源造も、宗一もじっくりその青写真に見入った。今までの設計図には色々と注文をつけた源造だったが、今度の設計変更には何も口出しをしなかった。それまでに、宗一と大森は充分自分の考え方を理解してくれていると判断したのだ。
「うん、なるほど、充分ゆとりが出来たようだな。1階から4階まで外来と手術室、5階からがそれぞれの病室かー個室も増したな。二人部屋も、そうか大部屋が一つ減っているのかー」と独り言のように呟いた。
現在の田島病院は、大部屋中心であった。8人部屋が一番多く、個室は少ない。
源造は、ちょっと不満げであったが、これも新しい病院経営のあり方と、患者の高級化の志向性もあり、やむおえないことであった。
そのかわり、田島病院の方は、小児科、神経内科中心で、特に患者の家族に医療費負担が多いということで、8人部屋中心ということになったわけだ。それは、源造の考え方が充分生かされたもので、新病院の方に個室が多く、その上各フロアーに特別室があることにも口を挟まなかった。
院長室に西日が深々と差し込んできた。源造はその西日を受けて、窓越しに佇み、新病院の予定地である裏庭を見詰めていた。大銀杏からの木漏れ日も眩しいほどだが、いまが一番うっそうたる木々の緑が美しい。その前に広がる芝生も青々としている。
「なあ、宗一、あの広い庭ともいよいよお別れだな。どうだろう、新病院の玄関脇に初代田島病院院長の銅像を建てたら、あののん兵衛だった親父も土の下で喜ぶだろう」
宗一も窓の外に眼をやった。
「それはいいですね。一つ立派なものにしましょう」
源造は宗一と自分がこんなにも心の通う親子になれたことが嬉しかった。あれほど、この父を嫌い、自分も宗一に怒りを覚えた20年が嘘のようだった。
(澄子よ、お前のお陰だ。いい息子を残してくれたよ。この姿をお前見てるかい。一度でもいいから、生きているうちにこうしてやれればな、、、お前の命は立派に生きているぞ。嫁の綾子も、わしにはとてもよくしてくれる。あれはお前を随分慕っていたようだな。それも、これも、みんなお前の苦労のお陰だよ)と源造は心の奥で妻に合掌した。
源造が感慨深げに、庭に眼を遣ったまま茫然としているうちに、宗一と大森は院長室をそっと出て行った。
(澄子よ!わしも歳のせいかな。近頃、女々しくなっていくようだ)
源造は、押さえていた目頭が熱くなり、両頬に涙が落ちていくのを止めようがなかった。
4 つづく