精神科診療には他の身体診療科にはないひとつの重大な問題があります。それは、患者の体に直接触れるという形での診察が(外来では)できないことです。(入院患者には普通にやります)それなのに内科(身体)疾患を除外しなければならない。これはかなりハードルの高い業務です。しかし「できません」では済まされません。
こういう大抵の精神科医が嫌がる領域を専門とする医者はどこにいっても重宝されます。私の指導医がそうでした。内科疾患を除外することに執念を燃やしていたので、内科の教科書もしょっちゅう読んでいました。内科専門医は内科専従でないと取得を許されないのに、習得レベルの確認や知識の維持にと言って内科専門医試験も受けていました。精神科専門医指導医を持っているのに。

このレベルの医者に運よく当たった患者は幸運です。きっちり内科疾患を除外してもらえる。たしか20代後半の女性だったでしょうか。長いことBasedow病を見逃され、先生が初診で拾い上げすぐ治療をすることで精神科の薬をほとんど使わずして精神症状は消退しました。その患者は以来ずっと、指導医のところに通院しています。甲状腺の治療は他の専門機関でフォローされているのですが、それまで医者にずっと見逃されていた病気を見つけてもらったという感謝の気持ちがそうさせているのでしょう。しかし診察といってもほとんど世間話や互いの悩み告白だったりです。強い信頼関係ができているからこそのスタイルですね。

診察した医者によって、診断に必要な情報を獲得する力に差があります。一般の人にはそこら辺の話はほとんど知られていません。が、診断に必要な情報を集められない医者が正確な診断などできるはずもなく、当然治療力にも差が出ます。

今回例に出した患者を最初診察した時、指導医もその患者の体に触れる診察はできませんでした。しかしBasedow病を見抜いた。それは、服の上からでも視診でチェックできるものはチェックし、後は口頭で「こういう症状はありませんか」「ああいう症状はありませんか」と医者の方から情報を獲りに行くという姿勢をみせたから、無事確定診断にたどりつくことができたのです。