子どもの頃
土日はたいがい
テレビでお芝居観てた
 
それは
吉本か松竹か
新喜劇で
 
私は、
ドタバタの吉本よりも
松竹の人情喜劇の方が
気に入ってた
 
小学生の私は
自分の家からそう遠くない
自転車なら15分の場所に
劇場があることには
全然
気ぃつかなんだ
 
連れてって
もろたことが
全くなかったから
 
家から遠い宝塚に
行ったことはあっても
 
道頓堀の芝居小屋には
行ったことがなかった
 
 
 
 
中学生になって
岡山へ
引越してからも
土日にお芝居は観てた
 
 
 
私が知ってる
松竹新喜劇は
藤山寛美が主役で
 
浪花千栄子が
出てたのは
知らない
 
時々
ヨボヨボの爺さんが
舞台に現れて
 
ふたことみこと
台詞を言うて、
笑かしてた
 
 
お客さんからかかる
「天外やないかぁ」
という声は温かく、
 
拍手を浴びて
はける天外を見送る
寛美の視線も、
 
慈愛に
満ちたものやった

そのシーンは
今も鮮明に
眼裏に焼き付いてる
 
 
「あの爺さん、誰?」
と思てた私の疑問は、
 
「おちょやん」
を観て、やっと
雲散霧消した
 
あの爺さんが
一平やねんなぁ
 
 
 
私にとって
浪花千栄子は
映画女優で
 
オロナインの看板の
大阪のお母ちゃん
という記憶しかない
 
来週、
いよいよ修羅場が
待ってるらしい
 
天外と千栄子が
袂を分かつ
時が来る
 
 
 
それにしても
悔しいのは
千栄子のいてた
新喜劇を
観られへんかったこと
 
ホンマに
腹立つ
 
一平、アンタ
何してくれてんねん!
 
 
 
 
 
身に染みついている
話の持って行き方
 
芝居の勘や
台詞の間ァは
新喜劇から得たもので
 
高校、短大で
演劇部やったのも
 
大人になって
朗読をしてたのも
 
全部、
原点は新喜劇にある
 
 
 
そのくせ自分が
新喜劇の役者になろうとは
いっぺんも思わなんだのは
 
ずっと、ずーーーっと
雲の上にあるて
思てたからやと

今更ながら気づいた
 
 
 
曾我廼家鶴蝶という
女優さんがいてはって
 
本当に素敵な
御寮人さんやお母はん役の
人やった
 
憧れはあったが
自分がああなれるとは
つゆほども思えなかった
 
それほど偉大な
女優さんやった
 
 
 
喜劇は、
ホンマに難しい
 
他人を泣かすのは
簡単やけど
 
泣かした上に
さらに笑わすんは
至難の業で
 
とても及ばない
と思てた
 
 
それと、あくまで
寛美が主役の新喜劇で
 
自分は
絶対主役になれない
ことに
 
耐えられないとも
思ったのだ
 
 
 
あの時は
芝居は主役だけでは
成り立たないことには
思いが及ばなかった
 
ましてや
寛美があない早うに
他界するとは
夢にも思わなんだ
 
 
 
 
いろいろあって
芝居の道には
進まなかったが
 
観るのは今も楽しい
 
新喜劇の舞台裏を
垣間見るような
「おちょやん」も
 
存分に
楽しませてもろた
 
 
 
 
 
寛美の孫、扇治郎
演ずるところの
須賀廼家万歳のモデルは
 
曾我廼家五郎八やと
聞いた
 
 
五郎八さんは、
親友Sちゃんの
お父さんのお友達で
 
Y君とSちゃんの
結婚式にも
出席してはって
 
司会の二人に
ダメ出ししたらしい
 
 
 
あはは
喜劇王
怒るの無理ない
 
私の結婚式の司会者も
その二人やったから
よ〜お知ってる
 
臨機応変も
へったくれもない
 
面白くもなきゃ
盛り上がることもない
 
そういう
司会やったに違いない
 
 
 
でも
堪忍したって
 
その二人、
それまでの人生に
 
そこまでオモロイことを
要求されたことが
いっぺんもなかってん
 
 
新郎と同じ
某国立大理学部の
先輩で
 
なんぼ生物学科やから
というても
 
生き馬の目ェを
抜いたことは
なかったと思うわ
 
 
今もみんなで
仲ようしてるのに免じて
 
五郎八さんも、
どうか、笑って
赦したってちょうだいね