源造は、早苗さえ身体が丈夫になったら、自分の茶の湯のすべてを伝授しようと心の奥で思うのだった。老い先短い自分だが、、、。
源造は、茶を吸いきると、胸の底から深い溜息をもらした。それは、安堵とも、抹茶の深い味わいとも、どちらとも付かない心地だ。
早苗が、またこの茶室で茶を立てる気持ちになったことが何よりも源造は嬉しかったし、同時にこの孫娘の将来に一筋の光明をみいだしたように思えるのだった。
源造は、早苗の仕舞いつけを見終え、床の間の花に眼を移した。信楽の形はつる首の花入れに、薄紫の小菊が一輪いけてある。花の姿と、葉の形が妙に融けあい、いかにも早苗のだが、淋しい、淋しすぎると花の陰に早苗がいるように呟いた。
2
梅雨が明け、鎌倉の町は一変した。
由比ガ浜、七里ガ浜への海水浴客の車で道は溢れ、八幡宮の通りもその隣の小町通りも都会の喧騒が絶えない。鎌倉の侘びた風情とは対照的な原色のファッションが表通りを闊歩する。小銭を古びた寺の賽銭箱に投げ入れ、ひと時古都に来た思いに、おみくじを引いたり、お守りを買って帰る。それもその若者たちにはファッションの一部なのだろう。
田島家は、鎌倉の雪ノ下といっても、表通りから奥まった、源氏山を背にした閑静なところにあり、そこまで都会の若者は入り込んでこない。
田島家の母屋の庭の外側を麦わら帽子を被った早苗が伸び放題の雑草を刈り取っている。
(姉さん、随分元気になったわ)と、2階のベランダにでて、その様子を見た絵美子は思った。