゃない」
「そうでしょうね」
「すっかり話してしまおうかとおもったんですけど、それでは由加里さんとの約束を破ることになる。由加里さんや当人の間ではなんでもないことが、世間に出るとそうでなくなる。由加里さんだって、恋人がいたのにいきなり見合いの話が出て困ったでしょう。由加里さんも、まだ彼のことは話せないって言ってましたね」
「ええー。私も由加里から打ち明けられ、驚きましたわ。大学院で助手をしている方で、仙台から出てきて、一人暮らしなんですって、、、。時々、由加里はお部屋のお掃除から、食事の支度までしてあげているらしいんですのよ。ですから、由加里にしてみれば、健二さんの態度で救われた思いがしたと言ってました」