【 高みの見物 】其の六 | 医療・介護のハッピーライフ

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-“犬”、この愛らしき生き物-


昔々の話である。

私(耳順)が少年時代を過ごした所は、海際まで山が迫っている場所が何カ所もあった。

その突端を回り込むとまた別の世界が広がった。


海と山。


少年と犬にとってはこれ以上ない、格好の遊び場であった。

犬と一緒に遠出することも多かった。

もちろん鎖を付けることはない。

“ラン”(飼い犬の名前)は、私の前になり、後ろになりながら勝手に冒険を楽しんでいる。


かの犬はよく吠えるのだが、何とも臆病でもあった。

自分の守備範囲を出ると、尻尾を垂らし、自ら吠えることなど皆無であった。

特に他の犬に吠えかかられると、もう逃げの一手である。


或る日の冒険は、海を渡り、山に分け入り、かなりの遠征となった。

そこに突然、一軒の人家が現れ、そこの犬に猛烈に吠えられた。


特に大型犬でもなく、その家の敷地内にいるだけにもかかわらず“ラン”はすぐに反応した。

踵(きびす)を返したのだ。

一度も振り返ることなく、一目散に逃亡し、すぐに私の視界から消えた。


それから約2時間後、自宅に戻った私は真先に犬小屋を覗いた。

その犬小屋というのは、ドラム罐の一方をくりぬいて横に倒し、下に簀の子(すのこ)を敷き、その上にゴザと古毛布を敷いたという代物であった。


かの地から無事に自分の家に戻れたかどうか、私は心配であった。


『 ラン!! 居るか~?』


居た!!

犬小屋の奥に小さく丸まっていた。


顔を合わせると、ゆっくりと立ち上がるが、尻尾を下に巻き込んだまま小屋から出て来ようとしない。身悶えするように動き回るのみである。

身も世も無いというという風情であった。


主人を放り出して、自分一人で敵前逃亡した行為を大いに恥じ、合わせる顔がない・・・・というところか。犬小屋の最奥部から全く出て来ない。

潜り込んで引っ張り出そうとしても、頑として動かない。


『 ラン!怒ってないから。』

『 もう許してやるから出ておいで!』


暫く経ってからであった。自ら小屋から出て来たのは。

本人の心の中で一応、贖罪が終わったということのようであった。

ただ、その日は終日元気がなかった。


“恥じ入る犬”・・・・


この人間以上に人間っぽい犬に乾杯!!

-耳順-


【 湘南台 市中見廻り帖 】