小説 古都の花陰 38 | 茶道体験教室 パート2 生徒さんとの日々のしおりとして、このブログを使わせていただきたいと思います。 

茶道体験教室 パート2 生徒さんとの日々のしおりとして、このブログを使わせていただきたいと思います。 

月に一度の体験教室でも何か人生でプラスになるものを掴んでほしいと思っています。興味ある方は日曜体験教室にご参加ください。何の用意もいりません。その人その人に合ったお茶を体験していただきたいと思います。

 柳竜一は、宗一が東京の病院から呼び寄せた、優秀な医師の一人であった。田島病院で神経内科の部長をしている。もう50を越えているのだが、若いときから山登りで鍛えたというがっしりとした体つきは、その年齢を感じさせなかった。今でも、休日は山に登るという。なるほど、その日焼けした浅黒い顔にある両眼は青年のように生き生きしていると絵美子は柳の顔をチラッと見て思った。

 黙々と食べる柳医師に、絵美子は話をするきっかけがなかった。

 絵美子は、父の宗一から聞いた話を思い出していた。いまの田島病院の神経内科は、柳君ひとりでもっているんだ。週4日の外来で、400人近い患者が神経内科に来るが、その半分は柳君が診ている。また、患者の方でも柳君以外では承知しない。ただ、相談に来るという人までいるものだから、本人より看護師のほうがてんてこ舞いしている。

 その柳医師は、早苗を2年ほど前から診察してくれている。精神病院への入院は極力勧めない人であった。病院に閉じ込めるのは、早苗の性格からして逆効果だと。僕は現在の精神病院のあり方に疑問を持っています。ただ、一方的な薬漬け、検査、強制的な訓練、、、それは鉄格子のなかだけで行われる。何のカウンセリング、人的対処療法もない。あれは、一つの収容所、隔離施設なのです。と、柳は批判的ないいかたをする。早苗に対しては、あくまで身体の病気で、精神そのものの病ではないと断言する。早苗にとって、自宅療養に勝るものはない。何よりも、家族の温かい情愛だと、よほどのことがない限り、入院は勧めないのが彼の姿勢だった。それには、勿論、早苗の意思も尊重されている。発病当初、一度早苗は東京の大学病院で内因性うつ病と診断され、療養所に6ヶ月入院したことがある。その入院生活がよほど応えたらしく、それ以来2度と入院ということは口に出さなかった。