午後の日差しが差し込んできた院長室で、毎月曜の院長回診をすませた源造は、のんびりとくつろいでいた。今では余程のことがない限り、担当医と副院長の宗一に患者のことはまかせきっていた。回診後の会議にも出たり出なかったりである。それでも、毎週水曜日の全体会議には必ず顔を出していた。それは宗一の強い注文でもあった。その全体会議は、医療問題ばかりではなく、経営上の問題などの調整会で、毎回懇親会的雰囲気だった。だが、今は新病院の設立と大問題が持ち上がって、それどころではない。
「コンコン」と、遠慮がちにドアをノックする音が聞こえた。
「お入り」と、源造は言って、椅子を立つでもなかった。
「毎度、、、。今日は遅くなりやした。すんません、院長先生」となれなれしくそば屋の親父がいった。
「どうだい、体の具合は?」
「へえー、おかげさんで、もうすっかりよくなりやした」
「そうかい。だが、お前さんの病はいつ再発するかもしれんからな。酒はほどほどにすることだよ」
「へい、へい。こればっかしはどうも、、、。院長先生にはかなわねえや。昼まっからの酒の臭いまでかぎつけられちゃ」
「私の親父が、いつもそうだったよ。何しろ酒が入らなければ、患者も診れないほどののん兵衛でね。お陰で、大分、命を縮めたがね」
そば屋の親父は、もりそばをいつものように、テーブルに3つ広げた。
「まったく、酒もほどほどがいいんで、、、。院長先生もいつまでもお達者なのは、酒もタバコもやらないからで、もっぱら抹茶の方ばかりでいらっしゃる。わたしゃ、どうも、そっちの方は分りませんが、やっぱり、体にはいいんでしょうがね」
副院長の宗一と事務長の大森進が入ってきた。
源造が登院する日は、院長室で昼食を共にするのが習慣になっている。