-生命の輝き-
(カクテルパーティー効果)
またまた『耳順』です
昔、ラジオ番組で「子供電話相談室」という、人気の長寿番組がありました。
確か、平日の午後4時から30分間の放送で、毎回各界の錚々たる先生を数人招いて子供の珍問・奇問に答えるというものでありました。
先生方も大変だったようで、参考書を持ち込んで悪戦苦闘したり、「次回迄の宿題にして下さい」というようなことも少なからずあったようでした。
そんな質問のひとつです。
「この前、雨上がりに空を見上げるとすごく大きく、綺麗な虹が出ていました。僕の持っている“バカチョン・カメラ”で撮ったのですが、何も写っていませんでした。虹はカメラに写らないんですか?」
※バカチョン・カメラ=広角レンズを搭載した、ピントを合わせる必要のない簡便カメラ。誰にでも撮れるというところから、こう呼ばれた。
担当の先生は「カメラで撮れる筈ですが・・・・。」と歯切れの悪い答えをしていました。
私が“カクテル・パーティー効果”という字句を初めて目にしたのは、もう40年以上も昔のことですが、どうやら最近になってこの言葉が日本でも市民権を得てきたようです。
アメリカの大脳生理学者が命名した言葉で、何ともしゃれた言い回しだなあと感じたことを覚えています。
アメリカ人の好きな、大から小までの様々なパーティー(カクテルパーティ)。その会場の音楽と人々のおしゃべりの騒音の中で、恋人が耳元でそっとささやく声。
「愛してるよ」
という言葉だけを聞き取る能力、という意味からこれを“カクテルパーティー効果”と呼んだようです。
この働きは大脳の関門作用と呼ばれるもので、必要でない情報は出来るだけ遮断し、関心のある事柄のみに集中する能力を言います。
さて、先程の“子供電話相談室”ですが、その子供の心の目には、雨上がりの虹は余りにも見事で、空いっぱいに広がる大きさであったことでありましょう。その時の子供の感動がとても良く伝わって来ます。
しかし、実際には広大な天空の一部にかかる虹は、さほど大きくはなく、色も薄く、広角レンズで撮った写真などでは見分けがつかなくなってしまったということなのでしょう。
ただ単なる客観的な風景と、感動する心で見る風景は全く異なるもののようです。
静岡県富士宮市に富士山の伏流水が岩壁から湧き出し、優美に落下する『白糸の滝』があります。
そのすぐ近くに、この『白糸の滝』とは全く対照的に、豊かな水を轟音を立てて落下させている『音止めの滝(おとどめのたき)』があります。
どちらも“日本の滝百選”に選ばれている名瀑です。
曽我兄弟が父の仇を討とうとして、この滝の傍らで密談を始めたが、滝の轟音で話が聞き取れない。そこで神仏に念じたところ、たちどころに滝の音が止んで見事に本懐を遂げたという。
その場所は“曽我の隠れ岩”として今も残る。
何も知らずに“音止めの滝”の名の由来を聞けば、ただの伝説として聞き流すところですが、今や貴方と私はもう一歩踏み込んでこの話を聞くことができるでしょう。
素晴らしき哉、人間-その生命の輝き
-耳順-