古今和歌集
{伝紀貫之筆(861年~946年)}

◆古今和歌集1◆ 

春歌上

[ふる年に春立ちける日よめる] 在原元方(ありはらもとかた) 東京・五島美術館蔵

「年のうちに春は来(き)にけり 一(ひと)とせを 去年(こぞ)とやいはむ 今年とやいはむ 」

「正月がこないうちに、はや立春がきてしまった。これから大晦日までの残りの日は、去年と呼ぶべきなのか、それとも今年と呼ぶべきだろうか。」

『礼記(らいき)』(月令(がつりょう))に
「立春の日、天子 親(みずか)ら三公九卿諸侯大夫(さんこうきゅうけいしょたいふ)を帥(ひき)ゐて、以て春を東郊(とうかう)に迎え」云々(うんぬん)とあるように、天子の招来によって春が立つというのが、古代王朝 にとってのあるべき姿であった。

[礼記とは] 儒教の経書。五経の一。戦国・秦・漢の時代の礼(れい)の理論や制度に関する儒家
の説を集めたもの。漢の戴聖(たいせい)の編著という説がある。「儀礼(ぎらい)」「周礼(しゅらい)」と合わ せて三礼という。

[月令(がつりょう)とは]
①1年、12ヶ月の、それぞれの時候に応じて、しき行うべき政令。 また、その政令を記録したもの。「礼記(らいき)」に月令編がある。
②転じて、時候。

◆古今和歌集2◆

[春立ちける日よめる] 紀貫之(きのつらゆき) 東京・五島美術館蔵

袖ひちて むすびし水の 凍(こほ)れるを 春たつ今日(けふ)の 風やとくらむ 」

「袖の濡れるのもいとわず手で掬(すく)った、あの水は、冬の間は凍ってしまっていた。しかしそれも、立春の風が解かしてくれているだろう。」

『正義(せいぎ)』は「よどみなくゆく月日を、年立ちかはる今日しも、立ちかへりてつらつら感じたるなり」という。

◇ひちて「ひつ」は、ぐっしょり濡れる意の四段活用動詞。後に「ひづ」と発音され、上二段
活用に変化した。
◇春たつ今日の・・・「孟春(春のはじめ)の日、東風凍を解く」『礼記(らいき)』(月令(がつりょう))を踏まえた表現。

[正義(せいぎ)とは]
①経書の解釈書の名。正しい解釈の意。唐代の五経正義がその例。
②人間のふみ行うべきただしい道。
③ただしい議論。正義。

高野切第一種

「高野切」とは『古今和歌集』を書いた写本の一部で、高野山に伝来した切(きれ)(断簡(だんかん)) という意味である。それは巻第九の巻頭(大阪・湯木美術館蔵)に相当し、豊臣秀吉から高野山の木食応其(もくじきおうご)(1536~1608年)に与えられ、高野山文殊院に伝来したものである。 応其(おうご)は連歌を好み、38歳で高野山で修行を積み、その後天正13年
(1585年)の秀吉の高野山攻略に際して和議を斡旋して以来、秀吉に重用されたと いう。そうした経験から見て、応其(おうご)の「高野切(こうやぎれ)」の拝領が推察される。今日、このつ れになるものは、すべて「高野切」の名で呼ばれている。

 



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