小説 古都の花陰 26 | 茶道体験教室 パート2 生徒さんとの日々のしおりとして、このブログを使わせていただきたいと思います。 

茶道体験教室 パート2 生徒さんとの日々のしおりとして、このブログを使わせていただきたいと思います。 

月に一度の体験教室でも何か人生でプラスになるものを掴んでほしいと思っています。興味ある方は日曜体験教室にご参加ください。何の用意もいりません。その人その人に合ったお茶を体験していただきたいと思います。

 宗源は満足した様子で、

「伊沢くんも物覚えのいい人だが、よくそこまで覚えていてくれたね。木箱もなく古新聞で2重3重に包み、大事に東京まで運んだものだ。すっかり汚れを拭い、下宿の机の上に初めて花を入れたのも、紫陽花だった。当時は、そんな焼き物があることも知らなかったが、一目見て、その姿に魅せられてしまった。今では、これに花を活け、茶を立てて飲むときは、自分は一介の農夫となり、囲炉裏を囲んで歓談する農家のいにしえに想いを馳せるのだが、、、」

 次客の義山が正客の伊沢の話を継いだ。

「なるほど、器も侘びた風情で見事ですが、花もいい。元の木は、建長寺前の半僧坊の木陰にある額紫陽花でしたかな、、、明月院も年々手を入れすぎか、これほどの紫陽花は今年も見られますまい。この広々と、白く色づいた花びら、これは早々といい物を見せていただきました」

「まあ、何とかここまで育ってくれましたので、一つ切って我が家の庭のものながら、この花入れに活けてみました」

 この紫陽花は、建長寺派である義山が修行中に一輪をひそかに切り届けたもの。そこまで義山はいわず、白い花びらから、ふと視線を逸らすと、何か思いついたように、また話を始めた。

「どうも、寺の竹やぶがいつ白い花をつけるかと気になりましてな。この頃、眼に見えて勢いがなく、一昔前の竹林の美しさがなくなりかけているようで、裏の穴倉に野犬が住みつき、竹の根を傷めたのがげんいんかなとも思っているのです」

 その話に、3客の防大の教授である佐山がつられた。

「最近、野犬が随分と殖え、困ったものですな。つい先日も、材木座の海岸で少女が野犬に襲われ、大怪我をしました。鎌倉には千を超える岩穴がある。また、戦時中には横須賀に米軍が上陸するというので、その穴を更に私なども掘らされた方ですが、、、野犬の住処には格好で、時には群れを成して餌をあさるとか」