日本の高すぎる法人税が、企業の国際競争力を削いでいるから、法人税を減税すべき、という意見がある。

また、一方では、社会保障保険料の負担を考えると、むしろ日本の企業は優遇されているという意見もある。

今回は、どちらが正しいかには、立ち入らない。
ただ、法人税を減税して国際競争力をつけようという意見が、意味の無い意見であることを述べる。

さて、では、法人税を減税したら、どうなるだろうか?
確かに、一時的には、企業は競争力が高くなる。
そして、その結果、日本は全体として輸出が拡大し、貿易黒字が出る。
貿易黒字が出るとどうなるか?
為替相場は円高になる。
円高は、日本企業の競争力を削ぐことになる。
結果として、日本の製造業は、減税以前と同じかそれ以下の国際競争力の水準になる。

…これはつまりどういうことか。
国際貿易の経済学の基本であるが、貿易黒字のある国の通貨は、赤字国の通貨に対して切り上がるのである。
どこまで切り上がるかというと、黒字国の国際競争力が赤字国のそれと等しくなるまでである。
と、いうことは、国際競争力を無理に維持しようとすることは、無意味であるということだ。
法人税減税によって国際競争力をつけようなどというのは、経済が全く分かっていないと自ら告白するようなものである。

さらに話を進める。
減税の話は置いておいても、国際競争力を高めるために生産効率を上げると、必要な労働力が減り、労働需要が減る。
すると非自発的失業が増え、国内の需要は減少する。
マクロ経済を考えると、国内で生産したもののうち、消費しきれなかったものが輸出なのだから、輸出は、さらに増大し、また国内需要が減っているから輸入は減少するので、貿易黒字はさらに大きくなる。
貿易黒字の増大は、自国通貨高を発生させ、国際競争力は、さらに減少する。
この程度のことも分からず、円高になると騒ぐ企業経営者は、無能であろう。
やや蛇足だが、以上のサイクルを繰り返すことによって、国内の需給ギャップが拡大することで、現在の日本の不況のような経済状態になると考えられる。

結局、貿易黒字を出すという意味で国際競争力を求めるのは、意味がないと言える。
あまり知られていない事だが、日本の高度経済成長期は、好況になると貿易赤字が出ていたのである。
…そして、これが正しい経済のあり方であろう。
好況時に貿易赤字が出ることで、国際競争力を維持する。
不況時には、貿易黒字が出て、それが生産を拡大させ、それに伴い労働需要が増大し、その結果の消費の拡大が起きる。
現在のように、不況でも好況でも、貿易黒字を出し続けようと頑張ることは、無駄であるばかりか有害である。

ただし、現状は不況であるので、一時的な措置として減税を行うことは、悪くはない。
その変わり、どこかの時点で国内需要が生産を追い越す形を作らなければならない。つまり不況からの出口戦略と、円安へのシナリオが描けてなければ、ダメである。
この二つの見通しが立たない状態での企業減税は、国家財政の面からも、また社会経済政策の面からも、消費性向の高い低所得者に負担増をもたらし、さらなる需要の減少を生み出すだけに終わる可能性があるので絶対にダメである。
そして、減税は恒久的な措置ではなく、好況時にはスタビライザーとして再び増税をしなくてはならないのである。