-“犬”この愛らしき生き物-
再び『耳順』です。
『十年一昔』と言いますが、その一昔を一体幾つ並べたら我が少年時代まで遡ることができるのだろう。
♪私が生まれて育った所はどこにもあるような、海辺の小さな港のある町よ~~♪
♪鷗(カモメ)と遊んで鷗と泣~いた幼いあの頃に~~♪

鷗と遊ぶことはさすがにありませんでしたが、海と遊び、犬とまぶれて過ごした日々が鮮明に残っています。
今回は犬についての話をすることにしましょうか。
きょう日、心の寂しさを埋めるためにペットとして犬を飼う人は多い。それも多くは座敷犬であり、ブランド犬であるようです。
その犬は、今日では思いも寄らないことですが、放し飼いであり、鎖を付けるのは狂犬病の予防接種に連れて行くときぐらいのものでした。
※当時は狂犬病(恐水病)の発生もあり、その為か保健所による野犬狩りも行われていた。
よく吠える中型犬で、名を“ラン”(♀・雑種)と言った。
夏の太陽も沈んだ逢魔が時、外出から戻ってきた私はある悪戯を思い付いた。
わざと足音を忍ばせ、・・・・そう、あたかも泥棒のように自宅に近付いてみたのだ。
案の定“ラン”はものすごい勢いで吠え始めた。
今こそ番犬たる自分の職務を果たすべき時、とでも心得ているかのように吠えまくり、恐らくいつでも飛びかかれるように姿勢も低くしているようであった。
暫くそのまま吠えさせた後、とうとう私は声を出した。
『 こら~! ラン!!』
その刹那「キュイーン」と吠え声を飲み込むような音が聞こえた。
(「しまった!ご主人だ!」というところか。)
次の瞬間、かの犬が取った行動を私は生涯忘れることができないだろう。
一瞬の間を置いて、前にも増した猛烈な吠え声を発しながら、私の立っている所から僅かに離れた立木の茂みの中に走り込んだのだ。
さらに念を入れて、その木の茂みの周辺を回りながら、時には後退りしつつ吠え、唸り続けた末、ようやく私の元に戻ってきて、いつもの挨拶と相成ったのだった。
『キュ~ン、キュン、キュン、キュン』
※(訳)お帰りなさい!今私が吠えたのは決してご主人にではなく、あの木の茂みに怪しい気配があったからですよ!でも、何もなかったから、もう安心して下さい。
私の居る位置から、ほんの少ししか離れていない暗がりを選んだのは、犬なりにぎりぎりの整合性を持たせた、瞬時の、そして苦汁の判断の結果のようであった。
このときの歓迎セレモニーは、普段の何倍かであったことは言うに及ばない。
“体裁を取り繕う犬”・・・・・
この余りにも人間っぽい、かの犬に乾杯というところか!-耳順-