夜も更けて、源造は伊沢とリビングルームのソファーでくつろいだ。そこへ、典子と宗一夫婦が顔を出した。
伊沢は典子を労うように声をかけた。
「典子さん、今日はすっかりのんびりさせてもらいましたよ。貴方の半東ぶり、なかなかよかった」
「いえ、私はまだまだ修行が足りなくて、お恥ずかしい限りですわ。お茶事となりますと、若い人に茶道を教えるのと違い、奥が深くて、本当にお客様に満足していただく言うまでには、まだまだ父に及びませんの」
「田島君の天成かな、、、。彼のお点前、姿がただ見事というだけなら、それは技術的なことなのだろうが、、、茶事となると、客はみな彼の醸し出す雰囲気の中に溶け込んでしまう。亭主と客との境もなく、互いの働きも見事に和合し、快い和みのうちに時の流れも忘れてしまう。まさに天成としか言いようのないものですよ」
伊沢はサンフランシスコから送ってもらっているというパイプタバコを取り出すと、パイプに詰め、吹かし始めた。
典子と宗一夫婦の前では取り留めのない話をしながらも、源造としては、伊沢と早く二人だけの時間を持ちたかった。そんな源造の様子を察したのか、典子はそっと源造にだけ分るしぐさで、茶室の準備は整えてありますと伝えると、伊沢に挨拶して大船に帰った。宗一夫婦もその典子を玄関まで見送ると、居間には気をきかせて戻ってこない。
伊沢が何服目かのパイプタバコを吸い終えたところで、源造は何気なく言った。
「どうだい、茶室の方で一服いただかないかい。秋の名月もいいが、今頃の月も捨てたものじゃない」
「それはいいねェ。御伴しよう」と、伊沢は、ポンと、パイプの灰を落とし、立ち上がった。そんな源造の物言いの中にも、昼間の花入れのこと、ふと思い出した。早咲きの一輪の白い花。長い付き合いだ、その言葉の奥にただならぬものを感じる伊沢であった。
つづく