ラジオ:ソ連の政治指導員向けラジオ1 | 勢州たぬき工房の木工したり直したり

勢州たぬき工房の木工したり直したり

2018年に小さな工房を自分で建てました。
包丁や大工道具を研いだり直したり。
他も色々作ったり直したり。
元々は生産設備の開発屋。
Twitterにも同じハンドルで出ています。日々の最新情報はTwitterへ。

こんばんは。たぬきです。

普段の木工とは毛色を変えて今回はラジオの回路について書いてみようと思います。


旧家の当主であり、医師であり、古今東西遍く博識で鳴る亜留間先生という方がおられます。

その先生がTwitterにてソビエト時代の公務員の内、限られた人だけが持てたラジオを回路図と共に紹介されてます。

これが実に興味深い回路です。


これが、そのラジオ。


下の写真の回路にしびれました。
ちな、1973年でトランジスタはまだゲルマニウム。日本はと言うと70年代のラジオや電子工作の定番だったシリコントランジスタ2SC372は60年代からありました。
当時のソ連ではシリコン半導体がまだ作れなかったのです。宇宙開発でアポロが有人月面着陸をするまではアメリカを凌いでいたソ連ですが、シリコン半導体は遅れていたんですね。

これがその回路の拡大。
まずは左半分で高周波増幅ー周波数変換と局発ーフィルターまで。

右半分
中間周波増幅ー検波ー低周波増幅ー低周波電力増幅。
電源回路(定電圧)まで。

以下回路の説明や特徴など。

●同調回路

中波・長波はバーアンテナ。短波は外部アンテナを使用
●高周波増幅は1段だが贅沢にもカスコード回路を採用。当時はトランジスタ(以下Tr)の周波数特性が悪かったのでしょう。その分、回路を工夫してるかと。短波が無ければ通常のエミッタ接地で済んだでしょうね。
と思ったらこのラジオは50MHz近くまで受信できる仕様でした。

●周波数変換は他励式
高周波入力側は長波中波を除きRFトランス結合。これも周波数特性の悪さをカバーすべく効率の良いトランスを採用したかと。わざわざ4バンド分用意するのはコストも手間もかかったでしょうに。他励式の採用も手堅い設計。自励式よりも安定したでしょう。
●フィルタ
周波数変換された後、トランスでインビーダンス変換しフィルタを通る。フィルタの形式は不明。セラミックかLC辺りか?
●中間周波数増幅
CR結合3段。これは珍しい。中間周波数トランス結合が一般的だし利得も取り易いかと。しかも3段有ればフィルタも要らんだろうし

●中間周波増幅回路に限らず回路全体に言える事だけど、バイアス回路が凝ってる。固定バイアスと自己バイアスの折衷になっていて平滑コンデンサまで付けてる。動作点の安定にこだわりを感じる。確かにゲルマニウムTrは動作点が変化しやすいけど、ここまで必要かなぁ。日本の6石スーパーなら固定バイアスが一般的かと。

●AGC
これも独特。中間周波数増幅の出力をトランスで受けて出力コイルは2つ。1つはダイオード検波してボリュームへ。
1つはAGC用で検波後Trで増幅。これを中間周波数増幅第1段のエミッタに繋いでる。手堅い。
もしかすると仕様によってはシグナルメーターを付けられる様にしているのかも。
6石スーパーなら音声AGC兼用で検波後、増幅せず第1段のベースに繋ぐでしょう。

●低周波増幅
CR結合で2段。バイアスはやっぱり固定+自己の折衷。
回り込み防止も兼ねているのかもしれない。外部振動の影響を受けにくくするとか、何らかの意図が有るはずなんだけど、それがわからないね。

●低周波電力増幅
入出力共にトランス結合のプッシュプルで1段。ここは見慣れた日本の回路と同じ。動作点安定の為にバリスタも採用。出力トランスの2次側から前段のエミッタにNFBを掛けてる。
●外部電源
外部電源との接続には定電圧回路を通してる。逆接防止も付いてて手堅い。

●感想
というわけで回路をひと通り見てきました。感想は安定動作を目指した手堅い設計である事。また、ラジオと言うよりは通信機寄りの回路が多かった様に思います。ここまで凝ったなら序にモールスやSSBも聴けるようにBFOまで付けたら良いのにとも思いますが。
あと、バンド切替スイッチは接点数が多いだけに接触不良が多かったんじゃないかな。金メッキ接点なんかを奢ってたかもしれませんね。

と言った所で、今日はここまでです。
以上、たぬきでした。ではでは。