-カムフラージュ-
(ヤマシギの話)
鎌倉時代の有名な歌人・西行法師が、
『心なき身にもあわれは知られけり
鴫立つ沢の秋の夕暮』
と詠んだ神奈川県大磯には、和歌を志す者の心の故郷とも言える『鴫立庵』という俳諧道場がある。いかにもと思わせる瀟洒な、風情あふれる庵である。
『鴫立つ沢』の鴫とは言う迄もなく、
鳥のシギである。
シギと言えば、忘れられない思い出がある。
国道467号線(町田線)沿いに、
『上和田野鳥の森公園』(大和市)という、
昔の雑木林をそのまま残した一画がある。
そこはやや窪地になっており、水がジワジワと湧き出して流れている。
周囲は住宅地でもあり、決して清水とは言い難いが、ちょっとした湿地を形成している。
ある暖かな秋の午後。
妻の買物に付き合わされた帰路、かの公園を散歩してみようということに相成った。
どんぐりの実があちこちにこぼれ、静かな園内には人っ子一人いない。
いや、一番奥まった所に、長い望遠レンズを装着した高級カメラを、三脚に固定して楽しそうに語り合う二人連れがいた。
定年退職した70代と思しき仲良し二人組が、そのカメラを覗いてみないかと誘ってくれた。
渡りに舟であった。
何が見えるのかな
わくわく、どきどき・・・
-続く-
by耳順