第三章 晩秋
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秋も深まりゆく中で、田島家は母屋の方より、源造の隠居部屋に活気があった。
早朝のひととき、相変わらずのんびりと茶室で過ごす源造であったが、今はその源造の座っていた釜の前に早苗が座っている。源造は、その早苗の点前をいま迄にない真剣さで見詰めていた。
いっとき、富士見の山荘で調子を崩し寝込んだときは、またかと皆を心配させた早苗も、8月の末には前よりも一層元気になって帰ってきた。それからの早苗は、病など忘れたように活動的になっていた。
早苗が柄杓に手をかけたところで、源造の膝の扇子が鳴った。
「まだ、その動作が可笑しいぞ。竹の柄杓は軽いものだ。そんな力んだ手を持っていったのでは、その力んだ勢いはどこへ抜ける。客の眼に触れ、見苦しい。このお点前は草庵のものだよ。書院の台子とは違う。もっと、力を抜きなさいー。そう、そのぐらい、、、。手先にも力が入りすぎたから、小指まではねてしまったのだ」
そんな厳しく、細かな一言一言を早苗は耳で聞くというより、全身で感じ取った。もう、血縁であるという甘えを捨てきった、師匠へ対する素直な態度に徹していた。
早苗は、富士見から帰ってきてから、茶の湯の稽古をつけてくれるように自分から源造に頼んだ。まるで、茶の湯に自らの生き方を求めるような真剣さであった。
源造は、早苗の心境の変化に眼を輝かせた。今こそ、この孫娘に自分の茶の湯のすべてを伝えるときと悟った。ただ、自分には残されている時間が長くはないことを思うと、早苗と過ごす一時一時が貴重に感じられ、稽古にも熱が入った。
それは、早苗にとって、今までにない厳しい祖父であったが、なぜか厳しくされればされるほど、心に張りがつくようだった。